2003/02/10(月)「レッド・ドラゴン」

 原作を読んだのは単行本が出た直後だから18年前。細部はすっかり忘れている。覚えているのは“噛みつき魔”ダラハイドと盲目のリーバの描写ぐらいか。小説は面白かったが、その後に読んだ「羊たちの沈黙」で、脇役だったレクター博士に安楽椅子探偵の役目を振ったことの方が驚いた。寝ころんで読んでいて、起きあがりました。やはり、「ブラック・サンデー」のトマス・ハリス作品だけのことはある…。

 「レッド・ドラゴン」はマイケル・マン監督「刑事グラハム 凍りついた欲望」(1986年)に続く2度目の映画化となる。ブレット・ラトナーは「ラッシュアワー」とかの監督だから不安があったが、まずまずの出来に仕上がっている。相変わらずのアンソニー・ホプキンスもエドワード・ノートンもうまく、それ以上にダラハイド役のレイフ・ファインズがうまい。ダラハイドは原作ではもっと醜い顔のはずで、ファインズではハンサムすぎると思うが、中盤の新聞記者(フィリップ・シーモア・ホフマン)をいたぶる場面など狂気の演技がなかなかである。リーバ役のエミリー・ワトソンもいい。

 原作ではレクター博士の登場シーンは少なかった。映画でも多くはないが、もはやレクター博士はスター並みの存在だから、それなりの扱いをしてある。冒頭のエピソードは「ハンニバル」の雰囲気を取り入れたもので、そこに続く逮捕場面も悪くない(ここまでがちょっと長い気はする)。ラトナーの演出は大味なところがあって決して優れているわけではないけれど、そつなくまとめてある。

 残念なのは「羊たちの沈黙」へのリスペクトが大きすぎること。ラトナーはレクターの入った精神病院のセットを「羊たち…」と同じにすることにこだわったという。脚本は「羊たち…」で名を挙げたテッド・タリーだから、映画の雰囲気も「羊たち…」によく似たものになった。ダラハイド捜査のヒントをレクターがグラハムに与える場面などそのままである。要するにオリジナルなものに乏しいのだ。「羊」がなければ、映画の評価は高まったかもしれない。しかし所詮、「羊」がなければ生まれなかった映画なのである。