メッセージ

2024年12月22日の記事

2024/12/22(日)「【推しの子】The Final Act」ほか(12月第3週のレビュー)

 NHK-BSで再放送している朝ドラ「カーネーション」(2011年)を予約録画して毎日見てます。昨日はなぜか2話連続放送で、たまたまリアルタイムで見ていたら、いきなり2話目が始まり、慌てて録画ボタンを押しました。本放送時の放送日程がちょうど年末年始にかかったところで、前週分は3話、今週分は4話しかなく、調整のためだったのでしょう。

 その「カーネーション」の主人公・小原糸子(尾野真千子)が終戦後の混乱期に「うちは負けへんでっ」と空に向かって叫ぶのを見て、「あ、スカーレット・オハラだ」と思いました。検索してみたら、この場面に限らず、糸子とスカーレットの類似性を指摘している人は多かったです。脚本の渡辺あやが糸子にスカーレット・オハラを投影しているのは間違いないんじゃないかな。なんせ、小原=オハラですからね。

「【推しの子】The Final Act」

 赤坂アカ×横槍メンゴのコミックを映画化。表示されたタイトルは「【推しの子】」だけで、「The Final Act」の文字はありませんでした。amazonプライムビデオで配信したドラマシリーズ全8話が傑作だったので期待しましたが、端的に言って失敗してます。足りなかったのは演技力か演出力か予算か…。いや、覚悟が足りませんでした。何の覚悟か。映画で配信ドラマの続きを作る覚悟です。

 劇場版がドラマの完結編であるなら、すぐにドラマの続きが始まると思ってしまいますが、1時間近くは原作第1巻の語り直しでした。高千穂の病院で密かに双子を産んだアイドルの星野アイ(齋藤飛鳥)が数年後、ファンに殺され、成長した子供のアクア(櫻井海音)が犯人を操った黒幕への復讐を誓うところまで。確かにこの部分、ドラマ版ではサラッとダイジェスト的に描かれただけで、原作・アニメファンはここで離脱した人もいたのではと思わせたんですが、それにしたって今さら感がありありで、「早くドラマの続き見せろ」という気分になってきます。

 製作・配給の東映は劇場での興行がメインですから、劇場版をないがしろにするわけにはいかないのでしょう。ドラマを見ていない観客のためにこういう全方位外交的作りになったのだと思います。

 しかし、ここに時間をかけてしまったことで続きの部分を十分に描く時間がなくなってしまい、案の定、後半もダイジェスト的描き方に終わっています。重要なキャラである有馬かな(原菜乃華)も黒川あかね(茅島みずき)もMEMちょ(あの)もほとんど書き割りのように薄っぺらな扱い。

 原作もアニメもドラマも知らない観客はこの映画を見て、話題の「【推しの子】」はこんなものか、と思うかもしれません。冗談じゃない。全11章のうち2章から8章までがこの映画にはないんです。序盤と終盤だけをつないだ中抜きの作り。中抜きの中の部分はドラマで描いたんですが、初見の観客にそんなことは分かりません。いったい、こういう作りで誰が得するんでしょう。

 ドラマを見ていることを前提にした劇場版を製作委員会が許さなかったということなのでしょう。最近の例で言えば、「劇場版『進撃の巨人』完結編THE LAST ATTACK 」は初見の観客のことなど微塵も考えていない潔い作りをしていました。あれで良いのだと思います。配信の視聴者は少ないでしょうから、確かに配信ドラマ前提の劇場版は難しいとは思いますが、それなら、ドラマは地上波でやった方が良く、そもそもの企画の立て方に誤りがあったということになります。監督にも俳優にも十分な実力があり、傑作になるポテンシャルを秘めていたのに、この作り方が台無しにしてしまったわけです

