2026/02/01(日)「トレイン・ドリームズ」ほか(1月第5週のレビュー)

 トランプ大統領の妻メラニアを描くドキュメンタリー「メラニア」がIMDbで1点という信じられないほど低い点数を付けています。5点満点じゃなく、10点満点での1点ですからね。ロッテントマトは11%。観客スコアは99%なんですが、トランプ支持者の投票なんでしょう。監督は「ラッシュアワー」「ヘラクレス」などのブレット・ラトナー。キャリア最低のスコアになってます。手を抜いたんじゃないですかね。

「トレイン・ドリームズ」

 アカデミー賞4部門(作品、撮影、脚色、歌曲賞)にノミネートされた作品。鉄道建設のための森林伐採の仕事に携わり、正直に孤独に生きた男の生涯を描いています。静かで美しく、胸が締め付けられるような深い悲しみをたたえた映画です。

 20世紀初頭、幼い頃に両親を亡くしたロバート・グレイニアー(ジョエル・エドガートン)はワシントン州の森の中で成長し、国の鉄道事業拡大に伴う森林伐採の仕事に従事する。教会で出会った美しいグラディス (フェリシティ・ジョーンズ) と結婚。ロバートは一緒に暮らす家を小川のほとりに建てたものの、1年の多くは出稼ぎで妻と幼い娘と離れ離れになってしまう。将来は出稼ぎしなくて良いように広い農場を作って金を蓄え、製材所を建てようと、グラディスと夢を語り合っていた。そんな時、突然の悲劇に見舞われる。

 貧しいけれど、妻と娘との暮らしは喜びに満ちていました。「あの頃が一番幸せだった」というナレーションが後の悲劇を予感させます。

 デニス・ジョンソンの原作をクリント・ベントリーとグレッグ・クウェダーが脚色。この2人は「シンシン SING SING」(2023年)の脚本も共同で書き、クウェダーが監督しました。今回はベントリーが監督しています。昨年1月のサンダンス映画祭など各地の映画祭で上映後、11月からNetflixが配信しています。作品賞には届かないと思いますが、撮影賞は受賞の可能性があるのではないでしょうか。
IMDb7.6、メタスコア88点、ロッテントマト95%。1時間42分。

「ロスト・バス」

 アカデミー視覚効果賞ノミネート。2018年にカリフォルニア州パラダイスで起きた史上最悪の山火事「キャンプファイア」を描くディザスター映画です。逃げ遅れた小学生22人を乗せたスクールバスの運転手(マシュー・マコノヒー)が迫る炎を必死で避け、安全な場所を求めて走ります。

 監督はポール・グリーングラス。リジー・ジョンソンの原作をグリーングラスとブラッド・イングルスビーが脚色しました。大まかな事実に基づいているそうですが、やはりドラマ的には弱い部分や冗長な部分が散見されました。山火事のVFXは本物かと思えるような出来でした。

 この山火事の犠牲者は85人、約18000棟の家屋が焼失したそうです。映画は昨年9月にトロント映画祭で上映後、限定公開を経てアップルTVで10月から配信しています。
IMDb6.8、メタスコア64点、ロッテントマト88%。2時間10分。

「パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこに向かうのか?」

 アカデミー長編ドキュメンタリー賞候補。フロリダ州の住宅地で隣人トラブルから発砲に発展した事件を描いていますが、驚くのは主に警察官のボディーカメラと容疑者取り調べ中の記録映像で映画を構成していること。これだけで事件の経過が十分分かります。アメリカの警察はこういう映像を提供するんですね。日本の警察はまず提供しないでしょうし、その前にボディーカメラがありません。

 Googleの要約によると、アメリカの正当防衛法は「安全に逃げられる状況でも退却義務なく、自己防衛のために致命的な武力(銃器含む)を使用することを容認」する法律。フロリダ州が全米で初めて2005年にこの法律を制定しましたが、その後、殺人が著しく増加したというデータがあるそうです。

 映画が描くのは子供の遊ぶ声がうるさいとか、庭に不法侵入されたとかでたびたび警察を呼んでいた一人暮らしの高齢女性が子供の母親をドア越しに銃で撃った事件。母親はドアをはげしく叩いていたそうですが、それを撃つのが正当防衛になるかどうかが焦点となります。

 タイトルの「パーフェクト・ネイバー(非の打ち所のない隣人)」はこの高齢女性が自分について警察に言うセリフです。周囲の人たちからは嫌われているんですが、それが本人に分からないのはよくあることです。監督はジータ・ガンドビール。主にテレビでドキュメンタリーを撮っている女性監督です。今回のアカデミー賞では「The Devil is Busy」で短編ドキュメンタリー賞にもノミネートされています。
▼IMDb7.1、メタスコア83点、ロッテントマト99%。1時間36分。

今年のアカデミー賞ノミネート作品のうち、劇場未公開で配信で見られるのは上記3本を除いて以下の通りです。
▼Netflix
【長編アニメーション賞ほか】「K-POPガールズ デーモン・ハンターズ」
【短編ドキュメンタリー賞】「あなたが帰ってこない部屋」
▼アップルTV
【長編ドキュメンタリー賞】「あかるい光の中で」
▼SAMANSA
【短編ドキュメンタリー賞】「ジェーン・オースティンの生理ドラマ」

