2021/09/06(月)8月後半に見た映画

「フリー・ガイ」

 ゲームのモブ(背景)キャラが自我に目覚めて、ゲーム消滅の危機を救うという話。なかなかSF的だが、いまいち説得力が足りない。ゲーム内の1キャラがAI化するのは無理筋だ。

 脚本はマット・リーバーマンとザック・ペン。ペンは「レディプレイヤー1」の脚本も書いていて、こうしたゲーム内の話には慣れているのだろう。ショーン・レヴィ監督の演出には相変わらず緩いところがあるが、気持ちの良いハッピーエンドに向かうのが好評の理由かなと思う。

 なぜかパンフレットもグッズも販売なし。版権の関係だろうか?

「プロミシング・ヤング・ウーマン」

 主人公のキャシー(キャリー・マリガン)はかつて医大生だったが、ある事件で大学を中退。今はコーヒーショップで働いていて、夜ごと、バーで酔ったふりをして男にお持ち帰りされ、男たちに裁きを下していた、という出だし。過去に何があったのかは徐々に明らかになる。
「プロミシング・ヤング・ウーマン」パンフレット
 事件をただ傍観していることは共犯と同じというメッセージをこめつつ、エンタメとして作っているのが優れたところだろう。監督・脚本のエメラルド・フェネルはテレビドラマ「キリング・イヴ」シーズン2で製作総指揮を務めていたそうだ。

 最近、「キリング・イヴ」関連でもう一人いたなと思って探したら、「フリー・ガイ」でヒロインを演じたジョディー・カマーだった。

 キャリー・マリガンに注目したのは「17歳の肖像」(2009年)の頃。当時、24歳で17歳の役を演じていた。今回は36歳で30歳の役(撮影時は34~35歳かも)だが、ケバい化粧をしていると、ぱっと見、40代に見えてしまう。でも演技のレベルは高いので、アカデミー主演女優賞ノミネートも納得できる。

「ドライブ・マイ・カー」

「ドライブ・マイ・カー」パンフレット
 村上春樹の短編集「女のいない男たち」から「ドライブ・マイ・カー」と「シェエラザード」「木野」の3作を組み合わせて脚色している。主人公の車は同じサーブ900でも原作では黄色のオープンカーですが、映画では15年乗りの赤いハッチバック。車が違うように話も原作とは大きく違う。

 原作は主人公が緑内障になったため東京で運転手を頼むだけで広島へは行かない。映画は広島での演劇祭がメインになっていて、そこで上演する演劇の本読みが大きなパートを占めている。濱口監督は映画を撮影する際には普段からこういうステップを踏むそうだ。脚本の理解を深めることで俳優の演技を引き出す効果があるらしく、この映画でも俳優たちの演技が充実している。

 映画が約3時間の上映時間にもかかわらず、飽きないのはそうした面があるからだろう。カンヌでの受賞にふさわしく純文学風の仕上がりだし、クライマックスの展開は現実的ではないと思えたが、高評価も納得できる作品だっだ。

「子供はわかってあげない」

「子供はわかってあげない」パンフレット
 田島列島の原作コミックを沖田修一監督が映画化。ゆったりまったりした展開の青春映画で、高校2年の主人公美波(上白石萌歌)が幼い頃に分かれた父親(豊川悦司)と夏休みに再会する話。

 クライマックス前の母親(斉藤由貴)との会話のシーンにジンと来た。撮影は2年前だったそうで、上白石萌歌の顔はまん丸。「ドラゴン桜」で一般的な人気を得た細田佳央太も好演している。

「孤狼の血 LEVEL2」

「孤狼の血 LEVEL2」パンフレット
 上林(鈴木亮平)はサイコパスだと思う。武闘派ヤクザじゃなくて、「キャラクター」のFukaseに近く、Fukaseのガタイをでかくして、凶暴にすると上林になる。

