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2025年10月19日の記事

2025/10/19(日)「DREAMS」ほか(10月第3週のレビュー)

 東京国際映画祭のチケットが昨日発売され、僕は6作品のチケットを買いました。例年同様、どの映画の販売ページもアクセス集中でなかなか開かないことが多かったのですが、中川龍太郎監督の「恒星の向こう側」は特に混雑しているようで、購入ページを開くのに10分以上かかりました。

 コンペティション部門はさすがに競争が激しいなと思ったんですが、映画祭のサイトをよく見たら、僕が買った回は舞台あいさつとQ&Aコーナーが予定され、監督のほかに女優の朝倉あき、久保史緒里(元乃木坂46)が登壇するのでした(主演は福地桃子なんですけど)。なるほど、アクセスが殺到するわけです。買えたのはかなり後ろの席。久保史緒里、豆粒ぐらいにしか見えないでしょうねえ。

「DREAMS」「SEX」

「DREAMS」「LOVE」「SEX」パンフレット
パンフレットの表紙
 「DREAMS」はダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督による「オスロ 3つの愛の風景」三部作の1本で、ノルウェー映画として初めてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しました。

 17歳の高校生ヨハンネ(エラ・オーヴァービー)は新任の女性教師ヨハンナ(セロメ・エムネトゥ)に恋をする。手編みを習う名目でヨハンナのアパートに通うようになるが、やがてヨハンナには女性の恋人がいることが分かる。失恋したヨハンネは1年後、ヨハンナとの付き合いを手記にまとめる。手記を読んだヨハンナの祖母(アンネ・マリット・ヤコブセン)と母(アネ・ダール・トルプ)は2人の生々しい性的描写にショックを受け、波紋を引き起こす。

 母親がヨハンナの思いを「同性愛の始まり」と言ったことにヨハンナは不服そうな顔をします。ヨハンナにとっては単なる愛する心であり、異性愛との区別はないのでしょう。10代の女の子の初恋を描いていて、30代・40代の愛を描いた他の2作より若い世代に受ける映画なのではないかと思います。
IMDb7.3、メタスコア81点、ロッテントマト92%。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間50分。

 三部作のもう1本「SEX」は前日に見ました。意図せずに男とのセックスを経験した夫が妻にそのことを話したことで、夫婦間にひずみが起こる展開。夫は罪悪感が全くなかったことから、妻に正直に打ち明けたんですが、妻は夫の行為を浮気と断定し、大きく傷つきます。

 ハウルゲード監督の三部作に共通するのはディスカッションドラマの様相があることですが、これはほぼ全編ディスカッションという感じ。エモーショナルな部分が少なかったことで、評価も他の2作ほど高くなっていません。

 観客が僕だけでしたけど、これはこのタイトルの影響もありそうです。原題がそうなので難しいんですが、女性が窓口ではなかなか言いにくいタイトルだと思います。

 この三作、同性愛を含めた愛のトリロジーになっていて、僕は「LOVE」「DREAMS」「SEX」の順で良かったと思いました。
IMDb6.6、メタスコア69点、ロッテントマト82%。
▼観客1人(公開7日目の午後)1時間58分。

「ハウス・オブ・ダイナマイト」

 核戦争の危機を描き、「未知への飛行」(1964年、シドニー・ルメット監督)を思わせるサスペンス。

 アメリカに向かってくるICBMが確認される。国内のどこかの都市に着弾するのは確実で、それまでの時間はわずか18分。映画はこの18分間を3人の登場人物の視点で繰り返します。

 ミサイルはどこから発射されたのか分かりませんが、軌道から見て恐らく北朝鮮と推測されます。米軍は迎撃ミサイルを2発発射しますが、1発は軌道を外れ、もう1発も迎撃に失敗。秒速6キロで進むミサイルをミサイルで撃ち落とすのは「弾丸を弾丸で撃つようなもの」であり、「迎撃できる確率は61%」というセリフが出てきます。

