2006/01/16(月) ネタバレ
清水崇の「輪廻」を見て、この中心となるトリックは過去にも見たことがあると思ったのだが、具体的なタイトルはなかなか思い出せなかった。ようやく思い出したのがケネス・ブラナーのあの作品。リーインカーネーションも出てくるし、ほぼ同じトリックと言っていい。ただし、随分前に見たので自信がない。ネットで検索したら、懐かしの映画館 近松座というページにたどり着いた。
ここは古い映画を紹介したページで、「近松座の映画は全てネタばれです。ご注意ください」とトップページに書いてある。ケネス・ブラナー作品のトリックも確認できた。
一般的にネタバレはルール違反だし、僕も感想書く時にはネタをばらさないようにしているが、こういうページも必要だなと思う。資料的に価値があるのである。goo 映画は以前の作品についてはすべてネタをばらしたストーリー紹介を書いていたが、最近のはネタバレしないように書かれている。これだと、調べる際に困るのである。資料として役に立たない。ネタをばらされるのが嫌なら、見る前に読まなければいいのだから、資料的なページでの明記した上でのネタバレは許されるのではないかと思う。
子供の読んでる本
長男(10歳)が「魔女がいっぱい」という本を読んでいる。誰の小説かと思ったら、ロアルド・ダールだった。「ダールって面白いよ」と長男。なるほど、ダールは童話もたくさん書いているからなあ。ダールの作品はこのほかにもいろいろ読んでいるようだ。もう1つ、上下本も持っていた。こちらは「ドラゴンの眼」と言い、作者はなんとスティーブン・キングだった。キング唯一のジュブナイル、と長男に教わった。後書きに書いてあったそうで、キングが自分の子供のために書いた小説なのだという。
ちなみに僕が今読んでいるのは「回想のビュイック8」。もちろんキングの小説。親子が同じ作家の本を読むというのも何だかなあではある。
2006/01/13(金) 「99%の誘拐」がヒント
新聞記事にあった(最初に書いたのは毎日か)。仙台市の乳児連れ去り事件で犯人がヒントにしたのは岡嶋二人のこのミステリではないかという。身代金受け渡しの際に院長を電車や車でいろいろと引き回すのも似ている。この記事、犯人の供述に基づいたものではなく、単なる憶測だが、ありそうな話ではある。
原作では発煙筒をたいて、一軒家から男の子を誘拐する。犯人はそれを病院に置き換えたわけだ。この事件の身代金受け渡しの経緯は、ここだけ、本格的な計画的犯行という感じがしたのは小説を参考にしたためなのか。犯人、小説の場面を宮城県のロケーションに必死に置き換えたのだろう。最後はどうやって受け取るつもりだったのだろう。そこが気になる。原作では犯行にコンピュータが駆使されているが、今回の事件ではそれはなかった。ああいうシステムを作る力が犯人にはなかったのだから当然か。
ま、小説を実際の事件に使った例として有名なのはグリコ・森永事件があるから、こういうことは常に起きうることなのかもしれない。「この文庫がすごい!」で1位になって、売れている小説を犯行に使うとは、犯人、分かりやすいやつだな。
2006/01/12(木)「輪廻」
「呪怨」の清水崇監督の新作で、35年前に大量殺人があったホテルを題材にした映画のスタッフとキャストが怪異に襲われるホラー。中心となるアイデアは過去にも例があり、ちょっと考えただけで、設定は異なるけれどもポール・バーホーベンのあの作品とかアラン・パーカーのあの作品が思い浮かぶ。リーインカーネーションを描いた映画としてはこうするか、それこそ「リーインカーネーション」(1976年、J・リー・トンプソン監督)のようにするかしかないのだろう。また、大量殺人のあったホテルと言えば、スティーブン・キング「シャイニング」=映画化はスタンリー・キューブリック=を思い出さずにはいられず、「輪廻」は幽霊屋敷もののバリエーションとも言える(幽霊屋敷の最高傑作は「シャイニング」ではなくリチャード・マシスン「地獄の家」=映画化はジョン・ハフ「ヘル・ハウス」=だと思う)。考えてみれば、「呪怨」自体、幽霊屋敷もののバリエーションであったわけだが、あれは場に取り憑いた怨念が無関係の人まで巻き込んでいく怖さがあった。「輪廻」の場合、幽霊屋敷と生まれ変わりをミックスさせた結果、関係者のみが犠牲になることになり、それで怖さが半減している(もっとも、誰が関係者であるのかは本人にさえ分からない)。出来事に合理的な説明があるので怖くなくなったし、スケールが小さくなったのは残念だが、映画のまとまりは、脚本がしっかりしているので「呪怨」よりも上だろう。こういうジャンルで新しいアイデアを取り入れるのは容易ではないが、あと一ひねりしたいところだ。
