2016/12/30(金)露点温度について

 近所の床屋さんは笑い話が好きである。「年末は客が多くてもうかるだろう」と、客に聞かれてこう答えたそうだ。「昔はハサミの音がチョッキーン、チョッキーンと聞こえた。今はシャッキーン、シャッキーンと聞こえる」。どこかで聞いたような小話だが、面白い。

 その床屋さんと、糸魚川市の火事で年末に焼け出された人は大変だという話になった。産経新聞によると、この大火で周囲の住宅はすべて焼けたのに1軒だけ燃えなかった家があったそうだ。「燃えなかった理由は、普通の住宅とは異なり、火に強いステンレスのトタン板を外壁に使い、一部は耐火レンガだったことが大きいとみられる。屋根の洋瓦も一部はステンレス製だった。さらに、暴風に備えて窓はワイヤ入りの二重ガラス。屋根の軒先は火の粉が入りづらいように設計されていた」。家を建てる際、火事に強い家という注文は出さなかったそうだが、何が幸いするか分からない。普通のサッシは熱で割れてしまうが、二重ガラスは断熱だけでなく、火事にも強いらしい。

 家の断熱について調べていて、露点温度に興味を持った。これは結露が発生する温度。部屋の中の温度と湿度は温度計で分かる。外気温が(正確には窓ガラスの表面温度が)何度になった時に結露が発生するかが分かれば、結露対策を取りやすいだろう。

 露点温度の算出法は素人には難しいが、計算できるサイトやExcelの計算シートがけっこう公開されている。部屋の温度が18℃で湿度が40%の場合、露点温度は4.2℃。この場合、ガラス窓の表面温度が4.2℃以下になったら、結露が発生することになる。湿度が下がれば、露点温度も下がり、同じ室温18℃で湿度30%の場合、露点温度は0.18℃になる。

 いちいち計算するのも面倒なので露点温度計はないかと探した。いくつかあるが、最も安いのはエンペックス温・湿度・露点計。結露対策をしたい人は買っておくと、便利かもしれない。天気予報で翌朝の最低気温を見て、部屋の温度と湿度を調整すれば、結露をコントロールすることができるだろう。もっとも、部屋の温度や湿度を下げすぎると、風邪をひく心配がありますけどね。

2016/12/25(日)今年行ったふるさと納税5件

 ふるさと納税を初めて行ったのが今年7月。岩手県陸前高田市に寄付して返礼品に天然ハチミツを頂いた。というか、天然ハチミツをもらうためにふるさと納税したというのが正しい。返礼品目当てであっても寄付に慣れるのは悪いことではないと思う。糸魚川市の大火の後、同市に対するふるさと納税が急増したそうだ。寄付5件まではワンストップ特例で確定申告が不要になったのが大きい。例えば、国境なき医師団やユニセフ、Wikipediaなどに寄付する際もワンストップ特例が使えると、寄付は増えるのではないかと思う。逆に言うと、ワンストップは確定申告しない人向けなので、確定申告が不要な自治体以外の一般の寄付は減ってしまう心配もある。

 5件の枠を使い切るために先月から今月にかけて4件のふるさと納税をした。宮崎県都城市、埼玉県蓮田市、佐賀県基山町、鹿児島県いちき串木野市の4自治体。それぞれ、普段飲む焼酎、正月用の日本酒、普段飲むビール、正月用のハム&ソーセージ詰め合わせ&薩摩揚げ詰め合わせが返礼品だ。肉やカニには興味がない(こともないが)ので、こういうことになる。普段消費するものをもらった方がお得感があるのだ。

いちき串木野市の返礼品の手作りハム&ソーセージ詰め合わせ

 それを最も感じたのは佐賀県基山町のビール。3万円の寄付で350mlのヱビスビール24缶とプレミアムモルツ24缶の返礼品が届く。自己負担は2000円なのでビール1缶42円ほどで購入したのと同じだ。6万円寄付すると、96缶届くので1缶21円の計算。店で買うのがバカバカしくなるほどお得だ。写真はいちき串木野市の返礼品の手作りハム&ソーセージ詰め合わせで、手造りハム工房蔵という会社の商品。合成保存料も着色料も使っていないのが好ましい。真空パックなので、保存料がなくても賞味期限は1カ月ほどある。

