2025/08/10(日)「カーテンコールの灯」ほか(8月第2週のレビュー)

 Googleで「長崎原爆を描いた映画」を検索すると、AIの回答の中に「黒い雨 (1989年):井伏鱒二の小説を原作に、原爆投下後の長崎を舞台に、原爆症に苦しむ人々の姿を描いた作品」と出てきました(今は修正されてます)。もちろん、「黒い雨」が描いたのは広島原爆の方です。

 Googleは「AI の回答には間違いが含まれている場合があります」と注意書きを付けていますが、いったいどこを捜したら、こんな回答になるんですかね。間違った人のブログでも参照してたんでしょうか?

「カーテンコールの灯」

「カーテンコールの灯」パンフレット
「カーテンコールの灯」パンフレット
 原題のGhostlightは「劇場が閉まっている時、舞台上に灯されたままになっているライト」のこと。主に安全を保つためのものですが、劇場に住みつく亡霊を遠ざける意味もあるそうです。そのタイトル通り、これはある悲劇的な出来事から立ち直れず、崩壊しそうになっている家族が演劇を通して再生する姿を描いています。

 建設作業員のダン(キース・カプフェラー)は妻シャロン(タラ・マレン)と思春期の娘デイジー(キャサリン・マレン・カプフェラー)とのすれ違いの日々を送っていた。ある日、見知らぬ女性に声をかけられたダンは小さなアマチュア劇団の「ロミオとジュリエット」に参加することに。最初は乗り気でなかったが、個性豊かな団員と過ごすうちに居場所を見出してゆく。ダンはロミオ役に抜擢されるが、劇の内容と自身のつらい経験が重なり、次第に演じることができなくなってしまう。そして家族や仲間の想いが詰まった舞台の幕が上がる。

 主人公が出演する「ロミオとジュリエット」の悲劇は主人公が置かれた状況と近すぎると感じました。もちろん、過去のつらい体験と近い内容を演じることで立ち直ることもあるのでしょうが、それよりも役を演じること自体と、新たな仲間とともに公演を成功させること(何かを成し遂げること)が再起に大きな役割を果たすのではないかと思います。

 監督は「セイント・フランシス」(2019年)のアレックス・トンプソンと、脚本も担当しているケリー・オサリヴァンの共同。小品ですが、ユーモアを絡めた作劇は好印象で温かみがあり、スッカスカの大作などよりよほど心に残る作品になっています。主人公の家族を演じた3人は実際の家族だそうです。

 邦題は意味が分かるようで分からず、決して良くありません。普通に「ゴーストライト」とすると、ホラー映画と間違われそうですし、「劇場の灯」もピンとこないので考えた末にこう付けたのでしょうが、もう少し良いタイトルはありませんかね。
IMDb7.6、メタスコア82点、ロッテントマト99%。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間55分。

「アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓」

「アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓」パンフレット
パンフレットの表紙
 タイトルの「アメリカッチ」はアメリカ人の意味。これも「カーテンコールの灯」同様、しみじみと良かったです。

 オスマン帝国(現在のトルコ)によるアルメニア人虐殺・迫害から逃れるために、幼い頃アメリカに渡ったチャーリー(マイケル・グールジャン)は1948年、祖国アルメニアに戻る。ソビエト連邦の統治下であっても、理想の故郷と思えたからだ。だが、食料を求める長蛇の列、劣悪な生活環境、そしてソ連による統治の重圧に直面する。ある日、チャーリーは不当に逮捕され、収監されてしまう。悲嘆に暮れながらも、牢獄の小窓から近くのアパートの部屋が見えることに気づき、そこに暮らす夫婦の“幸せな食卓”を観察することが彼の日課となる。

 ヒッチコックの「裏窓」(1954年)を思わせるシチュエーションですが、サスペンスではなく、ユーモアも絡めたヒューマンなドラマです。監督・主演を務めたマイケル・グールジャンはサンフランシスコ生まれのアルメニア系アメリカ人。

 アカデミー国際長編映画賞のショートリストに入ったそうですが、ノミネートには至りませんでした。
IMDb7.3、メタスコア62点、ロッテントマト88%。
▼観客5人(公開7日目の午前)2時間1分。

「長崎 閃光の影で」

「長崎 閃光の影で」パンフレット
「長崎 閃光の影で」パンフレット
 1945年の長崎で原爆被爆者の救護に当たった看護学生の少女たちを描いた作品。「閃光の影で:原爆被爆者援護赤十字看護婦の手記」(日本赤十字社長崎県支部)を原案に長崎出身で被爆三世の松本准平が脚本(保木本佳子と共同)と監督を務めました。

 長崎原爆をテーマにした作品は黒木和雄監督の傑作「TOMORROW 明日」(1988年、キネ旬ベストテン2位)がありますが、広島原爆の映画に比べて数は意外に少なく、投下後の惨状を劇映画で本格的に描いた作品はほかに思いつきません。プロデューサーの鍋島壽夫は「TOMORROW 明日」をプロデュースした人。「TOMORROW 明日」で原爆投下前の長崎の人々を描いたので、今度は投下後を描く作品を作りたかったのでしょう。

