2016/02/27(土)「スパイダー・シティ」
多数の巨大なクモが突然出現するパニック映画。2012年のテレビムービーなのでやっぱりそれなりの出来。主演はなんとエドワード・ファーロングだった。「ターミネーター2」でジョン・コナーを演じた時には将来のスターかと思ったが、そんなにうまくは行かなかったらしい。
Wikipediaのファーロングの項目を見ると、薬物・アルコール依存症になったり、妻への接近禁止命令が出されたりとかさんざんだ。若くして必要以上に注目されると、良いことはないなと思う。フィルモグラフィーはほとんどB・C級映画とテレビ。それでも出演作が途切れていないのは幸いだ。
映画はツッコミどころ満載だが、テレビでボーッと眺めている分には腹は立たない。クモが出現した理由はそれなりに説明される。このクモ、地下のシェール層に巣を作っていたが、シェールガスの開発で巣を追われ、地上に出てきた。数センチから1メートル超までサイズはさまざま。シェールガスを体内に取り込んでいるので火を噴いたりする。最後には巨大な女王グモが出現する。クモはコロニーを作らないはずで、脚本家はクモをアリやハチと勘違いしているようだ。
原題は「Arachnoquake」。IMDbの採点は2.8とメタメタだ。監督は俳優としての作品が多いグリフ・ファースト。監督としての才能は感じられないから俳優に専念した方がいいと思う。
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2016/02/22(月)「シン・シティ 復讐の女神」
9年ぶりの続編。悪がはびこるシン・シティで4つのエピソードがモノクロと効果的なパートカラーで描かれる。前作はレイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」を連想させるエピソードがメインだったが、今回はミッキー・スピレイン「裁くのは俺だ」を思わせる話がメイン。原題のサブタイトルにもなっている「A Dame to Kill For」のエピソードがそれで、ガンマンのドワイト・マッカーシーが悪女のエヴァ・ロード(エヴァ・グリーン)に翻弄される。
ドワイト役は前作のクライブ・オーウェンからジョシュ・ブローリンに代わった。オーウェンの甘いマスクに比べてブローリンはいかついので、マーヴ(ミッキー・ローク)と並ぶと、どちらも同じタイプ見えるのが難か。殺し屋のミホ役もデヴォン青木からジェイミー・チャンに代わった。これはそんなに違和感はない。
悪女を演じるエヴァ・グリーンは絶品で、アンジェリーナ・ジョリーやレイチェル・ワイズも候補に挙がったそうだが、グリーンで正解だった。色仕掛けで男を翻弄する役柄にピッタリのセクシーさを備えている。
邦題の「復讐の女神」はグリーンではなく、ナンシー・キャラハン(ジェシカ・アルバ)。シティの大物ロアーク(パワーズ・ブース)への復讐を図る。アルバは9年前とイメージが変わらず、相変わらず美人だが、3作目も9年後になると厳しいだろう。
僕は好みの世界なので面白く見たが、一般的には圧倒的に好評だった1作目よりも評価が落ちたので3作目ができるかどうかは微妙かもしれない。監督は1作目と同じくフランク・ミラーとロバート・ロドリゲスの共同。
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2016/02/15(月)「チャッピー」
デビュー作の「第9地区」で高く評価されたニール・ブロムカンプ監督の3作目。ブロムカンプは2作目の「エリジウム」が今一つの出来だったし、「チャッピー」日本公開版は残酷シーンをカットしたものという情報が流れたので劇場公開時には見る気をすっかりなくしてしまっていた。というわけでWOWOWで見た。
中盤までは普通の出来で見逃しても全然かまわなかったなと思いながら迎えた終盤の展開がとても興味深かった。「第9地区」のラストに通じるものがあるのだ。というか、あれを発展させたのが「チャッピー」の終盤ということになる。
「ロボコップ」の引用みたいなこの映画の設定(ED-209によく似たロボットも登場する)を見ると、ブロムカンプはSF好きということがよく分かるが、それ以上に人種差別というテーマと深くかかわる映画を作り続けている監督なのだと思う。南アフリカを舞台にエビという蔑称でバカにされ、スラムに押し込められたエイリアンと人間の関係を描いた「第9地区」、富裕層と貧困層に明確に分かれた世界を描く「エリジウム」にもそのテーマは明確にあった。