「喝采」

「喝采」パンフレット
「喝采」パンフレット
 認知症でキャリア終焉の危機に直面したブロードウェイの大女優を描くドラマ。前半はよくある認知症の初期症状が描かれ、もはや新味がないなと思いながら見ていましたが、クライマックスが圧巻でした。上演される「桜の園」の内容とオーバーラップしていく主人公の境遇、疎遠だった娘との和解、ジェシカ・ラングの名演が押し寄せて、見応えがあります。

 主人公は舞台の大女優のリリアン・ホール(ジェシカ・ラング)。リリアンがかかるのはレビー小体型認知症。レビー小体というタンパク質の塊が脳に蓄積し、神経細胞を減少させる変性性認知症のことだそうです。アルツハイマーのほか、「殺し屋のプロット」の主人公のクロイツフェルト・ヤコブ病、脳血管障害など認知症にもさまざまな要因がありますね。

 共演はキャシー・ベイツ、ピアース・ブロスナン、リリー・レーブら。監督は「ナイト・ウォッチャー」(2020年)のマイケル・クリストファー。
IMDb7.3、メタスコア78点、ロッテントマト89%。
▼観客10人ぐらい(公開5日目の午前)1時間50分。

「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」

「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」パンフレット
パンフレットの表紙
 5年ぶりの続編。作画とアニメの技術は高いレベルなのに、ストーリーテリングが決定的にうまくないですね。いや、その前に話がちっとも面白くないと言うべきか。エモーショナルな部分に欠け、個人的にはまったく盛り上がらないまま終わりました。

 キルケーの魔女とはギギ・アンデルセンを指すのだと思いますが、ギギにぼんやりした予知能力はあっても、魔女と言うほど魔性の部分はありません。それは十代という設定(しかも80代の富豪の愛人)に無理があるからでしょう。魅力的なキャラクターですが、もっとファムファタール的側面を強調したいところであり、ハサウェイはギギに翻弄されてもっとボロボロになった方が良かったと思います。三部作の真ん中の作品にはそうしたネガティブな展開が許されます。

 ファーストガンダムにつながる部分のみ面白かったです。ただ、ハサウェイとアムロが邂逅する場面は「光る宇宙」のアムロとララァを思わせる演出でした。

 僕は前作(2021年)は楽しめたんですが、IMDbの評価は6.6にとどまってます。完結編では捲土重来を果たしてほしいです。
▼観客多数(公開初日の午前)1時間48分。

「恋愛裁判」

「恋愛裁判」パンフレット
「恋愛裁判」パンフレット
 アイドルグループのメンバーが恋人のもとへ走り、所属事務所から訴えられるドラマ。モデルになった損害賠償請求訴訟の裁判は2件あり、1件はアイドル側、もう1件は事務所側が勝ったそうです。深田晃司監督作品としては常識的な展開ではありますが、悪くない出来だと思いました。

 アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバーは山岡真衣(齊藤京子)、清水菜々香(仲村悠菜)、大谷梨紗(小川未祐)、三浦美波(今村美月)、辻元姫奈(桜ひなの)の5人。センターを務める真衣は中学時代の同級生・間山敬(倉悠貴)と偶然再会し、恋に落ちる。事務所との契約書は恋愛禁止の条項があり、真衣は恋愛感情との間で悩む。しかし、ある事件をきっかけに真衣は敬のもとへ。8カ月後、所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は事務所社長の吉田光一(津田健次郎)らから法廷で追及される。

 終盤に恋愛禁止条項の隙を突いて恋愛していたキャラが判明するのが面白いです。齊藤京子は真面目に演技することを重たく演技することと混同しているように感じますが、演技面では徐々に成長していると思います。マネージャー役の唐田えりかにはもっと見せ場が欲しいところでした。
▼観客2人(公開4日目の午後)2時間4分。

「おくびょう鳥が歌うほうへ」

「おくびょう鳥が歌うほうへ」パンフレット
「おくびょう鳥が歌うほうへ」パンフレット
 アルコール依存症からの回復を綴ったエイミー・リプトロットの回想録を「システム・クラッシャー」(2019年)のノラ・フィングシャイト監督が映画化。

 ロンドンの大学院で生物学を学んでいた29歳のロナ(シアーシャ・ローナン)は10年ぶりに故郷スコットランドのオークニー諸島へ帰ってくる。大都会の喧騒の中、自分を見失い、酒に逃げる日々を送っていた彼女はその習慣から抜け出そうとしていた。だが、恋人との関係に亀裂を生み、数々のトラブルを引き起こした記憶の断片が、彼女を悩ませ続ける。

 この記憶の断片の描き方がやっかいで、現在、過去、大過去、さらにその前の子供時代が入り乱れ、序盤は極めてとっつきにくくなっています。主人公が依存症になった原因も映画からはよく分かりませんが、夜の街で遊んでいるうちに酒の量が増えていったようです。フィングシャイト監督は主人公の回復過程に重点を置いたと語っていますが、原因の部分はしっかり描いた方が良かったと思います。

 おくびょう鳥とはウズラクイナのこと。原題の“The Outrun”はパンフレットによると、一般的な「~より速く走る」「~を振り切る」という意味ではなく、「主人公ロナの実家の農場の周囲に広がる、物語の舞台そのものを指している」そうです。
IMDb6.9、メタスコア72点、ロッテントマト82%。
▼観客6人(公開6日目の午後)1時間58分。