2024/04/07(日)「アイアンクロー」ほか(4月第1週のレビュー)
ドラマでもう1本、話題なのが今泉力哉監督の「からかい上手の高木さん」(TBS系)。アニメも人気を呼んだ山本崇一朗原作コミックのドラマ化。中学生の西片(黒川想矢)が同じクラスで隣の席の高木さん(月島琉衣)にからかわれる日々を微笑ましく描いています。これはTVerで配信していますが、Netflixが先行していて既に3話まで進んでます。来月末に公開予定の劇場版はこの10年後を描き、西片を高橋文哉、高木さんを永野芽郁が演じます。
「アイアンクロー」
そんなに熱心にプロレスを見ていたわけではありませんが、鉄の爪フリッツ・フォン・エリックはよく知っています。頭をつかむアイアンクローだけでなく、腹部をつかむストマッククローも有名で、当時の小中学生はよく真似していました。その後、プロレスを見ることは少なくなったため、フォン・エリックの一家がこんな悲劇に見舞われていたことは知りませんでした。悪役レスラーとして名を馳せた父フリッツには6人の息子がいました。映画は幼い頃に事故死した長男のジュニア以下、ケビン、デビッド、ケリー、マイクの5人を描いています。末弟のクリスは登場しませんが、ケビンとデビッド以外のクリスを含む3人はいずれも自殺しています。それはなぜか、を映画は描いていきます。
映画を見ると、端的に両親に原因があることが分かります。引退後もプロモーターとしてプロレスで生計を立てていたフリッツは息子たちにNWA世界チャンピオンになることを求めます。兄弟たちは尊敬する父親の期待に応えようとして無理をしていました。音楽や陸上競技の道をあきらめ、レスラーになった兄弟もいますし、来日中にホテルで急死した三男デビッドも無理がたたったためでしょう。
痛ましいのは四男ケリー。期待に応えてNWAの王者となりますが、バイク事故で右足を切断。激痛に耐えて復帰したものの、ドラッグに溺れた末、自殺してしまいます。
プロレスファンだったというショーン・ダーキン監督は唯一生き残ったケビンに取材し、脚本をケビン中心に組み立てています。ケビンを演じるのは筋肉の塊に体を仕上げたザック・エフロン。ケビンが「呪われた一家」の難を逃れたのは結婚して妻(リリー・ジェームズ)と子供たちとの幸福な家庭を持てたことが大きかったと思います。
対父親との関係では苦しいことが多かった兄弟たちですが、兄弟同士は仲が良かったようです。亡くなった4人が天国で顔を合わせる場面の幸福感が救いになっています。ダーキン監督の演出は真正面から題材に取り組む姿勢に好感が持てました。プロレスファンだけでなく、子供に干渉しすぎる親(当人に自覚はないでしょうが)も必見です。
IMDb7.7、メタスコア73点、ロッテントマト89%。
▼観客8人(公開初日の午前)2時間10分。
「ソウルメイト」
女性2人の友情を描いた中国映画「ソウルメイト 七月と安生」(2016年、デレク・ツァン監督)の韓国版リメイク。七月(マー・スーチュン)がハウン(チョン・ソニ)、安生(チョウ・ドンユイ)がミソ(キム・ダミ)となっています。リメイクとしては主演2人の好演のおかげで悪い出来ではありませんが、デレク・ツァンの演出の緊密さには及びませんでした。オリジナルは1時間50分でリメイクより14分短いですが、序盤のミソの貧しさはオリジナルの方が詳しく描いていました。そこだけでなく、全般的に描写の簡潔さ・鋭さ・鮮烈さではオリジナルの方が上ですね。監督はミン・ヨングン。
IMDb7.4、ロッテントマト95%(観客スコア)。アメリカでは限定公開。
▼観客8人(公開6日目の午後)2時間4分。
「ゴーストバスターズ フローズン・サマー」
「ゴーストバスターズ アフターライフ」(2020年、ジェイソン・ライトマン監督)に続くシリーズ5作目。といっても3作目の女性版「ゴーストバスターズ」(2016年、ポール・フェイグ監督)はオリジナルキャストが別の役名でカメオ出演したリブート作品だったので、シリーズとして話がつながっているのは4作目となります。封印されていた史上最強のゴースト“ガラッカ”が解き放たれてしまい、真夏のニューヨークが氷の世界に一変する。前作でゴーストバスターズを引き継いだスペングラー一家がそれに対抗する、というストーリー。
スペングラー家の祖父イゴン・スペングラーは第1作の脚本も書いた故ハロルド・ライミス(2014年死去)が演じていました。その孫を前作から演じているのが傑作「gifted ギフテッド」(2017年、マーク・ウェッブ監督)で天才少女を演じたマッケナ・グレイス。ストーリー上は正統な続編と言えるんですが、残念ながらキャラクターがビル・マーレー、ダン・エイクロイドら旧シリーズの面々のおかしさ、ユニークさに負けています。ビル・マーレーが出てくると、途端に映画が面白くなる、あるいは面白くなりそうな期待を持たせるんです。
監督は前作で脚本を担当したギル・キーナン。演出の緩さが致命的で、VFXも普通の出来なのがつらいところです。
IMDb6.2、メタスコア46点、ロッテントマト44%。
▼観客3人(公開4日目の午後)1時間55分。
「十角館の殺人」
1987年に出版された綾辻行人のデビュー作で新本格ブームを巻き起こした名作をHuluがドラマ化(全5話)。「あの1行の衝撃、まさかの実写化」というコピーで、その1行をどう映像化しているか興味があったので見ました(原作読んでます)。「あの1行」とは孤島の連続殺人犯が明らかになる場面のこと。講談社のサイトからあらすじを引用すると、「十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!」という物語です。
叙述トリックなので映像化は難しいんですが、まあまあ頑張ってました。ただ、犯人の隠し方が視覚的に鬱陶しいですし、殺されていく大学生たちの演技がイマイチうまくないので、一気見するほど面白くはありません。
我慢して見ていくと、原作未読の人は第4話のラストで驚くかもしれません。出演は奥智哉、青木崇高、角田晃広、仲村トオル、長濱ねるなど。監督は「相棒」シリーズなどミステリ系のドラマを多く演出している内片輝。