 井上光晴の原作(「明日 一九四五年八月八日・長崎」)があった「TOMORROW…」に対して、これは手記の脚本化。ドラマに弱い部分があるのは端的に脚本の詰めが足りなかったためと思われます。朝鮮人を差別し、治療を拒否する場面を描くなど意欲的な部分もありますが、物語にエモーションをかき立てるような求心力が今一つ足りないと思えました。

 映画初主演の菊池日菜子をはじめ出演者は頑張ってます。主題歌は福山雅治作詞作曲の「クスノキ」(2014年発表)を使用していて、これはぴったりの選曲だと思いました。
▼観客9人(公開5日目の午後)1時間49分。

「ジュラシック・ワールド 復活の大地」

「ジュラシック・ワールド 復活の大地」パンフレット
パンフレットの表紙
 登場人物を一新したシリーズ第7作。心臓病の治療薬に恐竜のDNAが活用できることが分かり、陸・海・空に生息する3大恐竜のDNAサンプルを採取しようとするストーリー。酷評が多いですが、僕は退屈せずに見ました。序盤の海洋恐竜モササウルスとの戦いは「ジョーズ」(1975年)を思わせ、相手が巨大なだけにずっとリアルで迫力がありました。

 ミッションに参加するのは製薬会社のマーティン・クレブス(ルパート・フレンド)、特殊工作員ゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)、彼女が信頼するダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)、古生物学者のヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)ら。これにモササウルスに襲われて転覆したヨットで漂流していたルーベン・デルガド(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)の娘2人と娘の恋人の計4人が加わります。ゾーラたちは金儲けのために恐竜の島に乗り込むわけで、共感を得にくいのが難(後で改心します)。そんな危険な場所に行って、当然のように危険な目に遭うのは自業自得で、ドラマもキャラクターの深みも足りません。

 それでも、おなじみのティラノザウルスをはじめ、巨大翼竜のケツァルコアトルス、竜脚類ティタノサウルスなどさまざまな恐竜が登場し、存分に暴れ回ってくれます。そういうものを好きな人は楽しめるでしょう。誰かが書いてましたが、アトラクションのような映画であり、4DXやMX4Dの体感型上映方式にぴったりではないかと思います。監督は「GODZILLA ゴジラ」(2014年)、「ザ・クリエイター 創造者」(2023年)のギャレス・エドワーズ。
IMDb6.1、メタスコア50点、ロッテントマト51%。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)2時間1分。

「アンティル・ドーン」

 人気ゲームの実写化で、人里離れた山荘で男女5人が殺されて生き返るループを繰り返すホラー。これも酷評だらけですが、ラストのループの貧弱な説明を除けば、まずまずと思いました。

 ループを抜けるには夜明けまで生き延びる必要があります。しかも単なるループではなく、繰り返すうちにどうやら怪物化していくことが分かってきます。ループできるのは13回目までらしく、それを超えると怪物になって夜に取り込まれてしまう、というわけ。

 敵も殺され方もバリエーションがあり、残虐描写が多いのでR18+指定となってますが、それほど大したことはありませんでした。監督は「アナベル 死霊人形の誕生」(2017年)、「シャザム!」(2019年)のデビッド・F・サンドバーグ。
IMDb5.8、メタスコア47点、ロッテントマト52%。
▼観客5人(公開6日目の午後)1時間43分。

2025/08/04(月)「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション」(8月第1週のレビュー)

 ニューズウィーク日本版のデーナ・スティーブンズは毎回感心するほど詳しく的確な映画評を書いていますが、今週担当しているのはビリー・メリッサという人。「ジュラシック・ワールド 復活の大地」に関して幼稚・単純・能天気な文章を書き連ねていて、頭が痛くなります。

 この映画は一般映画ファンの投票であるIMDbでさえ6.2という低評価。メタスコア50点、ロッテントマト51%とプロからは当然酷評されてます。それなのに歯の浮くような褒め言葉を並べてるのは映画会社から金もらってるんじゃないかと疑いたくなります。ダメなレビュアーはどこにでもいるわけですね。

「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション」

「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション」パンフレット
パンフレットの表紙
 テレビドラマの劇場版(2023年)の第2弾。鹿児島と沖縄の離島地域に対応するため試験運用されている南海MERのメンバーが諏訪之瀬島の火山噴火で危機に陥った住民を助けるために奔走する姿を描いています。火山噴火と迫る溶岩のCGは水準を十分にクリアし、前半はすこぶる緊迫感のある展開。住民を全員救助するまでは文句の付けようがないんですが、その後の医療ドラマらしい展開が付け足しのように思えてしまうのが難点です。それでも全体としては前作より良い出来だと思います。