 普通の武闘派ヤクザ、例えば「仁義なき戦い 広島死闘編」で千葉真一が演じた大友勝利などは短気で乱暴ではあるけれど、異常者ではない。上林が異常なのは食欲や性欲、金銭欲、物欲などが感じられず、人への暴力と支配欲しかないように見えるからだ。毎回毎回、殺す相手の両目を両親指でつぶすなど異常者のやることだろう。最初につぶされるピアノ講師が美人だなと思ったら、筧美和子だった。よくこんな役を引き受けたなと思う。

 白石和彌監督は上林を敵も味方も破壊するゴジラに例えていたそうだが、それはゴジラに失礼というもので、ゴジラは破壊王ではあるが、異常ではない。「なんならぁ」とか「こんなは…」とかの広島弁を聞くと、「仁義なき戦い」を思い出すし、実録風の演出も少しあるが、これはヤクザ映画じゃなくホラー映画として見るのが正解だ。

「オールド」

「オールド」パンフレット
 リゾート地のビーチから出られなくなった3家族を描くサスペンス。このビーチ、人間の成長・老化が早く、30分で1年分の老化をしてしまう。1日だと48年の計算。人間だけでなく、生物全体の老化も早いはずだが、周囲は岩場と砂浜だけで植物はなく、海に魚もいない。3家族は逃げようとするが、海岸を出ようとすると気を失ってしまう。

 この場所がなぜこうであるのかの説明はあっさりしたもので説得力もないが、シャマランの狙いはなぜ3家族はここに案内されたのか、その目的は何かを描くことだったようだ。だから、これSFじゃなくてサスペンス。そっちの方の出来は悪くないと思った。

 出ようとして気を失うなら、入ろうとしても同じはずとか、ツッコミどころは多数あり、IMDbの評価は5.9と低い。シャマラン映画の好きな人はどうぞ。

「鳩の撃退法」

 佐藤正午の同名小説をタカハタ秀太監督が映画化。原作は文庫上下2冊で1000ページ以上ある。それを約2時間の映画にまとめるのは難しかったのか、筋を追うのにいっぱいいっぱいという感じがありあり。これをテンポ良く描いたと受け取る人もいるようで、日経夕刊では★4個を付けてた。

 Yahoo!のレビューで指摘している人がいるが、予告編では、書いたことが現実になるかのような紹介になっていた。本編はそうではなく、作家(藤原竜也)が現実の話をそのまま書いたんじゃないかと心配して編集者(土屋太鳳)が調べるという展開だった。

 「沼本」と書いて「ぬもと」と読むカフェの店員を演じるのは「孤狼の血 LEVEL2」では大根とも評された西野七瀬(個人的には前作の真木よう子に遜色ない演技と思う)。今回は年齢的に近い役柄なので、無理のない演技だった。どこか蓮っ葉なイメージが似合ってきた佐津川愛美も含めて女優陣は悪くなかった。

「白頭山大噴火」

 最初の地震のシーンは「すげえ」と思ったが、あとは新鮮味に乏しいアクション。日本でもアメリカでもこれはディザスター映画になる題材だと思うが、それをアクション映画としてまとめるのがいかにも韓国映画という感じ。

 最初の噴火が起こった後、最大規模の噴火を止めるため、地下のマグマだまりを爆破しようと韓国軍が作戦を展開。この作戦、600キロトンの爆破が必要なので北朝鮮の核兵器からウランを盗み、白頭山の炭鉱の地下坑道で原爆を爆発させるという乱暴なもの。南北関係に気を遣ったためか、北朝鮮軍との銃撃戦は最小限で、主な敵は中国と米軍になるというのも著しく説得力を欠く。

 ほとんどトンデモ映画の設定だが、それに目をつぶってアクションだけを眺めてれば、我慢できるかもしれない。IMDbの評価は6.2、ロッテントマト70%。アメリカでは限定公開だったためか、メタクリティックに評価はない。