2008/12/21(日)「ジャンパー」
テレポーテーション能力を持つジャンパーたちとそれを抹殺しようとするパラディンという組織との戦いを描く。評判メタメタの作品だったが、DVDで見る分には腹は立たない。1時間28分という短さで、アクションだけでつないだ感じ。話に奥行きがないのが致命的だ。
パラディンとジャンパーたちの戦いは何千年も続いているというよくある設定(「ナイト・ウォッチ」とか「アンダーワールド」とか)。しかし、それをうまく生かしていない。ジャンパーたちが銀行から金を盗むので、パラディンの方が善玉に見える。主人公が盗む金を悪の組織のものにするとかの工夫があれば、もっとましなものになっていたかもしれない。
スティーブン・グールドの原作はジュブナイルとのこと。これを「バットマン・ビギンズ」のデヴィッド・S・ゴイヤーらが脚本化、「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマンが監督した。原作とは随分変わっているらしいが、アクションしか知らないリーマンの才能のなさがこの程度の出来に終わった原因か。テレポートする際のVFXは良いのに惜しい。
主演はヘイデン・クリステンセン。「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベルもジャンパー役で出ている。このほか、主人公の母親役でダイアン・レイン、パラディンの凄腕の殺し屋にサミュエル・L・ジャクソン。
2008/12/20(土)「恐怖の足跡 ビギニング」
ミステリマガジンで「怪作中の怪作」と紹介されてあって、興味を持ったのでamazonで買った。発売元は低価格DVDを大量に出しているWHDジャパン。1955年の作品でナレーションはあるが、セリフは一切ない。サイレント映画を見ているような気分になる。
55分の短編なのですぐに見終わる。なんというか、なんだこれ、という感じで始まって、それなりに意味が分かるとまあまあと思えてくるが、結局、別に見なくてもいいような作品と言うほかない。狂った女の一夜の精神世界を描いた映画で、デヴィッド・リンチのテイストを100倍ぐらい薄めた感じ。DVDに表示された原題は「Daughter of Horror」。IMDBには「Dementia」(痴呆)で登録されている。評価は6.7だが、294人しか投票していない。
当時としては前衛的な作品だったのかもしれない。監督のジョン・パーカーはこれ1作しか監督していないとのこと。まあ怪作には違いないな。
2008/12/19(金)“branco(ブランコ)”サービス終了のお知らせ
SONYが運営しているインターネットテレビサービス。今年3月に始まったばかりなのに、来年1月30日で終了とのこと。会員数が目標を大きく下回ったとか。視聴はIPv6に限り、採算が取れそうなものではなかったから仕方がないだろう。僕もサービス開始当初は時々見ていたが、最近はほとんど見なかった。最近アニメ番組が多くなったのは会員を増やす意図だったのか。
画質はGyaOなどよりは相当良かったので終了はちょっと残念。
2008/11/23(日)「言えない秘密」
アイデアがあってもそれを作品にできる筆力がなければダメというのは小説の場合によく言われることだが、映画でもそれは同じこと。この作品にもそれがすっぽり当てはまる。SF的なアイデアを生かせていない。前半の青春ラブストーリーの部分が下手すぎるので、クライマックスに秘密が明らかになっても盛り上がらないのだ。これをSFとは言いたくない気分。ファンタジーなら許せるか。
映画生活のレビューでは全員が星4つ以上で87点の高評価。それなら期待してしまうが、期待値を大きく下回る出来だった。Yahooのレビューを見ると、毀誉褒貶が激しく、こちらの方がバランス的には納得できた。
淡江音楽学校に転校してきたシャンルン(ジェイ・チョウ)は、旧校舎の古いピアノで美しい旋律を奏でるシャオユー(グイ・ルンメイ)と出会う。2人は学校の帰り道に自転車で2人乗りをしながらお互いのことを語り合い、きずなを深めていく。しかしシャオユーは持病のぜんそくのせいで学校も休みがちになり……。というのが前半のストーリー。