 TOKYO MERチーフドクターの喜多見幸太(鈴木亮平)と看護師の蔵前夏梅(菜々緒)は指導スタッフとして南海MERに赴任したが、この半年間、出動は一度もなく、政府は廃止を検討していた。ある日、鹿児島県の諏訪之瀬島で大規模な噴火が発生。溶岩が村に流れ、巨大な噴石が道路や建物を破壊し始めた。ヘリコプターによる上空からの救助は、噴煙のため不可能。海上自衛隊や海上保安庁の到着には、なお時間がかかる絶望的な状況のなか、近くの海上にいた南海MERは島に取り残された79人全員の救助を決断する。

 噴火の予兆はあったはずなので既に全島避難してるんじゃないのかとか、まだ避難中なのに、船に乗ったらヘルメットを脱ぐなどの気になる描写は細部にありますが、まあ許容範囲でしょう。お約束とはいえ、事態が収拾した後で、「死者……、ゼロです」と報告するシーンはもう不要ではないかと思いました。見てりゃ分かりますぜ。

 南海MERのメンバーはほかに江口洋介、高杉真宙、生見愛瑠、宮澤エマ。監督は松木彩、脚本は黒岩勉でいずれもテレビドラマから劇場版前作まで手がけています。このパターンの話なら、他の地区を舞台にした第3作もできそうです。というか、大ヒットしているようなので必ず作るでしょう。
▼観客多数(公開初日の午前)1時間55分。

「親友かよ」

「親友かよ」パンフレット。表紙と裏表紙がつながった絵になってます
「親友かよ」パンフレット
 「バッド・ジーニアス危険な天才たち」(2017年)のバズ・プーンピリヤ監督がプロデュースしたタイの青春映画。話は悪くないんですが、描写も展開もまどろっこしく感じました。もっと簡潔な描き方が望まれます。

 高校3年生のペー(アンソニー・ブイサレート)は転校先で隣の席になったジョー(ピシットポン・エークポンピシット)と知り合うが、ジョーは不慮の事故で亡くなってしまう。ペーはジョーの遺品の中に彼が書いたエッセイを見つけ、それがコンテストで受賞していたことを知り、これを使って短編映画を撮ることを思いつく。コンテストに入賞すると学科試験を免除され、大学の映画学科に入学できるのだ。そこにジョーの本当の親友・ボーケー(ティティヤー・ジラポーンシン)が現れ、学校全体を巻き込んで映画撮影が始まる。

 終盤の展開には伏線がなく、ご都合主義に思えました。これが第1作のアッター・ヘムワディー監督はCMやMV製作で活躍している人だそうです。
▼観客3人(公開5日目の午後)2時間10分。

「フォーチュンクッキー」

「フォーチュンクッキー」パンフレット
「フォーチュンクッキー」パンフレット
 白黒スタンダードの画面でじわっとくる笑いを交えて描くラブストーリー。初期のジム・ジャームッシュを思わせるタッチだと思ったら、そういう感想を持つ人は多いようです。

 カリフォルニア州フリーモントにあるフォーチュンクッキー工場で働くドニヤ(アナイタ・ワリ・ザダは、アパートと工場を往復する単調な毎日。母国アフガニスタンの米軍基地で通訳として働いていた彼女は基地での経験から、不眠症に悩まされている。ある日、クッキーのメッセージを書く仕事を任されたドニヤは、新たな出会いを求めて、その中の一つに自分の電話番号を書いたものを紛れ込ませる。間もなく1人の男性から、会いたいとメッセージが届く。

 監督のババク・ジャラリはイラン出身。主人公を演じるアナイタ・ワリ・ザダは実際にアフガニスタン出身で、テレビの司会やジャーナリストとして活躍していましたが、タリバンが復権した2021年8月にアメリカに逃れてきたそうです。
IMDb6.9、メタスコア72点、ロッテントマト98%。
▼観客8人(公開初日の午後)1時間31分。

「事故物件ゾク 恐い間取り」

 「事故物件 恐い間取り」(2020年)の続編ではなく、登場人物を一新した第2弾。といっても前作は事故物件住みます芸人(亀梨和也)、今回は事故物件住みますタレント(渡辺翔太)が主人公で趣向は同じです。4軒の事故物件に住みますが、ただ幽霊が出るだけで、話に何も発展性がなく、このパターンで傑作を作るのは難しいと思えました。

 ホラー映画のベンチマークになるような傑作「ドールハウス」(矢口史靖)の後ではどんなホラーも分が悪いです。共演は畑芽育、吉田鋼太郎、滝藤賢一ら。監督は「リング」シリーズ、「スマホを落としただけなのに」シリーズなどの中田秀夫。
▼観客30人ぐらい(公開7日目の午後)1時間53分。

2025/07/27(日)「木の上の軍隊」ほか(7月第4週のレビュー)

 「夜明けまでバス停で」「『桐島です』」の脚本家・梶原阿貴の自伝的エッセイ「爆弾犯の娘」(ブックマン社、1980円)が抜群に面白かったです。クリスマスツリー爆弾事件の犯人で指名手配された父親との関係から始まり、芸能界に入り、女優として映画・テレビに出た後、脚本家になるまで。父親の影は薄いんですが、著者自身はもちろん、母親や祖母のキャラが立っていて、何より著者の視点の明るさが良いです。すぐにでも映画やドラマになりそうな内容ですが、映画では時間が足りなさそうなので、1クールのドラマでじっくり描いてほしいところです。

