2008/07/13(日)「山桜」
藤沢周平の原作を篠原哲雄監督が映画化。予告編は随分前から流れていて、田中麗奈も篠原哲雄も好きなので少し期待していた。見終わった感想としてはほぼ水準作の映画で、それ以上でも以下でもない。藤沢周平原作の映画であるならば、どうしても山田洋次の3部作と比べられるのは仕方がない。そして比べてしまうと、元も子もなくなる映画である。
富司純子が出てくる最後の場面で泣かせるし、ゆったりとした映画の展開も真っ当なのだけれど、話が古く感じる。いや、例えばここで描かれる悪徳武士であるとか、苦しめられる農民であるとか、正義感に燃える武士たちは何も悪くない。問題は描写の密度なのだろう。山田洋次作品で徹底的にリアリティーを与えられていた武士の家の古びた様子はここにはなく、なんだか小ぎれいなたたずまいだ。
話も小ぎれいにまとまっていて、だからリアリティーを欠いてしまっている。こうしたありきたりの描写が話を古く感じさせる要因なのだろう。うまい描写で見せられれば、話の古さなどは感じないものなのである。だいたい、山田作品と同じく庄内のたぶん海坂藩なのにどうして方言(「がんす」)が出てこないのか。標準語でしゃべる登場人物たちが一番リアリティーを欠いている。
主演の東山紀之と田中麗奈も悪くない。悪くないのだけれど、どちらもミスキャストではないかと思えてくる。田中麗奈は基本的にちゃきちゃきした現代っ子なのだ。それが寡黙さを演じるには少し無理がある。というか、魅力を消している。どうも小さな齟齬が積み重なって映画の出来を悪くしている感じがする。神はやっぱり細部に宿るのである。