2025/07/06(日)「愛されなくても別に」ほか(7月第1週のレビュー)
SF映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の予告編が公開されました。映画化の予定は4年前に出た原作(アンディ・ウィアー)のあとがきにも書かれていましたが、情報がなかなか更新されないのでポシャったのかと思ってました。アメリカでの公開は2026年3月の予定。監督は「スパイダーマン スパイダーバース」シリーズのクリストファー・ミラーとフィル・ロードです。
「愛されなくても別に」

19歳の宮田陽彩(ひいろ=南沙良)は浪費家の母(河井青葉)とふたり暮らし。大学に通い、それ以外の時間のほとんどを母に変わっての家事とコンビニのアルバイトに費やしている。バイト代は学費と家に入れる8万でほぼ消える。ある日、陽彩は同じバイト先の同級生・江永雅(馬場ふみか)の父親が殺人犯だという噂を耳にする。金髪、メイク、ピアス姿の雅は地味な陽彩とは正反対だった。そんなふたりの出会いがそれぞれの人生を変えてゆく。
陽彩にとって、母親の言う「愛してるよ」は呪いの言葉と同義です。父親と離婚した後、母親が一人で育ててくれた恩義もあって、陽彩は母親の要求通り、家から近い私大に通い、学費を稼ぐためにバイトに明け暮れて、母親にバイト代の半分を渡しています。母親は収入以上の浪費を続け、若い男を連れ込んでいます。陽彩にはトイレの芳香剤の匂いをかぐ癖がありますが、これは原作によると、母親と連れ込んだ男のセックスを小学生時代に見てトイレに逃げたことが原因のようです。
江永は親から受けた性暴力の壮絶な過去があり、家を出た陽彩に「うちに来れば?」と誘います。同じ大学に通う木村水宝石(あくあ=本田望結)は2時間おきに電話してくる母親(池津祥子)の過保護・過干渉に辟易し、新興宗教に走っています。
映画は原作のプロットに忠実ですが、映画的なアレンジも効果を上げています。例えば、母親に裏切られていたことを知った陽彩が激怒して家を出ると告げる場面。原作では電話で告げますが、映画は家を出ようとしたところに母親が帰宅します。陽彩は包丁を握りしめた手を緩め、「このまま一緒にいると、お母さんを殺してしまう」と告げます。
南沙良と馬場ふみかは井樫監督の要請で個別に演技指導のレッスンを受けたそうで、馬場ふみかは「すごく実になる時間」だったと語っています。二人の個性以上のものが発揮できたのはそうした努力があったからでしょう。
陽彩が母親の部屋で預金通帳を確かめる場面で、奨学金の項目がありますが、映画では説明されていませんでした。原作から補足しておくと、陽彩は奨学金(年間100万円)を借りているのはもちろん承知していますが、万一のためのものとして手をつけず、卒業したら一括返済するつもりでした。それを母親が使い込んでいたのが発覚したわけです。父親が支払っていた養育費を知らされていなかったことと合わせて、陽彩が怒りを爆発させたのもよく分かります。
▼観客1人(公開初日の午前)1時間49分。
「We Live in Time この時を生きて」

脚本のニック・ペインは「死について、悲惨でない形で描きたかった」と語っていますので、意図としてはタランティーノと同じなのでしょう。
離婚して失意のどん底にいたトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)が車にはねられる。その車を運転していたのは新進気鋭のシェフ、アルムート(フローレンス・ピュー)。二人は恋に落ちて結婚。アルムートは卵巣ガンにかかるが、それを克服してやがて娘が生まれる。しかし、ガンが再発。アルムートは苦しい治療の中、料理のオリンピック「ボキューズ・ドール」出場を目指す。
日本では「ささやかな、しかし珠玉のような佳作」(日経電子版)とまずまず良い評価ですが、アメリカでは「末期的に時代錯誤な異性恋愛映画」(ニューズウィーク日本版)と散々な評価も見られます。フローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドの良さがなんとか、映画を救ってます。監督は「ブルックリン」(2015年)のジョン・クローリー。
IMDb7.0、メタスコア59点、ロッテントマト79%。
▼観客15人ぐらい(公開2日目の午後)1時間48分。
「ババンババンバンバンパイア」

共演は原菜乃華、関口メンディー、満島真之介、眞栄田郷敦ら。吉沢亮がコメディーに全力投球し、共演者もまじめに笑いに取り組んでいるのがおかしさを倍増させています。こうしたコメディーでは成功の部類だと思います。
蘭丸に十字架は効かないんですが、その兄の森長可(もり・ながよし=眞栄田郷敦)は十字架を恐れます。その理由は「禁断の書」(?)を読んでバンパイアは十字架が弱点であることを知っためというのがおかしかったです。
監督は「一度死んでみた」(2020年)の浜崎慎治。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午後)1時間45分。
「中山教頭の人生テスト」

例えば、学校で起こった横領事件で警察がいきなり家宅捜索に来る場面などリアリティーを欠いています。こういう事件の場合、使途不明金の発覚→内部調査→犯人の特定→被害届の提出、というプロセスを踏むのが普通です。事件化するには被害届の提出が必須で、それを教頭が知らないわけがありません。
いくつかの問題の黒幕となる人物を処分せずに放置したり、ある試験でのカンニングをする意味やそれがその後に何ら影響しないことも釈然としません。
企画・原案はプロデューサーの小池和洋。既に出来上がっていた脚本がありましたが、佐向監督が監督を引き受けるにあたって原案をベースに「イチから作り直した」そうです。
▼観客2人(公開5日目の午前)2時間5分。
「Mr.ノボカイン」
先天性無痛無汗症(CIPA)の主人公によるアクションコメディー。痛みを感じないキャラクターはミレニアムシリーズの第2作「ミレニアム2 火と戯れる女」にも出てきましたが、痛みがないのでけがしたかどうかも分からず、命にかかわる体質なわけです。主人公は痛くなくても、けがの描写がリアルなので見ている観客は痛さを想像してしまい、きついです。主人公ネイトを演じるのはamazonビデオのドラマ「ザ・ボーイズ」に出ているジャック・クエイド。銀行の副支店長のネイトは部下のシェリー(アンバー・ミッドサンダー)と仲良くなりますが、ある日、銀行に強盗が押し入り、金庫の金を奪った後、シェリーを人質に連れ去ってしまいます。ネイトはシェリーを助けるため必死に犯人たちの後を追うことになります。
監督はダン・バークとロバート・オルセン。
IMDb6.5、メタスコア58点、ロッテントマト81%。
▼観客6人(公開13日目の午後)1時間50分。