「チャッピー」ではどうか。これはA.I.を与えられた警官ロボットが徐々に自我に目覚めるという物語だ。チャッピーと名づけられたロボットはギャングの手に落ち、悪に染まっていくが、バッテリーが残りわずかになって死に行く自分を助けるためにある手段を活用する。終盤に至って外見よりも意識が重要というテーマがはっきりと浮かび上がってくる。
映画全体に東洋趣味(日本趣味?)がある。ギャングの男はニンジャという名前で(この俳優、芸名もNinjaだ)、そのズボンには「テンション」と片仮名で書かれていたりする。そのためもあって終盤の展開は仏教の輪廻転生も思い起こさせた。僕はこの終盤だけでも買いだと思う。
ところが、各メディアのレビューから算出したMetacriticのMETAスコアは41点と著しく低い。あまりに低すぎるので、IMDbのユーザーレビューに「Shame on Metacritic and others(メタクリティックその他は恥を知れ)」と怒りのレビューを投稿している人がいた。
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2016/01/18(月)「ブリッジ・オブ・スパイ」
終盤、東ベルリンで再会を果たした弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)にソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)が言う。「君への贈り物を預けておいた。あとで受け取ってくれ」。「僕には贈れるものが何もない」と答えるドノバンに対してアベルは「This is Your Gift(これが君の贈り物だ)」と繰り返す。ここから物語が終わった後のだめ押しの電車のシーンまで感動に打ち震えながら、感心しまくっていた。スティーブン・スピルバーグ、うますぎる。サスペンスとユーモアと、何よりもヒューマニズムの太い幹に貫かれた作劇と演出は見事と言うほかない。中盤にあるスパイ機U2撃墜のスペクタクルな描写も含めて、もう自由自在にスピルバーグは物語を語っていくのだ。
ドノバンがスパイの弁護を引き受ける序盤、本人ばかりか家族まで「ソ連の味方をする裏切り者」として民衆から非難を受ける描写は「アラバマ物語」のコピーかと思って眺めていたのだが、ソ連とアメリカが拘束した互いのスパイ交換の話になってぐいぐい面白くなってくる。アメリカ政府からの依頼で交渉役を引き受けたドノバンは東ベルリンへと向かう。そこで東ドイツに拘束された大学生フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)の存在を知り、予定の1対1から1対2に変えて捕虜交換を実現するために奔走する。アメリカが東ドイツを国として認めていないためドノバンは国の代表ではなく、民間の立場で交渉に当たる。国境を越えて東ベルリンに入るのも独力で行わなければならない。そうした困難を乗り越えて、人道的見地からドノバンは交渉を進めていくことになる。
脚本を書いたのはコーエン兄弟だが、この物語展開はスピルバーグがかなり関わったのではないかと思う。コーエン兄弟が監督していたら、まったく違ったタッチの映画になっていただろう。スピルバーグのヒューマニズムがとても好ましい。ドノバンは確かに政府の依頼で交渉に当たるが、政府の意向に反してプライヤーを助けようとする。ドノバンの行動規範は国と国の関係や国家の利益のためではなく、人としてどうあるべきかに依っている。欲を言えば、ドノバンがなぜこうした考え方を持つに至ったかを描いておけば、交渉役をすぐに引き受ける場面の説得力も増しただろうが、無い物ねだりと言うべきか。
ベルリンの壁が建設される風景や壁を乗り越えようとして射殺される人たち、冷戦下の厳しい現実を織り交ぜていながら、映画の印象はとても温かい。それは誠実さを備えた人間が苦労の末に勝利する物語だからだ。体型は少し違うけれども、トム・ハンクスはフランク・キャプラ映画のジェームズ・スチュアートを思わせる理想的なキャラクターを演じきっている。