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2024年01月21日の記事

2024/01/21(日)「ゴールデンカムイ」ほか(1月第3週のレビュー)

 テレ東のドラマ「SHUT UP」の第6話「一夜の真実と性的同意」は実にタイムリーな内容でした。何がタイムリーかって、松本人志の性加害疑惑の根底に通じるからです。このドラマ、同じ大学寮に住む4人の貧しい女子大生の1人が妊娠し、中絶費用を稼ぐために3人がパパ活をしたことから悪意と不運の連鎖で危機に陥る物語。

 妊娠した女子大生は「自分が男のアパートに付いていったから」という負い目を感じていますが、性暴力を考える団体の代表と話し、「そうじゃない、性行為の同意なんてしていなかった」ことに気づきます。つまり、「ホテルのスイートで開く飲み会なんだから、そういうつもりで参加してるんだろ」という勝手な論理を振りかざす松本擁護者たちがいかに単細胞的考えなのかが分かるんですね。

 仁村紗和、片山友希、莉子、渡邉美穂の貧しい4人に加えて裕福な女子大生役で芋生悠。このキャスティングだけでも見る価値あると思いましたが、性暴力の本質を突くこのドラマの価値はそれ以上だと思います。
オープニングの「春に涙」↓

「ゴールデンカムイ」

 野田サトルのコミックの映画化。全31巻の原作のうち、今回映画化されたのは4巻の途中まで。このペースでいくと、あと7、8本作らないと終わりませんね。

 かなり忠実な映像化で、原作通り日露戦争の二〇三高地の苛烈な戦闘場面から幕を開け、北海道でアイヌの金塊をめぐる争奪戦を描いていきます。全体的にもう少し描写を引き締め、構成を緊密化した方が良いですが、悪くない映画化だと思いました。

 主人公の“不死身の杉元”(山崎賢人)は日露戦争後、北海道で砂金採りをしていた時に網走監獄の元囚人(マキタスポーツ)から金塊の話を聞きます。金塊はアイヌが密かに貯めた20貫(約80億円)で、その地図は脱走した囚人24人の体に暗号の刺青で彫られているとのこと。杉元は地図を求め、金塊に絡んで父親を殺されたアイヌの娘アシリパ(山田杏奈)とともに行動を開始します。これに鶴見中尉(玉木宏)配下の帝国陸軍第七師団、戊辰戦争で戦死したはずの新撰組の“鬼の副長”土方歳三(舘ひろし)の一味も加わり、三つ巴の争奪戦となります。

 原作のアシリパは13~14歳ぐらいに見える少女なので、山田杏奈では10歳ぐらい年長ですが、イメージを損なってはいません。玉木宏や舘ひろしの面構えも原作以上の貫録と凶悪さを感じさせて良いです。

 脚本の構成で原作と異なるのは杉元が金塊を狙う理由を最後に持って来たこと。これはうまいアレンジだと思いました。残念なのはCG(実写?)を組み合わせたにしても着ぐるみ感が目立つヒグマとの戦いで、「レヴェナント 蘇りし者」(2015年、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)ぐらいの迫力が欲しかったところです。

 監督は「HiGH & LOW」シリーズの久保茂昭(「ハイロー」シリーズは2作目がアクションに見応えのある傑作でした)。アクション監督は「キングダム」シリーズなどの下村勇二。冒頭の二〇三高地の場面をはじめ、アクションシーンは原作より膨らませています。脚本は「キングダム」シリーズやドラマ「東京MER」などの黒岩勉。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間8分。

「カラオケ行こ!」

 中学3年生の合唱部部長・岡聡実(齋藤潤)はヤクザの成田狂児(綾野剛)から歌のレッスンを頼まれる。狂児の所属する暴力団・祭林組ではカラオケ大会で最下位になると、組長(北村一輝)から“恐ろしい”罰を与えられるため、上達してビリを回避する必要があったのだ。狂児の持ち歌はX JAPANの「紅」。ビビっていた聡実はカラオケを通じて狂児と少しずつ交流を深めていく。

 和山やまのコミックを山下敦弘監督、野木亜紀子脚本で映画化。おかしくて何度も笑いましたし、よくまとまった映画と思います。ただ、終盤に意外にドラマティックな展開があるにしても、なんとなく物足りない思いが残りました。綾野剛は「花腐し」のボソボソしゃべる話し方より、こういう役柄の方が似合った感じがします。合唱部顧問の教師役・芳根京子はホントにピアノ弾いているのに感心。ピアノは特技とのこと。

 エンディングに流れるリトグリの合唱コラボの「紅」がとっても良くて、繰り返し聴いてます。「くーれなーいーに染ーまーった、こーのおーれーをー…」

▼観客10人(公開4日目の午後)1時間47分。

「ポトフ 美食家と料理人」

 「青いパパイヤの香り」(1993年)「第三夫人と髪飾り」(2018年)のトラン・アン・ユン監督作品。

 美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は愛し合っていたが、自由を尊ぶウージェニーはドダンの求婚を断り続けていた。ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは豪華なだけでテーマもない大量の料理にうんざりする。食の真髄を示すべく、最もシンプルな料理ポトフで皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるが、ウージェニーは病に倒れてしまう。

 序盤はずーっと、料理を作っているシーンで、ああこうやって料理人が作って美食家が食べて終わりの映画かと思いそうになりましたが、上記のようなストーリーがあります。映像の叙情性は良いんですが、個人的にはあまり興味を持てない内容でした。ビノシュは何歳なんだろうと思わず調べてしまうようなシーンあり(59歳でした)。
IMDb7.5、メタスコア83点、ロッテントマト99%(観客スコアは27%)。カンヌ国際映画祭監督賞。
▼観客11人(公開5日目の午後)2時間16分。

「コンクリート・ユートピア」

 大地震で壊滅したソウルで唯一崩落を逃れたマンションを舞台にしたドラマ。マンションには周辺の生存者たちが押し寄せ、殺傷、放火が起こり始める。住人たちはリーダーを決め、住人以外を遮断することにする。リーダーに選ばれたのは902号室のヨンタク(イ・ビョンホン)。マンションが安全で平和な“ユートピア”と化していくにつれ、ヨンタクは権勢を振るうようになる。

 ユートピアと言いつつ、ディストピア化するのは容易に予想できます。大災害に見舞われたのに行政の救出活動が一切ないのは不自然で、災害の規模も明確ではありません。狭い範囲での災害シミュレーションなのでしょうが、従来のドラマや映画で描かれた人間の醜さが繰り返されるだけで新味がないのがつらいところです。オム・テファ監督。
IMDb6.7、メタスコア73点、ロッテントマト100%。
▼観客10人(公開14日目の午後)2時間10分。