このだらだらした前半を見ながら、秘密の予想はつき、こういうことなのだろうと思ったら、それを否定するような描写がある。あれ、そうではなかったのかと思ったら、やっぱりそういう話だったという、ふざけるのもいいかげんにしろ的展開なのである。秘密を伏せるための都合の良い描写が目に付きすぎる。要するに物語を語る技術が足りないのだ。もう決定的に足りない。これがハリウッド映画ならば、同じアイデアであっても、もう少しましなものになっただろう。
アイデアも目新しくはない。過去に何本も類似作品がある。しかもアイデア自体に破綻があって、なんでそういうことになるわけと思ってしまう。論理性を欠くのでSFと言いたくないのだ。となると、映画で評価できるのはヒロインのグイ・ルンメイだけということになるが、もう少し、魅力を引き出してほしいところ。次のルンメイ作品に期待したい。
監督・主演のジェイ・チョウは台湾のカリスマ・ミュージシャンでこれが初監督作品。第44回金馬奨で最優秀台湾映画、主題歌、視覚効果賞を受賞したそうだ。台湾映画のレベルを示すというか、賞自体の本質を示す結果としか言いようがない。この程度の出来の映画に賞をやっては本人のためにもよくないだろう。
2008/11/17(月)「ハッピーフライト」
「クライマーズ・ハイ」は落ちた飛行機を巡る群像劇だったが、この映画は飛行機を落とさないために頑張る人たちを描く群像劇。といってもユーモアを散りばめて、笑って感動してそれこそハッピーな気分になれるエンタテインメントに仕上がっている。隅々まで取材が行き届いているなというのが第一印象で、矢口史靖監督、相当に調べたようだ。キネマ旬報によれば、監督は2年間で内外の航空関係者100人以上にインタビューしたという。飛行機がホノルルに向かって飛び立ち、計器に異常が発生し、引き返すまでの数時間の間に新米の副操縦士と客室乗務員(CA)、グランドスタッフ、整備士、管制官などなどさまざまな人間を登場させ、それぞれにドラマを形成している。こんなにいろんな現場にドラマが持ち込めたのは詳しい取材の成果だろう。
憎まれ役で登場した寺島しのぶがクライマックスにきっちりした演技を見せる。その正々堂々とした正論によって客の不当な要求を収めさせ、場面をさらうところなど、とてもうまいと思う。ドラマの構成は見事と言ってよく、これだけ多くの人物を登場させながら、脚本には少しも混乱がない。ANAが全面協力しているので批判が少ないのは惜しいところだが、それでもCAの実態などカリカチュアライズした部分はあり、全面的な宣伝映画などにはなっていない。軽飛行機がぶつかったり、海に沈没したりなどハリウッドのエアポートシリーズのような大事件は起こらなくても航空映画は作れることを示した佳作。というより事故そのものではなく、人間ドラマが映画の成否のかぎを握っていることが分かっているからこそ、こういうスケールで十分なのだ。見て損はない。監督からの要求が凄かったというミッキー吉野の正攻法の音楽にも感心した。
フライトシミュレーションで失敗する副操縦士(田辺誠一)を描く冒頭を見れば、これがクライマックスにつながることは容易に想像できる。国内線から初の国際線に勤務することになった新米CA(綾瀬はるか)と、グランドスタッフを辞めようと思っている田畑智子、コンピュータが操作できずに時代に乗り遅れているオペレーション・ディレクター(岸部一徳)、若手の整備士(森岡優)などなどをさらりと描いた後、飛行機は本筋のホノルルへと旅立つことになる。バードパトロールのベンガルがマスコミを装って近づいた鳥類保護団体から妨害されたために、飛行機にはカモメが衝突、重要な機器を傷めてしまう。折しも台風が関東に近づいており、飛行機は困難な中、成田へそして羽田へと引き返すことになる。
誰が主人公というわけではない。それぞれに見せ場がある。矢口監督に言わせると、素の綾瀬はるかはスーパー・ナチュラルで、これは普通、超自然現象のことを指すが、「超天然」の意味で矢口監督は使っている。「僕の彼女はサイボーグ」に比べると、きれいなところが強調されていないのが難なのだけれど、前半のおかしさはいかにもスーパー・ナチュラルなのだった。クレイマーに泣かされる同じくCAの吹石一恵や偶然の出会いが待っている田畑智子やその他映画に登場する端役に至るまで矢口監督は気を配っていて、細部の描き方の綿密さがこの映画を成功に導いたのだなと思う。「ウォーターボーイズ」よりも「スウィングガールズ」よりもよくまとまった映画なのである。