 申し込みはすべてふるさとチョイスから行った。自治体によって、ふるさと納税に慣れた(仕組みが整備された)ところと慣れていないところがあるなあ、というのが実感。ふるさと納税日本一の都城市と、いちき串木野市はワンストップ申請に必要な住所等を記入した書類と切手不要の返信用封筒まで送ってきた。都城市はふるさと納税の作業のために数十人の臨時職員を採用しているそうだ。ふるさと納税は雇用の場も生んでいるわけだ。

 半面、ふるさと納税を利用する人が多い自治体からは本来入るはずだった住民税が流出する。都城市は昨年度、約42億円の寄付金を集めたが、他の自治体からはその分だけ住民税が減ったことになる。住民税を減らさないためには、流出した分をふるさと納税で取り戻す必要があるだろう。自治体間の競争が生じるわけで、その意味でふるさと納税は自治体にとってゼロサムゲームにほかならない。今年は去年以上にこの差が広がっただろう。

 制度自体の弊害を指摘する声もあるので、この制度がいつまで続くか分からない。しかし、続いている以上は利用した方が納税者にメリットが大きいことは間違いない。

2016/12/25(日)窓の断熱とプチプチ

 住宅の窓などの開口部から熱が逃げる割合は多く、以前読んだ日経電子版の記事によると、「冬に暖房の熱が逃げる割合は58%、夏の冷房中に入ってくる割合は73%にも及びます。暑さの原因の7割、寒さの原因の6割が窓とみなせます」(2014年11月7日付、「低い断熱性なぜ放置、世界に遅れる『窓』後進国ニッポン」)という。

 アルミサッシの断熱性能は最低で、日本の窓の断熱基準というのは海外に比べて大きく遅れているそうだ。福岡市東区にいる長男のアパート(築3年ぐらい)は空港が近いので防音効果を考慮したためか、複層ガラスの樹脂サッシが採用されていて感心した。断熱のためには複層ガラスが最も望ましい。

 それは分かっているのだが、既にあるサッシを複層ガラスの樹脂サッシに替えるには一つの窓だけで十数万円はかかる。家の全部の窓を替えると、100万円は下らないだろう。内窓を付けた方が安く済ませられるが、それでも一つの窓に数万円は必要だ。手軽にできる方法として昨年は居間の窓の内側にある障子を太鼓張りにしてみた。

すき間テープを貼った障子。黒い部分がすき間テープ

 太鼓張りは障子の片面だけではなく、両面に障子紙を貼る方法。作業が大変な割にはあまり効果を感じられなかった。障子を開けると、やっぱり窓が少し結露している。木造住宅なので鉄筋コンクリートのように湿気はこもらず、窓ガラスに水滴がびっしりなんてことはない。それでも少し結露があるということは断熱がうまくいっていないということだろう。

 なぜか。引き違いの障子と障子の間に隙間があるためらしい。すき間テープを貼ると、太鼓張りにしなくても断熱効果がアップするそうだ。というわけで今日、すき間テープを買って貼ってみた。確かに障子の縁と縁の間が密着して良い感じだ。今回、窓の断熱について調べて知ったが、障子の断熱効果は厚手のカーテンよりも高いそうだ。ただ、内側に障子のある窓なんて少ない(うちは4つ)から、この方法に汎用性はあまりない。

 今年はプチプチを使ってみることにした。窓断熱用のプチプチはホームセンターなどで販売している。僕はamazonで窓 断熱 防寒 シート 三層構造 プチプチ 幅1200mm×42M巻きを買った。何も考えずに注文して届いたのを見たら、ものすごく大きい。42メートルなんてまず使いきりません。

 プチプチをガラスの大きさに合わせて切り、両面テープを使って貼っていく。僕の狭い部屋の窓はハンドルをくるくる回して開けるオーニング窓。3枚あるガラスに1枚ずつ貼るのは面倒だったので、内側にある網戸全体に貼った。これだと窓を開けても換気ができないが、冬の間は開けることはないのでいいでしょう。