 こんなことなら、ドラマで最後まで作った方が良かったです。いや、今からでも作ってほしいです。amazonプライムビデオは「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」のシリーズ版を配信していますが、これは前章・後章の映画版を分割してシリーズ化したのだろうと思ったら、実は全18話のシリーズを先に作り、劇場版はそれを再編集したもので、シリーズの6話分が劇場版にはないそうです。ドラマ「【推しの子】」もあと3話ぐらいで完結させられるでしょう。ドラマ版での完結をぜひ。

 若い俳優たちの好演を映画で十分に生かせなかったのはかえすがえすも残念です(齋藤飛鳥だけはドラマより映画の方が出番が多かったですけど)。原作のラストは論議を呼びましたが、映画版は状況的には同じであるものの、少し変えてありました。監督はスミス、脚本は北川亜矢子。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間9分。

「陪審員2番」

 クリント・イーストウッド監督作品ですが、劇場公開はなく、配信スルー。独占配信のU-NEXTで見ました。

 陪審員に任命されたジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は担当する事件を知って愕然とする。事件があったのは昨年10月。酒場で恋人同士が言い争い、怒った女は雨の中を歩いて帰り、男は車で帰った。翌朝、女は橋の下で死体となっていた。恋人の男が殴り、橋から投げ落として殺したとして警察は男を逮捕した。ちょうど事件の夜、ジャスティンは車を運転中に事件現場で何かをはねた。鹿かと思ったが、周囲は暗く、確認はできなかった。もしかしたら、自分がはねたのは女だったのではないか。男は無実なのではないか。告白できないまま、ジャスティンは被告の無罪を主張する。陪審員で元警官のハロルド(J・K・シモンズ)も事件に不審な点を感じ、ジャスティンに賛同する。

 12人の陪審員のうち、主人公だけが被告の無罪を主張し、それが広がっていくあたり、「十二人の怒れる男」(1957年、シドニー・ルメット監督)を思わせますが、大きな違いは主人公が真犯人であるかもしれないことです。ジャスティンには飲酒運転で有罪となった前科があり、今回の事件を起こしたことが分かれば、終身刑の可能性があると、相談した弁護士は忠告します。妻は妊娠中(やがて出産)。自分が終身刑になれば、妻と子供はどうなるのか。

 大傑作ではありませんが、イーストウッドは的確かつコンパクトな演出に努めていて、描写に無駄な部分がありません。出来は前作「クライ・マッチョ」(2021年)より格段に良く、94歳でこの演出手腕は立派です。裁判を担当する女性検事に「アバウト・ア・ボーイ」(2002年)、「ヘレディタリー 継承」(2018年)のトニ・コレット、被害者の女性役をイーストウッドの娘のフランチェスカ・イーストウッドが演じています。
IMDb7.1、メタスコア72点、ロッテントマト93%。1時間54分。

「ザ・バイクライダーズ」

 1960年代から70年代にかけてのバイク集団の隆盛と衰退を描いたドラマ。監督のジェフ・ニコルズはダニー・ライオンの写真集「The Bikeriders」にインスパイアされ、実在のアウトローズ・モーターサイクル・クラブをモデルにして物語を作ったそうです。

 語り手となるのはバイク乗りのベニー(オースティン・バトラー)の妻キャシー(ジョディ・カマー)。映画はキャシーへのインタビューの形で、ベニーが入ったバイク集団ヴァンダルズを描いています。ヴァンダルズのリーダーはジョニー(トム・ハーディ)で、ベニーはその信頼を得ていきます。ヴァンダルズは各地に支部ができるほど拡大しますが、やがて敵対するクラブが現れ、最悪の事態を招いてしまいます。

 グループのメンバーではなく、妻の視点から描いたことで第三者的な視点を入れられて良いです。というか、ジョディ・カマーが良いです。ジェフ・ニコルズ監督は1978年生まれですが、ザラついた画面の効果もあってノスタルジーを感じさせる映画に仕上げています。
IMDb6.7、メタスコア70点、ロッテントマト80%。
▼観客6人(公開4日目の午後)1時間56分。

