2005/11/22(火)「ダーク・ウォーター」
鈴木光司原作、中田秀夫監督の「仄暗い水の底から」(2002年)のリメイク。監督は「セントラル・ステーション」「モーターサイクル・ダイアリーズ」のウォルター・サレス。原版を見ていないので比較しようがないが、これはホラーというよりも母娘の絆を描いた映画と言える。ホラーとしては理に落ちた分、怖くなくなっている。物語に納得してしまえるホラーは怖くないのである。不条理の怖さ、理由のない怖さ、問答無用の怖さ、といったものはこの映画にはない。子供の頃に母親から憎まれ、捨てられたヒロインの精神状態の不安定さを利用すれば、そうした怖さが表現できたと思うが、サレスはそういう演出をしていない。睡眠薬で丸一日眠ってしまったヒロインが見る悪夢のシーンなどはもっと怖くできるのに、と思う。黒い水(ダーク・ウォーター)が部屋を浸食するようにヒロインの精神も浸食されていくような演出がもっと欲しいところではある。だから、この映画を見ると、たかが子供の霊だから怖くないんだよなということになってしまう。同じくハリウッド進出監督のホラーということで、見ていて連想したのはアレハンドロ・アメナーバルの「アザーズ」だが、あの映画で怖さ以上に魅力的だった情緒的な悲劇性もまた、この映画には薄い。映画の丁寧な作りとジェニファー・コネリーの好演に感心はしたが、映画としては水準以上のものにはなっていない。
離婚調停中のダリア(ジェニファー・コネリー)は一人娘のセシリア(アリエル・ゲイド)とルーズベルト島のアパートに引っ越してくる。ダリアは夫のカイル(ダグレイ・スコット)とセシリアの親権を争っているが、ニューヨークのアパートは家賃が高すぎてダリアには手が届かなかった。アパートは古ぼけており、管理人のヴェック(ピート・ポスルスウェイト)は愛想が良くない。親子はアパートに入った途端、気味の悪さを感じるが、家賃が安かったこともあって入居を決めた。部屋は9階。ダリアは天井には黒いシミがあるのを見つける。上の階から水が漏れているらしい。上の物音も響いてくるが、10階の部屋は空き部屋だという。いったん修理した天井のシミからは再び黒い水がしたたってくる。10階の部屋に行ってみたダリアは部屋が一面、黒い水で水浸しになっているのを見る。そしてセシリアは見えない友人ナターシャと話をするようになる。地下のコインランドリー室では洗濯機から黒い水が噴き出す。不思議な出来事と夫との親権争いが徐々にダリアを精神的に追いつめていく。
雨がしとしとと降り続く場面が象徴するように映画には湿っぽい雰囲気が充満している。それはダリアの幼少期からの不幸な境遇にも通じており、ダリアは今の娘との幸せを守ろうと必死になっている。コネリーは実際に2人の子供の母親だけあって、そのあたりの母親の愛情についてはうまく表現している。映画で惜しいのは語り口がやや一本調子になってしまったこと。これはストーリーと関係するが、途中で大きな転換の場面が欲しくなってくる。丁寧に撮った作品が必ずしも傑作になるわけではないのである。物語自体の面白さがやはり必要なのだろう。ラファエル・イグレシアスの脚本は原作(短編)を膨らまし切れていないように思う。
いい加減な不動産屋のジョン・C・ライリーといつも車の中で仕事をしている弁護士のティム・ロスのキャラクターは面白かった。ピート・ポスルスウェイトも含めて、この映画、役者の演技に関しては文句を付ける部分はない。