2024/03/03(日)「マダム・ウェブ」ほか(3月第1週のレビュー)

 コロナ禍で配信スルーになっていたディズニー&ピクサーのアニメーション3本が来月にかけて劇場公開されます。「私ときどきレッサーパンダ」(15日公開)「あの夏のルカ」(29日公開)「ソウルフル・ワールド」(4月12日公開)で、いずれもアカデミー長編アニメ映画賞の候補になり、「ソウルフル…」は受賞しました。劇場公開を見越していたためか、ディズニープラス以外の配信サイトでは見放題・レンタルはなく、購入(2000円ぐらい)だけのようです。数人で見るなら、購入した方が安いですけどね。というか、ディズニープラスに加入して見るのが一番安いです。

「マダム・ウェブ」

 アメリカでの評価はIMDb3.8、メタスコア26点、ロッテントマト12%。さんざんな酷評を聞いていたので期待値0で見たら、意外に悪くありませんでした。という意見は多く、ネットニュースにもなってました。

 2003年のニューヨーク。救命士のカサンドラ(キャシー)・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)は活動中に生死を彷徨う事故に遭ったことがきっかけで予知能力を発現する。ある日、キャシーは偶然出会った3人の少女が黒いマスクとスーツに身を包んだ謎の男エゼキエル(タハール・ラヒム)に殺害される未来を見て、少女たちの命を救う。少女たちは将来、スパイダーウーマン、スパイダーガールになる存在だった。蜘蛛の研究者でキャシーを妊娠中だったキャシーの母親は1973年、ペルーで重傷を負い、現地人から蜘蛛の能力を授けられていた。母親は死ぬが、能力はキャシーに受け継がれていたらしい。エゼキエルは母親に同行していた男だった。

 原作のマダム・ウェブはスパイダーマンを補佐する盲目の老婦人で、生まれつきの重症筋無力症だそうです。映画とは設定が異なりますが、映画のキャシーもラストで同じような境遇となります。「X-MEN」で言えば、エグザヴィア教授のような存在であり、マダム・ウェブが主人公としてシリーズ化されるとは考えにくいです。というか、アメリカでは興行的にも惨敗なのでシリーズ化はないでしょう。

 「ヴェノム」(2018年、ルーベン・フライシャー監督)に始まる「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」(SSU)の1本ですが、どうもSSUは質的に信頼のおけない作品が多くて残念です。
▼観客8人(公開6日目の午後)1時間56分。

「犯罪都市 NO WAY OUT」

 マ・ドンソク主演のアクションシリーズ第3作。マ・ソクト刑事(マ・ドンソク)はソウル広域捜査隊に異動し、転落死事件の捜査を担当する。事件の背後に新種の合成麻薬と日本のヤクザが関わっているらしい。ヤクザのボス一条(國村隼)は麻薬を盗んだ組織員たちを処理するため極悪非道なリキ(青木崇高)を密かにソウルに送り込む。消えた麻薬を奪おうと目論む刑事チュ・ソンチョル(イ・ジュニョク)も加わり、事件は三つ巴の様相を呈する。

 マ・ドンソクの腕力だけを頼りにしたアクション映画で、面白いんですけど、さすがにほかのパターンも見たくなりました。前作はベトナム、今回は日本ですが、この調子でアジアのいろいろな国が絡む事件を解決していくんでしょうかね。
IMDb6.6、ロッテントマト100%(アメリカでは限定公開)。
▼観客13人(公開5日目の午後)1時間45分。

「コットンテール」

 日英合作映画で、キネマ旬報の分類では外国映画になってます。主人公の兼三郎(リリー・フランキー)は死んだ妻・明子(木村多江)が「遺骨をイギリスのウィンダミア湖に撒いてほしい」という遺言を残していたことを知る。疎遠となっていた一人息子慧(トシ)(錦戸亮)の家族とともに英国へ行くが、些細なことで息子と喧嘩した兼三郎は一人でウィンダミア湖に向かうことになる。その過程で兼三郎は若い頃の自分たち夫婦のことを回想する。

 演出も演技も悪くありませんが、話が今一つ響いてきません。リリー・フランキーが独り善がりに見えてしまう場面があるのは脚本の仕上げに少し難があるためでしょう。若い時の木村多江を演じる恒松祐里が良いです。

 監督のパトリック・ディキンソンはオックスフォード大と早稲田大で日本映画を学び、故ドナルド・リチーに師事。脚本家兼監督として短編映画を撮った後、BBCやNetflixでプロデューサーを務めたそうです。これが長編映画デビュー作。リリー・フランキーと木村多江が夫婦を演じた「ぐるりのこと。」(2008年、橋口亮輔監督)も当然見ているそうです。
▼観客2人(公開初日の午前)1時間34分。

「アメリカン・フィクション」

 アカデミー作品、主演男優、助演男優、脚色賞など5部門にノミネートされた作品。アメリカでは劇場公開されましたが、日本を含む多くの国ではamazonプライムビデオで配信されています

 講義中の差別用語を批判されて休職した大学講師で作家のモンク(ジェフリー・ライト)は母親が認知症となり、施設に入れる費用に困っていた。作品に「黒人らしさが足りない」と評されて自棄になってペンネームで書いたギャング主人公の黒人エンタメ小説は皮肉なことにベストセラーとなる。文学賞も受賞して世間の関心が高まり、匿名のままではいられなくなる。というストーリーで、出版業界や黒人作家の作品の扱われ方を風刺的に描いたコメディです。

 監督はテレビシリーズ「ウォッチメン」などの脚本を書き、これが監督デビューのコード・ジェファーソン。原作はパーシバル・エベレット。中絶医の妹の病院に行った主人公が入り口で金属探知機で検査される場面があり、意味が分からなかったんですが、町山智浩さんの解説によると、アメリカでは中絶医は保守派から命を狙われることがあるんだそうです。

IMDb7.6、メタスコア81点、ロッテントマト94%。1時間58分。

「禁書のイロハ」

 アカデミー短編ドキュメンタリー賞候補。子供向けの本が排除されたり、制限されたりする現状を追った内容。そういう扱いを受けているのは人種差別やLGBTQを扱った本で、「アンネの日記」やカート・ヴォネガット「スローターハウス5」まで排除されていることに驚きます。シエラ・ネヴィンス、トリッシュ・アドレジック、Nazenet Habtezghi監督。27分。IMDb6.3。WOWOWオンデマンドで配信中。

「ラスト・リペア・ショップ」

 これもアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞候補。ロサンゼルス市が提供している公立学校対象の楽器無償修理サービスを行う職人たちを取り上げた内容。職人の一人はゲイ、もう一人はメキシコ移民のシングルマザーで、それぞれに差別や貧困の体験を語り、同時に楽器が生徒たちにもたらす夢や希望を描いています。胸を打つ場面がある深い内容で、これは受賞してもおかしくないと思えました。ベン・プラウドフット、クリス・パワーズ監督。40分。IMDb7.3。ディズニープラスで配信中。