「対外秘」

 タイトルからスパイ映画かと思ったら、1992年の釜山を舞台に土地の利権を巡る政治家とヤクザと闇の権力者の争いでした。裏切り裏切られの展開が「仁義なき戦い」を思わせます。

 面白さも「仁義なき戦い」風で、話がどこに転がっていくのか分かりません。監督は「悪人伝」(2019年)のイ・ウォンテ。国政選挙の投票箱と投票用紙をそっくり偽造して選挙に勝つなど信じがたい描写があって、何かモデルになった事件があったのかと思いましたが、特にないようです。当時の韓国がけっこう無茶苦茶だったということはあるんでしょうかね。
IMDb6.3、メタスコア、ロッテントマト評価なし(アメリカでも公開しているようですが、規模は小さかったのでしょう)
▼観客7人(公開6日目の午後)1時間56分。

「はたらく細胞」

 体内の白血球や赤血球、ナチュラルキラー細胞などを擬人化して描いたコミックの実写化。ダブル主演の永野芽郁が赤血球、佐藤健が白血球を演じています。アニメを何話か見た程度の知識ですが、アニメでは気にならなかったのに、役者が演じると学芸会に見えてしまって、やや興ざめでした。

 描かれるのは漆崎茂(阿部サダヲ)と日胡(にこ=芦田愛菜)親子の体内の様子。主に急性骨髄性白血病にかかった日胡の病状変化から回復までをメインに描いていますが、抗がん剤の使用や骨髄移植などの描き方がやや安易に感じました。免疫の働きなどを描くのであれば、単なる風邪でも良かったんじゃないでしょうかね。

 本筋にはあまり関係のないウンチの下ネタ入れているのは子供が喜ぶからなのでしょう。監督は「翔んで埼玉」(2019年)などの武内英樹。が原作者として清水茜、原田重光、初嘉屋一生の3人クレジットされています。
▼観客17人(公開4日目の午後)1時間50分。

「クレイヴン・ザ・ハンター」

 「スパイダーマン」のヴィランであるクレイヴン・ザ・ハンターをフィーチャーしたスーパーヒーロー・アクション。ライオンの血とアフリカの部族の秘薬で超能力を得た名家クラヴィノフ家の跡取りセルゲイ(アーロン・テイラー・ジョンソン)がクレイヴンを名乗り、裏社会の悪人たちを狩っていく話です。

 セルゲイの父親(ラッセル・クロウ)も悪人で、クレイヴンと対立していくことになります。アメリカでは酷評されていますが、退屈な前半はともかく、後半はまずまずと思いました。マーベル作品が飽きられていることも低評価の要因なのでしょう。監督は「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」(2014年)のJ・C・チャンダー
IMDb5.5、メタスコア35点、ロッテントマト14%。
▼観客4人(公開7日目の午後)2時間7分。

「美晴に傘を」

 劇団牧羊犬を主宰する渋谷悠の初長編映画。オンライン試写で見ました。自閉症の美晴とその家族の再生の物語です。

 息子の光雄(和田聰宏)をがんで亡くした漁師・善次(升毅)の元に光雄の妻・透子(田中美里)が娘の美晴(日高麻鈴)と凛(宮本凜音)を連れて訪ねてくる。透子は聴覚過敏を持つ美晴を守るのに必死で、光雄が亡くなってから娘を守る決意を強くしている。美晴は守られてきた世界から一歩でも外に踏み出したいと願うものの、失敗したり不安を感じたりすると、布団を被り夢の中に逃げ込む。そこは父の光雄が生前病床で書いた「美晴に傘を」という絵本の世界だった。

 日高麻鈴は悪くないんですが、同じ自閉スペクトラム症の演技ではドラマ「ライオンの隠れ家」(TBS)の坂東龍汰のとことんリアルなセリフ回しと身振りを見た後では見劣りがします。坂東龍汰がうますぎるので、仕方ないんですけどね。物語も演出も特に際立ったところはないように思えました。
 劇場公開は2025年1月24日の予定です。