映画監督の松村(椎名桔平)は35年前、群馬県のホテルで起きた大量無差別殺人を描いた映画「記憶」の製作を進めていた。大学教授が家族を含む11人を殺して自殺した事件。映画のオーディションに行った女優の杉浦渚(優香)はその直後から不気味な少女の幻影を見るようになる。オーディションに合格した渚はスタッフ、キャストともに事件のあったホテルへ行く。そこでも渚は不気味な幻影を見る。やがてその少女は事件の犠牲者で教授の娘だったことが分かる。渚はその少女の役を映画で演じることになっていたのだ。女子大生の木下弥生(香里奈)は小さいころから赤い屋根のホテルの夢を見続けていた。弥生は恋人の尾西(小栗旬)から自分の前世を知っているという新人女優・森田由香(松本まりか)を紹介される。由香には首に絞められたような痣があり、図書館で何者かに連れ去られてしまう。弥生は35年前の事件を調べ、やがてホテルにたどり着く。
クライマックスは犯行が記録された8ミリの映像と映画の撮影現場で渚を襲う怪異とホテルで恐怖にさらされる弥生の3つのシーンが交互に描かれる。荒れ果てたホテルが一瞬にして新しくなるところなどはそのまま「シャイニング」だが、このクライマックスの構成や映画のセットが実際のホテルにオーバーラップしていく場面は映画のオリジナルなところだと思う。冒頭、2人の男が何者かに襲われて死ぬ。実は訳の分からないここが一番怖い雰囲気がある。クライマックスが怖くなく、ある意味笑えるシーンさえあるのは訳が分かってしまったからで、だから観客の予想をもう一度裏切るようなショッキングなひねりが欲しくなるのだ。「ヘル・ハウス」が面白かったのは最後の最後まで謎を引きずった部分があり、それを解くことが幽霊の撃退につながっていたためだ。マシスンのアイデアの勝利といったところか。映画のオリジナルでああいう手の込んだストーリーを考えるのは難しいのかもしれない。
主人公の優香は恐怖に引きつる演技がなかなかうまかった。香里奈も好演しているが、一番のうまみは一シーンだけ出てくる黒沢清か。知的な感じが役柄に合っていた。この映画、一瀬隆重プロデュースによるJホラーシアターの第2弾(第1弾は2004年公開の「感染」「予言」2本立て)。僕が見た劇場では観客4人だった。いくら世界配給が決まっているとはいっても、ヒットしてくれないと、後が続かないのではないか。この映画自体、世界を意識して真っ当なホラーに(暗闇でいきなりワッと脅かすようなあざとい演出を控えめにして)仕上げたのかもしれない。
2006/01/11(水)「輝く断片」
休みだが、風邪で体がだるいので、映画には行かず、昨日届いた「輝く断片」(シオドア・スタージョン)を読む。8編が収録されており、最初の2編は昨日、寝る前に読んだ。最初の「取り替え子」は遺産相続に赤ん坊が必要だった若い夫婦が川で赤ん坊を拾う話。その赤ん坊は取り替え子(赤ん坊と入れ替わった妖精)で大人のような口をきく。この描写を読んで、「ロジャー・ラビット」に出てきた赤ん坊ベイビー・ハーマンを思い出した。ああいう乱暴な口をきくのである。気楽に読めたのはこれと次の「ミドリザルとの情事」までで、あとは(特に後半の4編は)切なく重い話である。
最後に収録された表題作は世間から用なしと思われている50代の男が通りで瀕死の重傷を負った女を見つけ、アパートに連れ帰って懸命に看病をする話。傷口の描写が細かいので、もしかしてこれはネクロフィリア(死体愛好症)の男の話かと思えてくるが、やがて女は意識が戻る。男にとっては女の世話をすることが生き甲斐になる。生来の醜い容貌で親からも見捨てられ、軍にも入れてもらえず、同僚からもバカにされる男にとってこの女は人生の輝く断片(Bright Segment)なのだ。自分が必要とされている存在であることを自覚できるからだ。「シン・シティ」のマーヴ(ミッキー・ローク)を思わせる主人公はマーヴ以上にあまりにも空虚な人生を送っており、その絶望的な孤独感が悲しい。
社会に不適格な主人公という設定は「ルウェリンの犯罪」「マエストロを殺せ」「ニュースの時間です」にも共通する。「マエストロを殺せ」の主人公も醜い容貌という設定である。こうした主人公の設定には不遇の時代が長かったというスタージョンの人生が反映されているのかもしれない。帯に「シオドア・スタージョン ミステリ名作選」とあり、「このミス」の4位にも入ったが、この短編集をミステリとして読む人は少ないのではないか。
大森望の解説を読むと、「輝く断片」はミステリマガジンの1989年8月号(400号記念特大号)にリバイバル掲載されたとある。僕はこの号を買っているはず。普段は雑誌掲載の短編を読まないとはいっても、記念特大号には名作・傑作が収録されているのでいくつかは読む。それでも読んでいないということは当時は食指が動かなかったのか。ちなみにミステリマガジンは2月号がちょうど600号。記念特大号の特集は3月号で2005年ミステリ総決算と合わせてやるらしい。
2006/01/10(火) キネマ旬報ベストテン
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