2008/04/04(金)「マイ・ブルーベリー・ナイツ」
タイトルからして甘っちょろい映画にほとんど興味はなかったのだが、上映前にパンフレットを読んで「おおおっ」と思った。共同脚本ローレンス・ブロック…。マット・スカダーシリーズ(「800万の死にざま」とか)のブロックが脚本を書いている。そこで座り直して真剣に見ることにした。
出だしは「ふーん」と思うぐらいの出来だったが、中の2つの話が良かった。最初のアル中警官の話がいかにもブロックが加わった感じを漂わせる。次のギャンブル依存症のようなナタリー・ポートマンも良かった。この2つがいい出来なのにプロローグとエピローグがやはり甘っちょろい。もっと中の話と関連づけてはどうかと思う。スローモーション(というか、コマ落としのような感じ)を多用しているのも目障りだ。アクセントとして用いるならともかく、こんなに多いと見にくいだけである。カーウァイ、自分に酔っているのではないか。
中の話が良いのでそんなに悪い印象は持たなかったけれど、どうしても話のまとめ方に弱さを感じた。帰宅してIMDBで調べると、ブロックが映画の脚本を書いたのはこれが初めてらしい。なぜ書いたのか。パンフレットをざっと読んでみたが、どこにもその理由は書いてないようだ。
パンフレットによれば、元々、この話は「花様年華」に入れるはずのものだったという。それがプロローグとエピローグの部分なのだろう。傷心を抱えて旅に出るっという設定までがカーウァイ独自のもので、中のエピソードをブロックが担当したのではないか。それにしてもミステリ風味はないし(、ニューヨークとアル中警官という2つの点だけがブロックらしいというのはもったいない。
レイモンド・チャンドラーもヒッチコック映画の脚本は書いているので、ミステリ作家が映画の脚本を手がけるのはそんなに珍しいことでもない。それに映画は脚本通りに撮られるわけでもない。中の2つの話の厳しさをカーウァイが勘違いして甘くまとめてしまったのか。ブロックらしさのあった脚本をカーウァイが封じたのかもしれない。
ちなみにこの映画のノベライズの翻訳はスカダーシリーズを訳している田口俊樹が担当している。ノベライズの方にはブロックらしい部分が残されているのか、気になるところだ。