2016/10/09(日)「ある天文学者の恋文」 中盤以降が単調

 予備知識一切なしで見たので、最初のクレジットを見て初めてジュゼッペ・トルナトーレの監督作であることを知った。トルナトーレにしては、というか、トルナトーレだからなのか、ツイストが決定的に足りない。死んだ恋人から手紙やメール、ビデオレターが届き続けるという設定だけで話が発展していかないのだ。だから中盤以降が単調に感じられる。

 初老の天文学者エド(ジェレミー・アイアンズ)と教え子エイミー(オルガ・キュリレンコ)は恋人関係にあった。ある日突然、エイミーはエドが死んだことを知らされる。ちょうどメールが届いたばかりだったため、エイミーはなかなかエドの死を受け入れられない。彼女の元にはその後もエドからの手紙やメールや贈り物が届き続ける。エイミーはエドが残した謎を解き明かそうと、彼が暮らしていたスコットランド・エジンバラや、2人で過ごしたイタリアのサンジュリオ島を訪ねる。

 エイミーには自分が運転していた車に同乗していた父親を事故で亡くした過去がある(ファザコン気味だから初老の教授と恋愛関係になったのだろう)。学生の傍ら、危険なスタントウーマンのアルバイトを続けているのも父親の死の責任を感じ、死の願望を密かに抱いているからなのかもしれない。父親の死以来、母親とは疎遠になっている。届き続ける手紙の意図は母親との関係を修復させることにあるのかと思わせるが、そのあたりの描写はあっさりしたものだ。となると、手紙の意図が分からなくなる。死んでからも恋人を束縛し続けるだけとしか思えないのだ。さまざまな場面を想定して、こんなに何通もの手紙を用意しておくにはかなりの時間がかかったはず。恋人への思いがさせたことであったにしても、この教授、実はとんでもなく偏執的な男に違いない。ある意味、気味の悪いキャラクターだ。

 描写も感傷過多で、見ていてうんざり。はいはい、ご勝手にどうぞと思えてくる。撮影当時、妊娠4カ月だったというオルガ・キュリレンコは悪くないが、36歳で大学院生役というのは少し無理がある。20代の女優の方が良かったのではないか。古風な響きがある邦題に対して、原題はCorrespondence(文通、通信)。現代的な通信方法は即物的なのであまりロマンティックにはならないなと思う。

 教授のマニアックさはトルナトーレ自身に共通する部分がある。個人的にトルナトーレの映画に心底から感心した作品がないのはマニアックな部分が人物造型に向けられていて、話に向かっていないからだと思う。

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