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2025年09月21日の記事

2025/09/21(日)「劇場版チェンソーマン レゼ篇」ほか(9月第3週のレビュー)

 第38回東京国際映画祭(10月27日~11月5日)の予告編が公開されました。まだ全作品が発表されたわけではありませんが、ガラ・セレクション部門とアニメーション部門は決まったそうです。

 アニメ部門は一昨年の「ロボット・ドリームズ」、昨年の「野生の島のロズ」「Flow」など毎年傑作が多いんですが、今年はどうなのでしょう。12本中4本は再公開作品となってます。チケット発売は10月18日。また争奪戦になるのでしょう。去年の経験ではパソコンよりスマホの方が販売サイトにつながりやすかったです。

「劇場版チェンソーマン レゼ篇」

「チェンソーマン レゼ編」パンフレット
パンフレットの表紙
 テレビアニメ(2022年)の後を受けて、藤本タツキ原作コミックの39話から52話までをアニメ化。ストーリーは原作に忠実ですが、ほとんどバトルシーンとなる後半がとにかく見せます。圧倒的なスピード感と迫力ある映像が展開され、製作したMAPPAのアニメ技術の高さを知らしめるすごさでした。そして、その後の切ないエンディング。個人的にはもっと泣かせるエピソードの追加と演出ができるはずと思いましたが、多くの観客の胸を締め付けるにはこれで十分なのかもしれません。

 公安対魔特異4課に所属するデビルハンターのデンジは4課を取り仕切る美女マキマとのデートに有頂天になる。その帰り道、雨宿りの電話ボックスで、レゼと名乗る少女と出会う。働いている喫茶店で笑いかけてくれるレゼをデンジは「もしかしてこの娘、俺のコト好きなんじゃねえ?」と思い、店に通い詰める。夜の学校のプールで一緒に泳いだデンジはますますレゼを好きになる。夏祭りの夜のデートで2人はキスを交わすが……。

 16歳のデンジの思春期男子らしいエピソードが詰まった前半に対して、後半は爆弾の悪魔(ボム)と逃げるデンジ(チェンソーマン)たちとの戦い。ドッカンドッカンのアクションは十分に堪能しましたが、ドラマはやや物足りず、レゼの悲しい生い立ちにもっとフォーカスしてくれると、さらに深みのある映画になったのにと思います。生い立ちについてラストで少し触れられるだけなのは原作通りなんですが、そこから想像できるオリジナル描写でドラマを作れば良かったのにもったいないです。「デンジ君、ホントはね、私も学校いったことなかったの」とつぶやくレゼの悲しさをもっと活かしてほしかったです。
「チェンソーマン レゼ編」入場者プレゼント
入場者プレゼント

 来場者プレゼントの小冊子には藤本タツキのインタビューが掲載されています。これ読むと、藤本タツキ、かなりの映画ファンのようで、マキマとデンジが1日何本も映画を見るデートをするのはそのためなのでしょう。「レゼ篇」の参照作品として「人狼 JINROH」「台風クラブ」「ノーカントリー」「悪の教典」「寄生獣」「トップをねらえ!」「シャークネード」「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! 夕陽のカスカベボーイズ」などを挙げています。ラスト、デンジが待つ喫茶店に向かうレゼの描写で僕はなんとなく「レオン」(1994年、リュック・ベッソン監督)を連想しました。

 劇場公開されたのはまだ日本だけですが、24日の香港を皮切りに各国で公開が始まります。IMDbで数えたところ53カ国でした。「鬼滅の刃」同様、テレビアニメを各動画サイトで配信しているので世界のアニメファンにも知られているでしょう。これによって海外公開のハードルは格段に下がるわけで、配信の力は大きいなと思います。監督は吉原達矢、脚本は「進撃の巨人」「呪術廻戦」などSF作品ではおなじみの瀬古浩司。IMDbの評価は現在、9.1です。

 オープニングの米津玄師「IRIS OUT」も良いですが、エンディングの米津玄師&宇多田ヒカルの「JANE DOE」が切なくて良すぎます。
▼観客多数(公開初日の午後)1時間40分。

「ふつうの子ども」

「ふつうの子ども」パンフレット
「ふつうの子ども」パンフレット
 前半は評判とは裏腹に普通の子ども映画だなと思っていたら、後半がすさまじい面白さでした。呉美保監督、脚本の高田亮のコンビは「そこのみにて光輝く」(2014年)、「きみはいい子」(2015年)に続いて3本目ですが、評価の高かった前2作に劣らず、今回も充実した作品になっています。

