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2023年06月04日の記事

2023/06/04(日)「怪物」ほか(6月第1週のレビュー)

 「怪物」はカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した是枝裕和監督作品。坂元裕二の脚本は物語を母親・麦野早織(安藤サクラ)と教師・保利(永山瑛太)、早織の息子で小学5年の湊(黒川想矢)の3人の視点で順番に描いていきます。よく黒澤明「羅生門」(1950年)と比較・言及されていますが、「羅生門」の場合は各視点の証言が並列だったのに対して、この映画は母親と教師の視点で描かれた物語の謎の部分が子供の視点で明らかになる構成を取っています。ミステリー的な構成であり、当初付けられていたタイトルも「なぞ」だったそうです。

 三章構成にしたのは「坂元さんは連続ドラマの人だから、その作り方を映画に取り入れられないか」というプロデューサー(川村元気、山田兼司)の提案によるもの。この構成は実にうまくいっていて、湊の理解できない行動を断片的に積み重ね、謎が深まる安藤サクラのパートが個人的には最も面白かったです。

 クラスでいじめられている星川依里(柊木陽太)と湊の秘密の交流を描く子供視点のパートは物語の全貌が分かると同時にLGBTQのテーマを描いていて、カンヌでクィア・パルム賞を受賞したのはここが評価されたからでしょう。

 ただし、ここは例えばセリーヌ・シアマ監督作品のような先行するLGBTQの映画に比べて特に優れていたり、新しかったりする部分があるわけではありません。坂元脚本が優れているのはLGBTQのテーマ以上に人と人の相互理解が難しい状況、意図しない断絶が起きている状態を描いているからです。思い込みや無知によって誤解が生まれ、それが解消されない悲しい状況。黒澤明は「羅生門」のラストでヒューマニズムと希望を(降り続いていた雨がやみ、日が差してくるという非常に分かりやすい演出で)提示しましたが、「怪物」の少年たちの置かれた状況は簡単な解決を望めそうにはありません。

 怪物が意味するものは学校に抗議に来るモンスターペアレントでも、子供を傷つける暴力教師でもなく、子供たちが自分ではコントロールが難しい感情や衝動など心に抱えているものなのでしょう。パンフレットに作家の角田光代がコラムを寄せていて、「私たちの内にいるかもしれない、ちいさくてもろい、すべての怪物に寄り添う映画だった」と書いています。深く納得できる指摘だと思います。少年2人のナイーブな演技が良く、校長先生役の田中裕子の無表情の中に本音を潜ませた演技も時におかしく絶妙でした。2時間6分。
▼観客多数(公開初日の午前)

「レッド・ロケット」

 2016年のテキサスを舞台にしたドラマ。主人公のマイキー(サイモン・レックス)は利己的で嘘つきでどうしようもないクズですけど、クズを描いても映画はクズにはならず、面白く仕上がっていると思いました。サイモン・レックスと妻役のブリー・エルロッド、マリファナ販売の元締めジュディ・ヒルを除くと、他の出演者は全員素人。テキサス在住の人たちだそうですが、初めてとは思えない演技を見せています。ストロベリー役のスザンナ・サンはロサンゼルスの映画館で監督にスカウトされたとか。今後も出演作が続きそうな魅力がありますね。

 ショーン・ベイカー監督の作品は前作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)を見ていますが、安モーテルで暮らす2人のシングルマザーとその子供を描いた映画でやっぱり貧しい人たちの話でした。
IMDb7.1、メタスコア76点、ロッテントマト90%。
▼観客3人(公開12日目の夜)

「クリード 過去の逆襲」

 「ロッキー」のスピンオフシリーズの第3弾。シルベスター・スタローンは製作にクレジットされていますが、プロデューサーと意見の相違があって参加しなかったそうです。監督はライアン・クーグラーに代わって主人公アドニス・クリード役のマイケル・B・ジョーダンが務めています。

 アドニスと少年時代に仲が良かったデイム(ジョナサン・メジャース)が18年ぶりに刑務所から出所、ボクシングを再開して世界チャンピオンになり、引退していたアドニスに勝負を挑むという展開。このシリーズ、アドニスには経済的なハングリーさが元からなく、精神的なハングリーさもチャンピオンになったことでなくなったはず。その代わりデイムはハングリーの固まりで、特に前半はメジャースのうまさもあって見せるんですが、後半は残念ながら単なる悪役になった印象です。話の作りに無理がある以上、シリーズを続ける意味は薄いと思えました。

 マイケル・B・ジョーダンは日本アニメのファンだそうで、エンドクレジットの後に日本のスタッフに作らせた短編アニメ「クリード 新時代」が流れます。予告編みたいな感じでしたが、長編も作るんでしょうかね。
IMDb6.9、メタスコア73点、ロッテントマト88%。
▼観客3人(公開5日目の午後)

「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」

 配信を待とうかと思っていましたが、興収100億円を超えたそうなので劇場へ。イルミネーション・スタジオの作品なので3DCGアニメの技術はしっかりしています。マリオとルイージの兄弟が勤めていた会社から独立して配管工事の会社をスタートさせる出だしは好調。

 しかし、兄弟がブルックリンの下水道から異世界に飛ばされた後はストーリーに工夫が乏しく、1時間34分の上映時間でも長く感じました。子供とゲームファン向けの内容で、広がりに欠けます。監督はアーロン・ホーヴァスとマイケル・ジェレニック。1時間34分。
IMDb7.2、メタスコア46点、ロッテントマト59%。
▼観客多数(公開34日目の午後)