2005/11/22(火)うまい脚本

 「大停電の夜に」は惜しいところで傑作になり損ねているが、それではどういう脚本がうまい脚本なのか。以前、作家の故・都筑道夫さんがキネ旬連載の「辛味亭事苑」で紹介していたテレビの「ザ・ネーム・オブ・ザ・ゲーム」の話が僕には強く印象に残っている。話はこうである。

 あるラジオ局の人気DJのもとに一本の電話がかかってくる。電話をかけてきた女は失恋によって絶望し、これから自殺するという。驚いたDJは必死でラジオから自殺をやめるように呼びかける。ありとあらゆる言葉を駆使し、「死ぬのは無意味だ」と自殺を思いとどまるよう説得する。この放送は聴取者にも大きな反響を呼び、「自殺するな」という声が多数寄せられる。ところが、女が自殺するというのは嘘だった。深夜になって、再び電話を掛けてきた女は自分が女優の卵で演技力を試してみたかったのだと話す。「あなたのお陰で自信がついた」と女は笑って電話を切る。DJは自分が騙されていたことにがっかりして放送局を出るが、局の前で暗がりから出てきた一人の女性が「ありがとう」と言って包みを渡す。包みの中には睡眠薬があった。

 もちろん、この女性はDJの呼びかけで自殺を思いとどまったのである。ハリウッドはさすがにエンタテインメントの伝統があるなと思うのはこういう脚本がテレビで出てくるからだ。どこをどうすれば面白くなるのか、それが浸透している。ショウビズの本場の底力はそんな部分に現れるのだと思う。もっとも、今のハリウッド映画の脚本がすべて優れているわけではないんですがね。

2005/02/28(月)第77回アカデミー賞授賞式

 終わってみれば、「ミリオンダラー・ベイビー」の圧勝と言っていいのではないか。作品、監督、主演女優、助演男優の主要4部門を受賞した。11部門にノミネートされた「アビエイター」は5部門を制したが、ケイト・ブランシェットの助演女優賞を除けば、主要部門に食い込めなかった。マーティン・スコセッシ、またも残念。

 「クリント・イーストウッド、私を信じてくれて、ありがとう」。スピーチで一番良かったのは主演女優賞を受賞したヒラリー・スワンクか。アネット・ベニングにも取らせてあげたかったが、仕方がない。

 クリス・ロックの司会は可もなく不可もなし、といったところだった。今年は全般的に進行があっさりしていて、壇上ではなく、客席の通路でプレゼンターがオスカー像を渡す趣向もあった。短編賞などはどういう作品なのかの紹介もなかった。実質3時間ちょっとの長さで、アカデミー受賞式は4時間ぐらいないと、なんだか物足りない。