 小学4年生の唯士(嶋田鉄太)は思いを寄せる同じクラスの心愛(瑠璃)が環境問題に詳しいのを知って、自分も環境問題の本を読み、心愛の関心を引こうとしたのがことの始まり。そこに少しやんちゃな陽斗(味元耀大)が加わって、3人は大人に環境問題を訴える行動を起こす。最初はチラシを配ったり、貼ったりのささやかないたずらレベルの行動だったが、ある行為が深刻な事態を引き起こしてしまう。

 その行為が3人の仕業と分かり、親たちが学校に呼び出されて始まるのは会議室での校長と担任教師(風間俊介)を交えた悪夢のような場面です。3家族の在り方はそれぞれに違いがあり、その対比が実にリアル。唯士の母親を演じるのは蒼井優。これが最も普通のように思えました。幼い弟2人がいる陽斗は母親から「頼りになるお兄ちゃん」と思われていて、母親はやんちゃな姿を知らないのがいかにもありそうです。しかし、白眉は心愛の母親を演じる瀧内公美でしょう。

 心愛に対する態度が実に怖いです。蒼井優に向かって口パクで言うシーンはなんと言ってるか分からなかったんですが、パンフレットに収録された完成台本によると、「なんなのテメェ」でした。なるほど。その瀧内公美について子役の瑠璃は子役3人のクロストークで「もう朝から役に入られていて、撮影の合間に話しかけてくれるんですけど、それが素っ気ない口調で、すごく怖いんです」と話しています。そして「私たちがちゃんと怖がれるように配慮されたんだと思います」と付け加えているのに感心します。子役3人は実によく分かっていますね。

 普通の子どもたちも彼ら同様に大人をよく見ているのでしょう。大人にも子どもにも面白い作品になっていると思います。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間36分。

「宝島」

「宝島」パンフレット
「宝島」パンフレット
 真藤順丈の直木賞受賞作を「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が映画化。3時間11分、沖縄の戦後の怒りが渦巻く力作になっています。クライマックスのコザ暴動のシーンは最近の日本映画には珍しいモブシーンとして成功していて、かなりの見応えがありました。脚本は大友監督と大浦光太、高田亮の共同。

 1952年から約20年間、アメリカ統治下の沖縄を描く骨太のドラマ。米軍基地から物資を盗んで住民に配る“戦果アギヤー”のオン(永山瑛太)が嘉手納基地襲撃の後、行方不明になる。親友のグスク(妻夫木聡)、オンの弟レイ(窪田正孝)、恋人のヤマコ(広瀬すず)はオンの行方を必死に捜すが、見つからない。映画は刑事になったグスクとヤクザになったレイ、教師になったヤマコを描きながら、統治下の沖縄で起きる事件を描いていきます。オンは「予定にない戦果を手に入れた」との言葉を残していて、その戦果の謎が縦糸にもなっています。

 「なんくるないですむかっ、なんくるならんぞー」。米兵による交通事故に端を発した1970年12月のコザ暴動の中でグスクが叫ぶ言葉は米軍絡みの事件事故が多発し、反発が強まっていた住民の怒りの爆発を象徴しています。大友監督はNHK時代に叩き込まれた「声なき声を届ける」ことを念頭に映画を撮ったそうです。スペクタクルなシーンを含めてその思いが詰まった映画になっています。

 共演は中村蒼、瀧内公美、村田秀亮(とろサーモン)、塚本晋也、ピエール瀧ら。時代を反映してオールディーズがたくさん流れます。カスケーズの「悲しき雨音」(Rhythm of the Rain)も懐かしかったですが、個人的にぐっときたのはピンキーとキラーズ「涙の季節」でした。
▼観客9人(公開初日の午前)3時間11分。

「ベートーヴェン捏造」

 かげはら史帆の原作「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」をバカリズムが脚色、「かくかくしかじか」の関和亮が監督したコメディタッチのドラマ。終盤に面白くなりましたが、それまではフツーの出来でした。

 「ベートーヴェン捏造」と言うより「ベートーヴェン伝記捏造」と言う方がしっくり来る内容。主人公でベートーヴェンの伝記を書くシンドラーを山田裕貴、ベートーヴェンを古田新太が演じています。原作が面白そうなので、これから読みます。
▼観客30人ぐらい(公開5日目の午後)1時間55分。