「木の上の軍隊」

「木の上の軍隊」パンフレット
「木の上の軍隊」パンフレット
 沖縄県の伊江島で終戦を知らずに2年間、ガジュマルの木の上を拠点に生きた2人の日本兵の実話を基にした作品。井上ひさし原案による同名舞台劇を映画化したもので、沖縄出身の平一紘(「ミラクルシティコザ」)が監督し、脚本も書いています。沖縄戦を描いた映画を沖縄出身者が監督するのは初めてとのこと。

 1945年、宮崎出身の少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名(あげな)セイジュン(山田裕貴)は米軍の激しい銃撃を受け、大きなガジュマルの木の上へ身を潜める。太い枝に葉が生い茂るガジュマルの木は隠れ場所として最適だったが、木の下では仲間の死体が増え続け、敵は迫ってくる。2人には連絡手段もなく、援軍が現れるまでこのまま耐えようとする。終戦を知らないまま、彼らは木の上で“孤独な戦争”を続けるが、やがて食料が尽きる。2人は米軍の残飯で生き延びていくことになる。

 伊江島は沖縄本島北部から北西9キロにある面積23平方キロの島。序盤、日本軍の命令で建設したばかりの飛行場を今度は壊すよう命令された住民たちが作業中に米軍の爆撃に倒れるシーンは広い絵も含めて大がかりに描かれます。殺されていく民間人の姿には心が痛みますし、沖縄戦の映画でよく描かれる、ガマ(自然洞窟)に入れてくれと兵士に頼む親子の場面も出てきます。本土防衛の捨て石にされた沖縄戦の悲劇は鉄の暴風雨と言われた米軍艦砲射撃の苛烈さとともに、住民を守らない日本兵が多かったことにあります。平監督はそうしたことをてきぱきと描いた後、難を逃れた2人の日本兵のサバイバルを描いていきます。

 横井庄一さん(終戦後28年)や小野田寛郎さん(同29年)ほどの長年月ではありませんが、島のジャングルにいたため終戦を知らなかったという状況は同じでしょう。ただ、日本国内でなぜ終戦に気づかなかったのかと思ったら、伊江島の住民約2100人は米軍に収容され、慶良間諸島に移送されていたそうです。住民が島に戻ってきたのは終戦後2年近くたってからで、そこで2人はようやく終戦を知ることになったというわけです。

 平監督は題材を正攻法に描いていて、堤真一と山田裕貴も頬がこけるほど体重を落としてリアルに演じています。悲惨なだけではないユーモアが滲むのはこの2人の好演によるところが大きいでしょう。終盤にセイジュンが見る夢(幻覚)のシーンも秀逸でした。惜しむらくは、米軍支配下の島の全体的な状況を含めてサバイバルの詳細な状況をもっと知りたいところではありました。

 パンフレットによると、山下少尉のモデルとなった山口静雄さんは小林市出身、セイジュンのモデルの佐次田秀順さんは沖縄県うるま市出身だそうです。主題歌「ニヌファブシ」(北極星)を伊江島出身のシンガーソングライターAnlyが歌ってます。
▼観客4人(公開初日の午後)2時間4分。

「年少日記」

「年少日記」パンフレット
「年少日記」パンフレット
 学校でのいじめと厳格な父親を描いた香港映画ですが、語り方に大きな仕掛けがあります。果たしてそれがテーマと合っているかとも思いますが、観客を楽しませようとする姿勢の表れなのは確かでしょう。始まって3分の2のあたりで明かされる真実に驚くこと請け合いです。監督はこれが第一作のニック・チェク。

 高校教師のチェン(ロー・ジャンイップ)が勤める学校で自殺をほのめかす遺書が見つかる。私はどうでもいい存在だ……幼少期の日記に綴られた言葉と同じだった。彼は遺書を書いた生徒を捜索するうちに、閉じていた日記をめくりながら自身の幼少期の辛い記憶をよみがえらせていく。弁護士で厳格な父(ロナルド・チェン)のもとで育った兄弟の記憶だ。勉強もピアノも何ひとつできない兄と優秀な弟。親の期待に応える弟とは違い、出来の悪い兄は家ではいつも叱られていた。しつけという体罰を受ける兄は家族から疎外感を感じていた。

 監督インタビューによると、物語は大学時代に監督が体験した出来事(仲間の死)を投影しているそうです。体験の直接的な描き方ではなく、子供への抑圧に転化した脚本は見事と言って良いと思いました。兄弟の描き方は立場が逆ではありますが、「エデンの東」(1955年、エリア・カザン監督)をなんとなく想起しました。
IMDb7.7、ロッテントマト100%(観客スコア。アメリカでは限定公開)
▼観客3人(公開5日目の午後)1時間35分。

「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」

「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」パンフレット
パンフレットの表紙
 2005年、2015年に続いてマーベルコミック「ファンタスティック4」の3度目の映画化(映画としては4本目)。これまでは20世紀フォックスが映画化してきましたが、今回は満を持してのマーベル(MCU)作品となっています。