 断熱効果は確かにあるようだ。窓からの冷気を感じなくなったし、結露もしない。プチプチ自体の空気の層に加えて、ガラスと網戸の間にも空気の層ができるので、複層ガラスに似た効果があるのだろう。内側に網戸がある場合はこの方法が良いかもです。

プチプチを貼った東側の窓

 結局、家の北側と東側の7つの窓にプチプチを貼った。外から見ると、見栄えが良くないが、内側からは磨りガラスのように見えて悪くはない。南側の窓は日光を遮るのが嫌だし、外が見えないと、圧迫感があるので貼っていない。大きな窓は南側の方に多いので、こっちを何とかしないと家全体の断熱にはつながらないのが悩ましいところだ。透明の断熱カーテンなどはいいかなと思えるが、amazonのレビューを読むと、断熱効果はあるものの、カーテンに結露する場合があるそうだ。

 プチプチを貼った窓も結露するというレビューがある。そういう場合は断熱と同時に湿気対策をした方が良いと思う。YKKやLIXILなどのホームページには内窓でも結露する場合があり、本当に防ぐためには湿気をこもらせないように換気をすることが必要-と書いてある。

 プチプチで気をつけないといけないのは金属線の入ったガラス窓(網入り板ガラス)には貼れないこと。「割れる場合がある」と注意書きがある。単身赴任中の家内はホームセンターでプチプチを買ったが、注意書きを見て愕然としたそうだ。アパートのほとんどの窓は金属線入りの磨りガラスなのだった。この場合はガラスに直接貼らずに窓枠全体を覆うように貼ればいいのではないか。

2016/12/20(火)「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」

 帝国に対するスパイ行為や暗殺などの汚い仕事をこなしてきた“ならず者”たちが、主人公ジン・アーソ(フェリシティ・ジョーンズ)の言葉に賛同してデス・スターの設計図を盗む作戦に参加する。こういうプロットであるなら、エクスペンダブルのような扱いを受けてきたならず者チーム(ローグ・ワン)の悲哀を描くのが冒険小説や映画の常道だ。ところが、この映画にはそういう部分がほとんどない。「スター・ウォーズ」のスピンオフという性格上、本編とあまりにかけ離れた描き方をするわけにもいかないのだろうが、主人公とならず者たちのドラマがもっと欲しくなってくる。ギャレス・エドワーズ監督は「GODZILLA ゴジラ」もそうだったが、VFXの使い方など見せる技術は水準以上にあっても、ドラマを盛り上げる力には欠けている。ローグ・ワンたちの運命は悲劇的なのに、それが十分に機能していないのが残念だ。

「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」パンフレット

 それでも終盤、「エピソード4 新たなる希望」(1977年)につながる話になってくると、こちらの気分は高まってくる。なにしろ「新たなる希望」の冒頭、レイアの乗った宇宙船がダース・ベイダーの乗るスター・デストロイヤーに捕捉される場面の直前までを描いているのだ。2つの月が昇る惑星タトゥイーンの場面で終わる「エピソード3 シスの復讐」(2005年)を見た時、「(スター・ウォーズは)28年かかって見事に円環を閉じた」と感じた。この映画にも同じような感慨を持った。いつものジョン・ウィリアムズではなくマイケル・ジアッキーノが担当した音楽は「スター・ウォーズ」のテーマとは少し異なるメロディーで始まり、エンドクレジットで「スター・ウォーズ」そのものになる。「スター・ウォーズ」の正史から弾かれた外伝として始まった物語はここでプリクエルに昇格するのだ。

 ジンの父ゲイレン(マッツ・ミケルセン)は優秀な科学者で、デス・スターを完成させるために帝国に連れ去られる。母ライラ(ヴァレン・ケイン)はこの時、殺された。ジンは反乱軍の過激派ソウ・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)に助けられる。数年後、成長したジンは反乱軍から、父親がデス・スター建造の中心人物であると知らされる。ジンは父の汚名を晴らすため情報将校のキャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)、盲目の僧侶チアルート・イムウェ(ドニー・イェン)、その親友のベイズ・マルバス(チアン・ウェン)、ロボットのK-2SOらとともにデス・スターの設計図がある惑星スカリフに向かう。

