2006/07/07(金)名画座とDVD

 名画座が機能しなくなったのはビデオが本格的に普及した1980年代からのように思う。ビデオやDVDがあるから名画座なんていらないやと思うのは早計で、名画座は上映する映画のセレクションに意味があった。3本立ての旧作を選ぶのに監督特集やジャンルの特集を入れて系統立った見方をすることができた。観客としては名画座のセレクションを信頼しておけば、それなりに映画の蓄積はできたと思う。もちろん、これには名画座の経営者なり支配人の確固とした目が必要だ。

 今、DVDで旧作を見る場合、そういうセレクション(見るための指針)が乏しいのが難点だろう。ガイドブックはあるけれど、普通の観客(というかレンタル店の利用者)は本を買ってまで映画を勉強しようとは思わないだろう。勢い、レンタル店のお勧め文などに頼ることになるが、旧作の場合はそういうものはないし、あっても信頼できない場合が多い。それにガイドブックのたぐいは洋画も邦画も含めた名作紹介が多いのでジャンル作品を追いかけるにはユーザーの姿勢も関係してくる。

 こんなことを思ったのはDVDで「いつか読書する日」を見たから。50代の忍ぶ恋を描いた静かな映画で、端正な演出はなんだか成瀬巳喜男を思わせる。キネ旬の特集を読み返してみたら、監督の緒方明、やはり成瀬巳喜男が好きだと言っている。緒方明は僕と同い年なので、成瀬巳喜男をリアルタイムで見たわけではない。たぶん、名画座で成瀬に出会い、作品を集中的に見たのだろう。

 今、名画座の役目を肩代わりしているのは毎週テーマを決めて映画を放映しているNHKのBS2かもしれない。ただ、テレビの場合、特集するといってもなかなか毎日見る時間もないのがつらいところだ。つまらなければ、途中でチャンネル変えてしまう。つまらなくても最後まで見る(羽目になる)映画館とはそこが違う。

2006/07/03(月)「神の左手悪魔の右手」予告編

 楳図かずお原作、金子修介監督作品で22日公開。金子監督は売れっ子だなあ。故那須弘之監督の後を引き受けたとか。脚本も変えたのだろうか。そこが気懸かり。主演は「デビルマン」つながりで渋谷飛鳥(「デビルマン」のミーコ役)。

 予告編を見た限りでは普通のホラー。監督は自分のブログで「コワイですよ~」と書いている。公開規模から言えば、「Death Note」はメジャーだが、これはマイナーで、全国8館でしか公開されない。順次公開拡大していくのだろうが、DVDで製作資金回収すればいいか、という映画なのでは。

2006/04/12(水)黒木和雄監督死去

 6時すぎに共同通信のサイトを見て知った。75歳だったという。突然だったので驚いた。遺作は8月に岩波ホールで公開される「紙屋悦子の青春」になるのか。

 何度かお会いしたことがある。物腰は低いが、芯はガチガチに硬派の人だった。徹底的に反戦の思想を貫き、それが結実したのが戦争3部作だったのだろう。僕は「美しい夏キリシマ」(キネ旬1位)は「祭りの準備」よりは劣ると思うけれど、自伝的要素を含んでいることを考えれば、これを代表作に挙げても構わない。

 次の「父と暮せば」の充実度も反戦の強い意志が根底にあったからだと思う。近年の作品は傑作ばかりだった。庶民を主人公にした作品が多かったので存在は地味だったけれど、巨匠と言って差し支えないと思う。長年、映画化を希望していた山中貞雄の生涯を題材にした作品が撮れなかったのが心残りか。合掌。

2005/11/22(火)うまい脚本

 「大停電の夜に」は惜しいところで傑作になり損ねているが、それではどういう脚本がうまい脚本なのか。以前、作家の故・都筑道夫さんがキネ旬連載の「辛味亭事苑」で紹介していたテレビの「ザ・ネーム・オブ・ザ・ゲーム」の話が僕には強く印象に残っている。話はこうである。

 あるラジオ局の人気DJのもとに一本の電話がかかってくる。電話をかけてきた女は失恋によって絶望し、これから自殺するという。驚いたDJは必死でラジオから自殺をやめるように呼びかける。ありとあらゆる言葉を駆使し、「死ぬのは無意味だ」と自殺を思いとどまるよう説得する。この放送は聴取者にも大きな反響を呼び、「自殺するな」という声が多数寄せられる。ところが、女が自殺するというのは嘘だった。深夜になって、再び電話を掛けてきた女は自分が女優の卵で演技力を試してみたかったのだと話す。「あなたのお陰で自信がついた」と女は笑って電話を切る。DJは自分が騙されていたことにがっかりして放送局を出るが、局の前で暗がりから出てきた一人の女性が「ありがとう」と言って包みを渡す。包みの中には睡眠薬があった。

 もちろん、この女性はDJの呼びかけで自殺を思いとどまったのである。ハリウッドはさすがにエンタテインメントの伝統があるなと思うのはこういう脚本がテレビで出てくるからだ。どこをどうすれば面白くなるのか、それが浸透している。ショウビズの本場の底力はそんな部分に現れるのだと思う。もっとも、今のハリウッド映画の脚本がすべて優れているわけではないんですがね。

2005/02/28(月)第77回アカデミー賞授賞式

 終わってみれば、「ミリオンダラー・ベイビー」の圧勝と言っていいのではないか。作品、監督、主演女優、助演男優の主要4部門を受賞した。11部門にノミネートされた「アビエイター」は5部門を制したが、ケイト・ブランシェットの助演女優賞を除けば、主要部門に食い込めなかった。マーティン・スコセッシ、またも残念。

 「クリント・イーストウッド、私を信じてくれて、ありがとう」。スピーチで一番良かったのは主演女優賞を受賞したヒラリー・スワンクか。アネット・ベニングにも取らせてあげたかったが、仕方がない。

 クリス・ロックの司会は可もなく不可もなし、といったところだった。今年は全般的に進行があっさりしていて、壇上ではなく、客席の通路でプレゼンターがオスカー像を渡す趣向もあった。短編賞などはどういう作品なのかの紹介もなかった。実質3時間ちょっとの長さで、アカデミー受賞式は4時間ぐらいないと、なんだか物足りない。