 それもあってか、4人が宇宙放射線を浴びて超能力を得るシーンは省略。1960年代に考えられた未来のデザインはレトロフューチャーなもので悪くありませんが、敵のギャラクタス、シルバーサーファーの有り様は新味に乏しく感じました。

 スー・ストームの役は「ファンタスティック・フォー 超能力ユニット」(2005年、ティム・ストーリー監督)のジェシカ・アルバ(公開当時24歳)に比べると、今回のヴァネッサ・カービーは年齢が上過ぎるのではと思いましたが、これは母親になる展開を考慮してのキャスティングなのかもしれません。ファンタスティック4のリーダーであるリード・リチャーズを演じるペドロ・パスカルともどもスター性には欠けるのが少し残念。

 監督はディズニープラスの傑作ドラマ「ワンダヴィジョン」(2021年、全9話)のマット・シャクマン。考えてみると、「ワンダヴィジョン」もレトロなドラマを思わせる作りになってました。

 今後のMCU作品は来年夏に「スパイダーマン ブランド・ニュー・デイ」、同年末に「アベンジャーズ ドゥームズデイ」、その1年後に「アベンジャーズ シークレット・ウォーズ」が予定されています。
IMDb7.5、メタスコア64点、ロッテントマト88%。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)1時間55分。

「ラ・コシーナ 厨房」

「ラ・コシーナ 厨房」パンフレット
「ラ・コシーナ 厨房」パンフレット
 イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーが25歳の時に書いた戯曲「調理場」(1959年初演)の2度目の映画化。ニューヨークのレストランの調理場に舞台を変え、移民問題を絡めたドラマにしています。一部青っぽい場面はありましたが、モノクロ、スタンダードサイズの映画です。

 ニューヨークにある観光客向けの大型レストラン「ザ・グリル」の厨房は目の回るような忙しさ。店の売り上げ800ドル余りが消えていることが分かり、従業員に盗みの疑いがかけられる。さらに次々とトラブルが起こり、調理人のペドロ(ラウル・ブリオネス)と密かに愛し合うウエイトレスのジュリア(ルーニー・マーラ)らスタッフのストレスは最高潮に達する。

 移民の多い調理場はアメリカの縮図と言え、怒りが爆発するクライマックスは不安定な移民の立場を象徴しているのでしょう。それは分かるんですが、もう少しコンパクトな作りにした方が良かったかなと思いました。監督はメキシコ出身のアロンソ・ルイスパラシオス。
IMDb7.1、メタスコア75点、ロッテントマト71%。
▼観客3人(公開7日目の午後)2時間19分。

2025/07/20(日)「劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」ほか(7月第3週のレビュー)

 大型書店のアプリやホームページにある在庫検索をよく利用してます。先日、未来屋書店で「愛されなくても別に」(武田綾乃)の原作を検索したら「在庫僅少」の表示。行ってみたら、1冊しかありませんでした。「夜明けまでバス停で」「『桐島です』」の脚本家・梶原阿貴の自伝「爆弾犯の娘」(ブックマン社、1980円)も在庫僅少だったので急いで買いに行ったら、やはり1冊だけ。僅少とは1冊のことですかそうですか。

 この本、初版が少なかったらしく、ネット書店でも「注文不可」「お取り寄せ」のところが多いです。amazonの転売ヤーは3000円~6000円ぐらいで売ってますが、もう再版がかかってるんじゃないでしょうかね。
 と思ったら、amazonなど各サイトで通常価格で購入できるようになってました。

「劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」

「鬼滅の刃 無限城編第一章 猗窩座再来」の入場者プレゼント
入場者プレゼント
 全23巻の原作のうち、16巻の途中から18巻の途中までをアニメ化。鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)によって鬼の本拠地・無限城に送られた鬼殺隊の面々と鬼たちとの戦いを描いています。具体的には胡蝶しのぶVS.童磨(上弦の弐)、我妻善逸VS.獪岳(かいがく=上弦の陸)、竈門炭治郎・冨岡義勇VS.猗窩座(あかざ=上弦の参)の戦い。プロットは原作通り、映像は原作のコマの間を埋め、戦いの場面に圧倒的なスピード感を加えていて、作画の丁寧さと美しさに定評のあるufotableの仕事だけに文句の付けようがありません。映画を見た後に原作を読み直すと、原作が絵コンテに見えてしまいます。

 ただし、どの戦いも途中で回想を入れる構成になっていて、これは原作では少しも気にならないんですが、映画は3番目の戦いともなると、さすがにちょっと工夫がほしくなりました。それぞれの戦いの迫力とキャラの運命に感情を揺さぶられ、クライマックスが連続すると感嘆させられる構成ながらも、やや飽きてくる部分があります。これが、読むペースを変えられ、いつでも休むことができる原作と、同じ上映時間を(劇場の)すべての観客に強いる映画の違いです。だから映画の場合、原作に忠実なだけでは足りず、テンポと構成が重要になるわけです。