 大統領はこれ以上の攻撃を防ぐため、相手国への報復攻撃を迫られます。3レベルの攻撃をレア、ミディアム、ウェルダンと例えるのが怖いです。キャスリン・ビグロー監督はいつものように骨太の演出で見せますが、別の視点とはいっても18分を3度繰り返す脚本(ノア・オッペンハイム)には一考の余地があると思いました。

 出演は米軍大佐にレベッカ・ファーガソン、大統領副補佐官にガブリエル・バッソ、大統領にイドリス・エルバ。

 タイトルは爆薬がいっぱいに詰まったような状態で一触即発の現在の世界を意味しています。どこかの国が核ミサイルを発射したらそれで世界は終わりなわけです。24日からNetflixで配信されます。
IMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト84%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間52分。

「風のマジム」

「風のマジム」パンフレット
「風のマジム」パンフレット
 実話を基にした原田マハの小説を伊藤沙莉主演で映画化。沖縄産サトウキビを原料にしたラム酒作りを目指す女性派遣社員を描いています。クライマックスに社会人の常識としてはあり得ないと思える展開があり、気になったので原作を読みました。ここ以外はよくまとまった映画だと思います。

 気になった部分を具体的に書くと、派遣社員である主人公の伊波まじむ(伊藤沙莉)は南大東島のサトウキビを材料に沖縄の醸造家・瀬名波(滝藤賢一)に依頼してアグリコール・ラムを作る企画で社内コンペに応募します。それをサポートする正社員の先輩・糸数啓子(シシド・カフカ)は醸造家として有名な東京の朱鷺岡(眞島秀和)を提案、まじむもいったんはこれに納得します。しかし、朱鷺岡の横柄な人柄と言動に反発を覚えたまじむは純沖縄のラム酒にしたいと、醸造家を瀬名波に替えたプレゼン資料を内緒で用意し、役員にそれを配って説明します。同じチームの先輩に無断でこれをやるのはどう考えてもおかしいです。だまし討ちのようなやり方をせず、先輩の説得を試みるのが先でしょう。

 原作でもこの流れではあるんですが、先輩のキャラが映画より意地悪になっていて、啓子は本音ではこう思ってます。

 「沖縄産ラム酒製造なんて面倒くさいだけさ。こんな事業やられたらうちもたまったもんじゃないよ。さっさとつぶして、次いかなくちゃでしょ」

 だから、まじむが啓子の意図に反した資料を用意するのもまあ納得できるわけです。映画も啓子のキャラをもっと意地悪く描いた方が良かったのでしょう。

 まじむのモデルとなったのは南大東島に本社があるグレイスラム株式会社の代表取締役・金城祐子さん。原田マハは作家になる前に取材し、いつか小説に書くことの了承を得ていたそうです。

 「まじむ」は沖縄ことばで「真心」の意味。監督の芳賀薫はCMディレクターなどを経て、これが映画監督デビュー。
▼観客20人ぐらい(公開5日目の午後)1時間45分。

「おーい、応為」

「おーい、応為」パンフレット
「おーい、応為」パンフレット
 葛飾北斎の娘お栄の生涯を描く大森立嗣監督作品。飯島虚心「葛飾北斎伝」と杉浦日向子「百日紅」を原作としています。

 北斎から「応為(おうい)」の雅号を与えられるお栄を演じるのは長澤まさみ。男勝りのお栄を魅力的に演じていますが、それでも魅力の引き出し方がまだ足りないと思えるのは大森監督の「MOTHER マザー」(2020年)でも感じたことではありました。

 北斎を演じるのは永瀬正敏、絵師の善治郎に高橋海人。出演者は良く、セットにも問題ないのに今一つ焦点が絞り切れていません。絵師としてのお栄をもっと見たかったです。

 杉浦日向子原作をアニメ化した原恵一監督の「百日紅 Miss HOKUSAI」(2015年)は公開時に見ましたが、それほど面白くなかった記憶があります。見直してみようと配信を探しましたが、ありません。録画もしていませんでした。ふとWOWOWオンデマンドを見たら、あるんですね、これが。WOWOWでは11月20日に再放送しますので、録画しておこうと思います。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間2分。