2025/06/29(日)「JUNK WORLD」ほか(6月第4週のレビュー)
「JUNK WORLD」

ただ、奇怪な生物が跋扈する地下世界巡りの分かりやすいプロットだった前作に対して、今回はタイムリープとマルチバースを絡めたストーリーがかなり複雑。細かい理解のためには日本語吹き替え版の方が良いかもしれません。3部作の最終作「JUNK END」の製作費に協力するつもりで両方見るのが良いのでしょう。
前作「JUNK HEAD」(2021年)の1042年前が舞台(なので前作見ていなくても大丈夫です)。人工生命体マリガンは地球規模に広がった地下世界を支配していた。ある日、地下世界に異変が起き、人間とマリガンによる調査チームが結成される。女性隊長トリス率いる人間チームとクローンのオリジナルであるダンテ率いるマリガンチームは地下都市カープバールを目指す。しかし、調査チームはカルト教団「ギュラ教」に襲撃される。標的は希少種とされる人間の女性であるトリス。トリスにはロボットのロビンが護衛として同行していた。チームは「ギュラ教」とにらみ合いながら調査を進めるが、圧倒的な戦力の差に苦戦を強いられる。激しい攻防の中で彼らは次元の歪みを発見する。ロビンはトリスを守るために次元を超えた作戦を計画する。
前作はいかにも手作りアニメという感じでしたが、今回は予算もスタッフもそれなりに増えた(といっても、監督含めて7人らしいのでストップモーションアニメのスタッフ数としては信じられないぐらい少ないです)ためか、CGも使ってスケールアップしています。前作同様とぼけたユーモアが全編にあるのが大きな魅力ですね。
▼観客多数(公開11日目の午前)1時間45分。
「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」
2003年、福岡市で起きた事件を基にしたドラマ。原作は福田ますみのノンフィクション『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』。と聞くと、社会派のドラマを想像しますが、監督が三池崇史なのでホラー風味の仕上がりになっています。小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は担当するクラスの児童・氷室拓翔への体罰で母親の氷室律子(柴咲コウ)から告発される。律子の言い分は薮下の体罰は聞くに耐えないいじめで、子供に自殺を強要したという。新聞に薮下を非難する記事が出た後、週刊誌の記者・鳴海(亀梨和也)は実名報道に踏み切る。薮下はマスコミの標的となり、次々と底なしの絶望が薮下を襲う。律子を擁護する声は多く、550人の大弁護団が結成され、前代未聞の損害賠償請求訴訟へと発展。誰もが律子側の勝利を確信していたが、法廷で薮下が口にしたのは、「すべて事実無根の“でっちあげ”」だという完全否認だった。
冷たい無表情の柴咲コウの演技を見て思うのはこれはモンスターペアレントどころではなく、サイコパスではないかということ。自分の出自も含めて平気で嘘をつき、でっちあげ、相手をとことん攻撃する歪んだ性格。これに事なかれ主義の校長(光石研)と教頭(大倉孝二)が加わって薮下に無理矢理謝罪させたことから問題は大きくなり、取り返しのつかない事態に陥ってしまいます。あっという間に主人公が窮地に陥っていくのが怖いです。
後半に登場する人権派の弁護士(小林薫)と薮下を支え続ける妻(木村文乃)が主人公の数少ない味方です。綾野剛は気弱な教師をリアルに熱演していて主演男優賞候補になるでしょう。
それにしても、いくら事態を丸く収めるためであっても、やってないことは絶対に認めてはいけないとあらためて思いました。サイコパス的な人間に弱みにつけ込まれてしまいます。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午前)2時間9分。
「ドールハウス」

発端は鈴木忠彦(瀬戸康史)・佳恵(長澤まさみ)の一人娘・芽衣が自宅でかくれんぼの途中、ドラム式洗濯機の中で窒息死してしまったこと。失意の佳恵は近所で開かれた骨董市で芽衣にそっくりの人形を手に入れる。人形を娘のようにかわいがることで元気になっていくが、新たな子供を妊娠。その娘真衣が成長し、人形と遊ぶようになった頃、奇妙な出来事が起こり始める。
人形を題材にしたホラーとしては「チャイルド・プレイ」(1988年、トム・ホランド監督)や「アナベル 死霊館の人形」(2014年、ジョン・R・レオネッティ監督)、「M3GAN ミーガン」(2022年、ジェラルド・ジョンストン監督)などが思い浮かびますが、それらに負けてません。人形の怪異をいかにも日本的な因縁話に落とし込んでいくのがうまいです。
▼観客7人(公開6日目の午後)1時間50分。
「F1 エフワン」

共演はハビエル・バルデム、ケリー・コンドンら。脚本のアーレン・クルーガー、監督のジョセフ・コシンスキーは「トップガン…」のコンビ。
IMDb7.9、メタスコア70点、ロッテントマト84%。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)2時間35分。
「秋が来るとき」

パンフレットの表紙はキノコ。序盤、主人公で80歳のミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)が振る舞ったキノコ料理で娘のヴァレリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が食中毒を起こすエピソードを象徴しています。ミシェルとキノコ嫌いの孫は難を逃れるのですが、娘は「殺されかけた」と怒ります。ミシェルは孫を愛していますが、娘との仲はよくありません。その原因はミシェルの過去にあり、それが徐々に分かってきます。ミシェルの親友のマリー=クロード(ジョジアン・バラスコ)もミシェルと同じ過去を持ち、そのためか息子のヴィンセント(ピエール・ロタン)は罪を犯して刑務所に入っていました。
そうした人間関係を緩やかに紹介した後、ヴァレリーが事故死します。人間関係に怪しいところが散見されるので果たして本当に事故だったのかと、思えてくるわけです。そのあたりの描き方が絶妙だと思いました。白黒はっきりしない思わせぶりなミステリーを僕は嫌いですが、これはこれで納得できました。
IMDb6.9、メタスコア74点、ロッテントマト96%。
▼観客8人(公開6日目の午後)
「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」

原作はパク・サンヨンの連作小説「大都会の愛し方」に収録の「ジェヒ」。監督はイ・オニ。韓国は日本並み(以上?)にLGBTQへの偏見が強いことがよく分かる作品でした。
IMDb7.4(アメリカでは限定公開)
▼観客15人ぐらい(公開5日目の午後)1時間58分。
「おばあちゃんと僕の約束」
評価の高いタイ映画。それほど泣かせる話でも意外なこともなく、僕にはそこまで評価できなかったです。祖母の遺産が自分には来ないと知って態度を豹変させる主人公は最低じゃないですかね。監督はパット・ブーンニティパット。IMDb7.9、メタスコア74点、ロッテントマト98%。
▼観客7人(公開7日目の午前)2時間6分。
「28年後…」

あくまで凶暴化ウィルスに感染した人間であってゾンビではないのがポイント(同じようなものですが)。全裸の感染者たちの動きと種類は「進撃の巨人」の巨人たちを思わせました。この脚本・監督コンビなら「進撃」見てるんじゃないでしょうかね。
続きができそうなラストでした。次に作るとしたらタイトルは「280年後…」? それではあんまりなので28を離れて「29年後…」でも良いかなと思います。
IMDb7.2、メタスコア76点、ロッテントマト89%。
▼観客7人(公開初日の午後)1時間55分。
「ルノワール」
「PLAN75」(2022年)の早川千絵監督作品。11歳の少女沖田フキ(鈴木唯)の夏の日常を描いています。早川監督の体験が含まれたストーリーのようですが、あまりピンときませんでした。これが少年の夏ならよく分かるんですけどね。▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)2時間2分。