 かといって、どこかを端折れば、原作ファンから罵詈雑言が飛んでくるのは必至。なかなか難しい問題ではあります。「無限列車編」(2020年)が作品的にも大成功を収めたのは原作が短かった(1巻半ぐらい)ことと、話が完結していたことが大きいでしょう。

 原作未読の人、「無限列車編」しか見ていない人、初めて「鬼滅の刃」を体験する人にはまた異なる感想があると思います。いきなりこれを見ても、この部分だけの話は分かる作りにはなっています。

 3つの戦いの中で、童磨との戦いは決着がつかず、第2章に持ち越されました。胡蝶しのぶの後を受けた栗花落(つゆり)カナオ、童磨との意外な因縁が分かる嘴平(はしびら)伊之助の戦いをどう見せてくれるのか楽しみです。しのぶが仕掛けていた秘密の作戦も明らかにされ、その悲しい覚悟に胸を打たれることになるのでしょう。

 気になるのは第2章の公開が来年か再来年かということ。年1作のペースでこの高いレベルを維持するのは難しいでしょうから、早くても1年半後の来年末、普通に考えれば、2年後になるんじゃないでしょうか。全部終わってからか、1章終わるごとかは分かりませんが、「無限列車編」のようにテレビアニメ化は必ずあるだろうなと思います。連続アニメの語り方に向いている面もあるからです。

 監督はシリーズを一貫して担当している外崎春雄。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間35分。

「かたつむりのメモワール」

「かたつむりのメモワール」パンフレット
「パンフレットの表紙
 大人向けのクレイアニメ。オーストラリアのアダム・エリオット監督が8年かけて製作し、アカデミー長編アニメ賞ノミネートされました。

 幼い頃から周囲になじめず、孤独を抱えて生きてきた女性グレース。かたつむりを集めて寂しさを埋める日々を送っていたが、個性豊かな人たちとの出会いと絆を通して、少しずつ生きる希望を見出していく、という物語。

 クレイアニメというと、「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」が思い浮かびますが、キャラクターがあそこまでかわいくありませんし、内容も小さな子供向けではありません。人生の光と影について語っているので大人の観客に響くものは少なからずあると思います。

 エリオット監督は哲学者セーレン・キルケゴールの「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前を向いてしか生きられない」という言葉が好きで、「前にしか進まず、後ろに進めない」カタツムリをモチーフにしたそうです。

 長編アニメはあと2本作る予定があるとか。また8年かかると大変ですが、次作も楽しみに待ちたいと思います。
IMDb7.8、メタスコア81点、ロッテントマト95%。
▼観客6人(公開2日目の午前)1時間34分。

「能登デモクラシー」

 「はりぼて」(2020年)、「裸のムラ」(2022年)の五百旗頭(いおきべ)幸男監督が石川県穴水町の町政を見つめたドキュメンタリー。

 穴水町に住む元中学校教諭の滝井元之さんが発行する手書き印刷新聞「紡ぐ」は、町の出来事や課題、議会のやりとりを掲載し、未来に向けて提言してきた。テレビ局がほぼ取材に入らない過疎の町で権力監視の役割を担う。映画はその新聞の力と町の行く末を見つめるが、そこに能登半島地震が起き、穴水町も大きな被害を受ける。

 序盤に、初当選したある町議が選挙事務所で町長と前町長から何かを受け取るシーンがあります。これは何だ、公選法違反かと引っかかりつつ、その後に地震被害からの復興に注力する滝井さんはじめ町の人々を描くため、忘れてしまいます。しかし、映画は終盤にこの場面を問題にします。町長に映像を見せ、追及します。さすが五百旗頭監督と言うべきか。同時に行政を監視するメディア、監視する人は必要だなとの思いを強くします。権力は監視しておかないと、何をやるか分かったものではないからです。

 その意味でこの映画はどの自治体にもあり得る問題を提起しています。公正な民主主義は自分たちで守っていかなくてはいけないわけです。
▼観客5人(公開7日目の午前)1時間41分。

「海がきこえる」

 1993年にスタジオジブリの若手スタッフが製作したテレビ用アニメ(テレ朝系列で放送)。同年12月に劇場公開もされていますが、宮崎ではこれまで未公開だったようです。

 原作は氷室冴子。この名前も懐かしいですね。作品は僕とは接点がありませんでしたが、ヤングアドルト向けの小説(今ならライトノベル?)のベストセラー作家でした(2008年、51歳で死去)。

 高知から東京の大学に進学した杜崎拓は街中で武藤里伽子の姿を目撃。それを機に、拓は里伽子と出会った頃を思い出す。里伽子は家庭の事情で東京から高知に転校してきた。成績優秀、スポーツ万能の里伽子は編入と同時に一躍有名人となった。だが彼女はクラスメートに馴染もうとせず、目立つだけに女子からは反感を買い、男子からは敬遠され、クラスでは浮いた存在となっていた。