 驚いたのはモフ・ターキンが出てくること。「新たなる希望」でデス・スターとともに死んだターキンを演じたのは1994年に亡くなった名優ピーター・カッシング。この映画に出てくるターキンを演じたのはガイ・ヘンリーという俳優だが、カッシングにそっくり、というよりカッシングそのものだ。イングヴィルド・デイラというノルウェーの女優が演じるあのキャラクターもそっくり。どちらもメイクアップだけではなく、CG処理を加えているのだろう。

 ダース・ベイダーももちろん登場して反乱軍の兵士をライトセイバーとフォースでバタバタと倒し、圧倒的な強さを見せつける。声は以前と同じくジェームズ・アール・ジョーンズだが、少しニュアンスが異なっている感じ。動きも若々しい。やはり「スター・ウォーズ」にはダース・ベイダーが出てこないと話にならないなと思う。

2016/12/04(日)「永い言い訳」

 突然のバス転落事故で妻を亡くして泣く男と泣かない男。いや、泣けなかった男、それが主人公の衣笠幸夫(本木雅弘)だ。プロ野球広島カープの元選手・衣笠祥雄と同じ読みの名前を持つ主人公はそのために小さい頃から、からかわれてきた。津村啓というペンネームを持つ作家になったのは自分の名前を気に入っていなかったことが理由の一つだろう。

「永い言い訳」パンフレット

 映画は泣けない男がさまざまな出来事を経て本当の涙を流すまでを描く。それだけなら、話は単純だが、その後にもう一つの場面がある。主人公に作家という職業を設定した以上、これはあって当然の場面だ。事故のテレビ番組に主人公が出演する場面も含めて本物と偽物、真実と嘘という前々作の「ディア・ドクター」から連なるテーマが深化して受け継がれている。

 妻が事故に遭っている時に幸夫は愛人の福永智尋(黒木華)を自宅に招いていた。観客の共感を得にくい主人公と一筋縄ではいかないテーマを西川美和監督は描写の説得力でねじ伏せる。それが発揮されるのは泣く男、トラック運転手の大宮陽一(竹原ピストル)が登場してからだ。バス会社の事故説明会で陽一は「妻を返してくれよ」と直情型の叫びをあげる。幸夫とは対照的に妻の死に打ちのめされていて、事故直前に妻から携帯に入った留守電の録音を聞き返しながら、トラックの中でカップラーメンをすする姿が悲しい。

 陽一には小学6年生の真平(藤田健心)と保育園児の灯(あかり=白鳥玉季)という2人の子どもがいる。母親を亡くし、仕事で不在がちな父親の家で、喧嘩しながらも助け合い、けなげに生きる子ども2人の姿を見るだけで観客は映画の味方になるだろう。普通の監督なら、こっちをメインに描いたはずで、それはそれで感動的な映画に仕上がったかもしれない。

 幸夫の妻(深津絵里)と陽一の妻(堀内敬子)は親友で、一緒に旅行に行く途中、事故に遭った。陽一親子と食事を共にしたことから、幸夫は陽一の不在時に子どもの面倒を見ることを買って出る。「自分のようなつまらない、空っぽの男の遺伝子が受け継がれるなんて」と考えて幸夫は子どもを作らなかった。子どもたちと過ごすうちに、その考えが変わっていく。ただし、そんなに簡単に人の本質は変わらない。涙の後の場面はそれを示してもいる。

 監督は主人公に「『物語を作る者』という私の自己像にも似たモチーフ」を込めたという。子どもが絡む場面は観客を大いに引きつけるが、幸夫自身の話に関しては必ずしも成功しているとは言えない。それでも映画は直木賞候補になった監督自身の原作よりもはるかに充実している。細部の描写が西川美和のこれまでの作品よりも一段と優れているのだ。パンフレットによれば、原作は映画のためのウォーミングアップだったそうだ。原作に心を動かされなかった人も映画には納得するだろう。

 主演の本木雅弘はもちろん良いが、出番の少ない深津絵里と黒木華も好演している。黒木華がこんなに色っぽく撮られたのは初めてだ。西川美和の描写力は大したものだと思う。同時に残酷な人でもある。「バカな顔」「もう愛してない。ひとかけらも」などという毒のあるセリフは男の脚本家だったら、書かないのではないか。