2001/03/07(水)「バガー・ヴァンスの伝説」
映画を見る前にざっとあらすじを読んで、ああ、これは「ナチュラル」(1984年)だな、と想像した。バリー・レビンソン監督、ロバート・レッドフォード主演のこの映画は野球の天才打者が不運な事故に見舞われ、そこから奇跡的な再起を果たす話だった。キム・ベイシンガーが主人公を堕落させる悪女、主人公を支え続ける幼なじみをグレン・クローズが演じた。ファンタスティックな雰囲気が素敵な映画だった。
「バガー・ヴァンスの伝説」は戦争で精神的ショックを受けたゴルファーのジュナ(マット・デイモン)が酔いどれ生活から再起を果たす話。不思議なアドバイスをするキャディーのバガー・ヴァンスに出会い、恋人アデル(シャーリズ・セロン)の支えも得て、エキシビジョン・マッチでトッププロ2人に挑む。
プロットは「ナチュラル」とほとんど同じ趣向である。古き良き時代を背景にしているのも同じ。レッドフォード監督はこういう話が好きなのだろう。かつて自分が演じた役をデイモンに演じさせているわけだ。ただし、出来の方は「ナチュラル」の方が上回る。
「ナチュラル」は善と悪の力に翻弄されながらも自分の道を迷わず突き進む主人公がよく描けていたし、映画に透明で郷愁を誘う雰囲気があった。ラスト、主人公が特大のホームランを放ち、ライトが砕けて花火のように飛び散る描写も素晴らしかった。
「バガー・ヴァンスの伝説」はエキシビジョン・マッチの模様が中心になり、構成としてはやや単調であまりうまくないのである。ラストの処理も「ナチュラル」に比べると地味だ。バガー・ヴァンスの役回りは守護天使のようなニュアンスをもっと出した方が良かったと思う。
断然いいのはシャーリズ・セロン。勝ち気で快活な富豪の娘役を演じ、魅力が弾けていますね。
2001/03/01(木)「BROTHER」
日英合作で、撮影はハリウッド。しかし、北野武の映画であることに変わりはない。アクション路線の集大成を目指したようで、いかにも北野武らしいショットが多数出てくる。デビュー作「その男、凶暴につき」(89年)とその後の数作を見て、どれも未完成な感じを受けた。だから僕は映画監督としての北野武をそれほど高く評価してはいない。唯一波長があったのが「あの夏、いちばん静かな海。」(91年)だけれど、これにも未完成な感じはつきまとった。
その「あの夏…」に出ていた真木蔵人が10年ぶりに北野作品に出演している。日本を追われたヤクザ山本(ビートたけし)が単身渡米する。ロサンゼルスには弟のケン(真木蔵人)がおり、ヤクの売人をやっている。上部組織とのいざこざを山本が乱暴なやり方ですっきり解決。黒人らと組織を作り、次第にのし上がっていく。しかし、マフィアとの抗争で仲間は次々に死んでいく。
ヤクザ映画の指を詰めるシーンが僕は生理的にダメなのだが、この映画にはそういうシーンが3回出てくる。「仁義なき戦い」を経た映画とは思えない古風なシーンも皮肉を込めて描かれている。ハリウッド方式の凄絶な銃撃シーンはジョン・ウーとは違った重さが感じられる。いや重さというと、少し違うかもしれない。熱いジョン・ウーの映画に比べて、北野武の映画はいつも冷たい感じがするのである。この冷たさはクールとも違う。決してかっこよくはない。僕が北野映画に感じてきた未完成な感じは、フィルムから受けるこの冷たさによるものなのだろう。それは恐らく、監督の死生観と切り離せないものである。
今回、面白かったのは冷たい描写に挟まれる軽妙な描写で、デニー(オマー・エプス)と山本のやりとりや、山本の弟分である加藤(寺島進)のバスケットボールの場面などおかしい。クスクス笑える場面がほかにもいくつかあり、そうしたことが映画に膨らみを与えている。役者では加藤雅也の熱い乱暴なヤクザが良かった。