 拓の親友の豊は里伽子に好意を寄せており、拓も次第に里伽子に惹かれ、三角関係の様相を呈してきます。これに里伽子の家庭の事情が絡んでくるのがポイントで、青春映画としてよくまとまっていると思いました。監督は望月智充。
 IMDb6.6、メタスコア73点、ロッテントマト89%。
▼観客6人(公開5日目の午後)1時間12分。

2025/07/13(日)「スーパーマン」ほか(7月第2週のレビュー)

 全編ワンカットで撮影した「三谷幸喜『おい、太宰』」のWOWOW版を見ました。劇場版はWOWOW版に「もう一つのエンディング」を付け加えているそうです。上映時間は劇場版が1時間41分に対してWOWOW版は1時間37分。本編がかなり面白ければともかく、これぐらいの出来だと、確認のためだけに劇場版を見る気にはなりません。

 太宰治ファンの小室健作(田中圭)が妻の美代子(宮澤エマ)とともに結婚式の帰り、太宰治が心中未遂事件を起こした海岸に迷い込む。海岸の洞窟を抜けると、そこには太宰治(松山ケンイチ)と愛人のトミ子(小池栄子)がいた。タイムスリップしたらしい。心中未遂で太宰は助かるが、トミ子は死んだ史実がある。トミ子にひと目ぼれした健作はトミ子を救おうと奔走する。

 三谷幸喜が全編ワンカットの映画を撮るのは「short cut」(2011年)、「大空港2013」(2013年)に続いて3作目。最初の「short cut」はただワンカットで撮っているだけという作品でしたが、それに比べれば面白くなってはいます。ただ、最近は「ソフト クワイエット」(2022年、ヘス・デ・アラウージョ監督)、「ボイリング・ポイント 沸騰」(2021年、フィリップ・バランティーニ監督)など技巧を凝らした全編ワンカット撮影の作品が多く、そうした作品に比べると分が悪くなりますね。

「スーパーマン」

「スーパーマン」パンフレット
「スーパーマン」パンフレット
 いったい何作作れば気が済むんだと思えるほど、何度も映画化されている「スーパーマン」ですが、ジェームズ・ガンがDCスタジオの共同代表になったからにはDCにとって最も重要なキャラの映画を撮るのは必然だったのでしょう。その期待を裏切らない出来になっています。

 映画は3分前に初めてスーパーマン(デイビッド・コレンスウェット)が敵の「ボラビアのハンマー」(ウルトラマン)に敗れ、雪原に落ちてくる場面から始まります。予告編で流れたように傷だらけのスーパーマンを救うのは愛犬のクリプト。クリプトはマントを噛んでスーパーマンを引きずり孤独の要塞まで連れて行きます。孤独の要塞の場所はリチャード・ドナー監督版「スーパーマン」(1978年)では北極でしたが、この映画では南極になってます。この映画の要塞は地下に潜るので北極では都合が悪いからでしょうか?

 要塞で回復したスーパーマンはハンマーの背後にいるレックス・ルーサー(ニコラス・ホルト)の組織と対決することになる、という展開。ハンマーがスーパーマンに勝てた理由はルーサーがスーパーマンの戦い方を研究したことと、もう一つ大きな理由がクライマックスに分かります。これは納得できる理由なんですが、そんなに簡単にそれができれば、いくらでもスーパーマンの強敵を作れてしまいますね。

 スーパーマンと共闘するのはグリーンランタン(ネイサン・フィリオン)、ミスター・テリフィック(エディ・ガテキ)、ホークガール(イザベラ・メルセド)のジャスティス・ギャング。巨大な怪獣など敵のヴィランも多数出てきて、このあたりはジェームズ・ガンのサービス精神の表れなのでしょう。途中、演出が少し緩むところもありますが、僕は全体的に楽しく見ました。ドナー監督版の音楽(ジョン・ウィリアムズ)がフィーチャーされてるのも良いです。あの音楽の素晴らしさは無視できないものなのでしょう

 ロイス・レーンを演じるのは今年公開された「アマチュア」(ジェームズ・ホーズ監督)のレイチェル・ブロズナハン。間もなくシーズン2が始まるピースメイカーがちらりと出てきます。

 それにしても、スーパーマンの父親ジョー=エル(ブラッドリー・クーパー)の真意は少し衝撃でした。映画のオリジナル設定なんでしょうか?
IMDb7.7、メタスコア68点、ロッテントマト82%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間9分。

「ストレンジ・ダーリン」

「ストレンジ・ダーリン」パンフレット
「ストレンジ・ダーリン」パンフレット
 時制をシャッフルしたサスペンス。物語に意外性を持たせるためにきちんと考えられた構成で、3章→5章→1章→4章→2章→6章→エピローグの順番で描かれます。実際には3章の前に1章が部分的に描かれ、これが観客をミスリードする内容になってます。

 というわけで予備知識なしで見た方が良い映画。詳しい紹介を省略して冒頭の字幕をパンフレットから引用しておきます。

 「2018年から2020年にかけてシリアルキラーが全米を震撼させた――。コロラドを皮切りにワイオミング、アイダホへと広がり、オレゴンの山奥にて終幕を迎えた。この物語は、警察や目撃者の証言などをもとに、一連の殺人事件を映画化したものである」。

