2025/10/26(日)「愚か者の身分」ほか(10月第4週のレビュー)

 劇場版が12月に公開されるのでドラマ「緊急取調室」を第1シーズン(2014年)から見ています。第2話「しゃべらない男」に小芝風花に似てる子役が出てきたのでGoogle検索すると、AIモードでは小芝風花が「出ている」「出ていない」の結果が混在してました。エンドクレジットを確認すると、ちゃんと小芝風花の名前がありました。GoogleのAIモードは結果に揺れがあるのが困りますね。以前にも書きましたが、疑ってかかった方が良いです。

「愚か者の身分」

「愚か者の身分」パンフレット
「愚か者の身分」パンフレット
 近年のノワール映画のベスト。比較範囲を世界に広げてもベストだと思います。戸籍の売買を行う半グレ集団から抜けようとする若者たちを描き、相当にハードなこの傑作を生んだのが女性監督の永田琴であり、原作者の西尾潤もまた女性であるのが驚きでした。この映画、残虐さを含むシーンから見て、三池崇史あたりが監督と言われても信じたでしょう。ただ、その場合、「三池崇史、エモーショナルな演出でも随分腕を上げたな」と思ったかもしれません。

 あまりの面白さに驚いて、急いで原作を読みました。第一章「柿崎護」が大藪春彦賞を受賞した短編で、二章「槇原希沙良」、三章「江川春翔」、四章「仲道博史」(私立探偵で映画には登場しません)、五章「梶谷剣士」と5人の視点で描かれています。これについて、脚本の向井康介は「登場人物が多すぎる」と当初、難色を示したそうですが、永田監督がマモル(林裕太)、タクヤ(北村匠海)、梶谷(綾野剛)の3人に絞ることを提案。原作にはないタクヤの章を設け、主人公としました。これが奏功して、映画は謎をはらんだ一直線の面白さを備えることになったと思います。

 永田監督の演出は重厚なアクションシーンも良いですが、タクヤがアジの煮付けを作ってマモルに食べさせるシーンや逃走中の梶谷がタクヤの髪を洗ってやるシーンなど普通の場面での情感の盛り上げ方に優れています。タクヤとマモルの関係は「傷だらけの天使」(1974年のドラマ)の萩原健一と水谷豊を思わせました。出番の少ない山下美月と木南晴夏の女優2人の魅力を引き出した描き方もさすがです。なお、山下美月が演じた希沙良は原作の第二章で格闘場面があり、これは映画でも見たいシーンではありました(ここを入れると、登場人物とエピソードが増えて上映時間が長くなるので、カットしたのは仕方ありません)。

 永田監督は多くのテレビドラマのほか、これまでに10本の映画を撮っていますが、高い評価を受けてきたわけではありません。しかし、そうした多数の演出経験が無駄になるはずはなく、確実に力をつけてきたのでしょう。だから、優れた脚本とスタッフと俳優に恵まれたこの作品で大きな飛躍を果たし得たのだと思います。この作品を「再デビュー作」と位置づけているそうで、今後が楽しみです。

 僕が見た時は観客10人ぐらいで、僕以外は北村匠海のファンとおぼしき女性ばかり。「匠海くん主演だ、キャー」と思って見に来た女性ファンは中盤のあのショッキングな場面で「ギャーッ、た、匠海くん…」と卒倒しそうになったんじゃないでしょうかね。そんな場面がありながら、見終わってほっこりした気分になるのがこの作品の美点です。

 この小説には続編「愚か者の疾走」があり、11月11日発売予定です。映画も同じスタッフ・キャストで続編をぜひ作ってほしいと思います。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午後)2時間10分。

「ファンファーレ!ふたつの音」

「ファンファーレ!ふたつの音」パンフレット
パンフレットの表紙
 「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」(2020年)のエマニュエル・クールコル監督作品。白血病にかかった有名指揮者が骨髄ドナーを捜す中、自分に弟がいることが分かる。移植手術を受けて兄は元気になり、交流を続けているうちに弟に音楽の才能があることが分かる、という展開。

 兄のティボをバンジャマン・ラヴェルネ、弟ジミーをピエール・ロッタンが演じています。特にユーモアを交えたロッタンの好感度が高いです。

 ジミーは炭鉱町の楽団に所属しています。映画はオリジナルストーリーですが、その基になったのはクールコル監督がフランス北部の大衆的なブラスバンドに出合ったことだったそうです。映画は有名なオーケストラ指揮者と地方の楽団を描いて、途中までは素晴らしい出来なのですが、劇中に提起された問題がラストで何も解決しないのがちょっと残念でした。
IMDb7.4、ロッテントマト95%。
▼観客15人ぐらい(公開5日目の午後)1時間43分。

「ストロベリームーン 余命半年の恋」

「ストロベリームーン 余命半年の恋」パンフレット
「ストロベリームーン」パンフレット
 芥川なおの純愛小説を酒井麻衣が監督。主演の當真あみをはじめ、出演者の好演に反して難病ものの範疇を出て行かない展開が惜しいです。

 映画の中ではっきり病名は明かされませんが、主人公の桜井萌(當真あみ)の生まれつきの病気は心臓に関するものなのでしょう。学校に通えなくなったため、自宅学習を続けてきましたが、病院で余命半年を宣告された帰り、ある男子生徒が幼い少女を助ける光景を見て、高校に通うことを決意します。入学式の当日、教室でその男子生徒・佐藤日向(齋藤潤)に出会い、告白。萌は自分が余命わずかであることを隠して日向との交際を深めていきます。

 脚本はベテランの岡田惠和。語り手を原作の日向から萌に変更するなど手を尽くしているようですが、ゴールの見えた話なので限界はあります。

 當真あみの親友役・高遠麗(うらら)を演じる池端杏慈が良いです。声優を務めたアニメ「かがみの孤城」(2022年、原恵一監督)を除けば、映画はこれが「矢野くんの普通の日々」(2024年、新城毅彦監督)に続いて2本目。年末公開の「白の花実」(坂本悠花里監督)にも出ています。広瀬すずや清原果耶などが務めた全国高校選手権の応援マネージャーに選ばれたそうで、一気にブレイクしそうです。

 原作の続編「コールドムーン」はその高遠麗が主人公だそうですが、10年後の設定なので池端杏慈の主演は残念ながら無理筋。映画で言えば、杉野遥亮と中条あやみの話になりますね。
▼観客6人(公開7日目の午後)2時間7分。

「おいしい給食 炎の修学旅行」

「おいしい給食 炎の修学旅行」パンフレット
パンフレットの表紙
 市原隼人主演の人気シリーズ劇場版第4弾。1990年、給食をこよなく愛する中学教師・甘利田幸男は3年生の担任となって青森・岩手の修学旅行へ行く。名物のせんべい汁に舌鼓を打つ甘利田たちだったが、そこで出会った厳格な指導の中学校の交流給食に招かれる。

 市原隼人は相変わらずおかしいんですが、タイトルの修学旅行以外の部分が多く、上映時間を持て余している感じ。大きな話ではないので、80分から90分程度にまとめた方が良かったと思います。短くまとめるのも見識です。脚本は永森裕二、監督は綾部真弥。映画の終わり方からすると、またテレビシリーズをやるのでしょう。そっちの方が楽しみかも。
▼観客6人(公開初日の午前)1時間54分。