 意外性といっても、登場人物が少ないので、すれた観客なら予想はつくでしょう。監督・脚本のJ.T・モルナーは長編2作目。僕は特に前半が良い出来と思いましたが、物語の構造が分かった後も、面白さを持続させる技術がありますね。主演の“レディ”をウィラ・フィッツジェラルド、“デーモン”をカイル・ガルナーが演じています。
IMDb7.0、メタスコア80点、ロッテントマト96%。
▼観客6人(公開初日の午後)1時間37分。

「夏の砂の上」

 オダギリジョー、松たか子、髙石あかりら出演者はすべて悪くないのに盛り上がりに欠ける作品。このストーリーだと、単なるついてない男の話でしかなく、特にラスト前、主人公がけがをするエピソードなどはまるで不要だと思えました。

 劇作家・演出家の松田正隆の原作戯曲を「そばかす」(2022年)の玉田真也監督が映画化。長崎で幼い息子を亡くした小浦治(オダギリジョー)はその喪失感から、妻の恵子(松たか子)と別居中だった。勤めていた造船所の下請け企業が倒産した後、再就職せずにふらふらしている治の元へ、妹の阿佐子(満島ひかり)が17歳の娘・優子(髙石あかり)を連れてやってくる。阿佐子は1人で博多の男の元へ行くので、しばらく優子を預かってほしいという。治と優子の同居生活が始まる。高校に行かず、コンビニのアルバイトを始めた優子はそこで働く先輩の立山(高橋文哉)と親しくなる。

 長崎の方言は心地良かったんですが、長崎はあんなにすぐに断水するのかとか、大昔じゃあるまいし雨が降ったら鍋に水をためるのか、など疑問を感じる描写があります。松田正隆は「美しい夏キリシマ」(2002年、黒木和雄監督)の脚本や「紙屋悦子の青春」(2006年、同監督)の原作を書いた人。この傑作2本に比べると、「夏の砂の上」の完成度は大きく劣った印象です。原作戯曲は読売文学賞を受賞していますので、優れた作品なのでしょうけどね
▼観客2人(公開7日目の午後)1時間41分。

「東京予報 映画監督外山文治短編作品集」

「東京予報」入場者プレゼント
入場者プレゼント
 「はるうらら」(20分)「forget-me-not」(15分)「名前、呼んでほしい」(26分)の3本。この順番で上映され、この順番で面白かったです。ヒッチコックは「ある監督は、人生の断面を映画に撮る。私はケーキの断面を映画に撮るのだ」という名言を残していますが、外山(そとやま)監督は人生の断面を描きたかったそうです。

 「はるうらら」は中学生の二宮春(星乃あんな)と水原麗(河村ここあ)が、母親と離婚して以来会っていない春の父親(吉沢悠)に会いに行く話。春は麗の顔にほくろを描き、春のふりをさせて父親に会うが…。星乃あんなは「ゴールド・ボーイ」(2023年、金子修介監督)の時より大きく背が伸びてましたが、演技の輝きは変わっていません。河村ここあはアイドル的に売れそうなルックスですね。
外山文治監督と田中麗奈さん(宮崎キネマ館)
外山文治監督と田中麗奈さん
 上映前に外山監督と「名前、呼んでほしい」主演の田中麗奈さんのあいさつがありました。

 田中さんの第一印象は「顔ちっちゃ」。映画ではそんなこと感じませんが、実物は小さい小さい(はい、美人の条件です)。約30分の受け答えには聡明さと落ち着きを感じさせ、まじめに映画に向き合っている人だなと思えました。外山監督によると、田中さんは本当に映画が好きなのだそう。

 外山監督は福岡生まれの宮崎育ち。田中麗奈さんの主演作では「東京マリーゴールド」(2001年、市川準監督)が好きだそうです。僕もこの映画の田中麗奈さんの演技には感心しまくりました。今後もたくさんの映画に出てほしいです。
▼観客多数(公開2日目の午後)

「映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」

「映画おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」パンフレット
パンフレットの表紙
 練馬ジム原作のコミックを基にしたテレビドラマ(略称おっパン)の劇場版。評判の良かったドラマ版(全11話)は3話まで後追いで見ました。特にLGBTQへの偏見に凝り固まった昭和生まれのおやじをアップデートしていく内容で、そのおやじ、沖田誠を演じるのが原田泰造。引きこもりの息子(城桧吏)、BL漫画の同人活動をしている娘(大原梓)、妻の美香(富田靖子)、息子の友人でゲイの大地(中島颯太)らとのユーモアを絡めたドラマが展開されました。

 映画はドラマの後を受けた展開ですが、特にドラマの知識がなくても分かる内容になってます。テーマも真っ当ですし、よく出来た劇場版と思います。監督は「晩酌の流儀」「ゆるキャン△」など多くのテレビドラマを演出している二宮崇。脚本は「るろうに剣心」(2012年)や「鳩の撃退法」(2021年)などの藤井清美。
▼観客7人(公開5日目の午後)1時間54分。