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2015年04月05日の記事

2015/04/05(日)「アラバマ物語」

 ミステリマガジン5月号のコラムでオットー・ペンズラーがハーバー・リーの小説「アラバマ物語」(amazon)について、こう書いている。「おそらく史上最高に成功したミステリ小説で、出版から半世紀以上が経った今でも、アメリカで毎年五十万部近く売れている」。この小説を映画化した作品が黒人差別を描いた名作でグレゴリー・ペックがアカデミー主演男優賞を受賞したことは知っていたが、ミステリとは知らなかった。原作が毎年50万部も売れていることも知らなかった。ペンズラーのコラムは「アラバマ物語」の続編が出版されることを紹介したもので、続編の初版は200万部だそうだ。これほど売れ続けている小説の続編であれば、破格に多い初版も当然なのだろう。原作を読んでみたくなったが、その前に2年前にWOWOWから録画した映画(1962年製作、ロバート・マリガン監督)を見た。

 1932年のアラバマ州メイコムという小さな町が舞台。弁護士の父親アティカス(グレゴリー・ペック)と息子のジェム(フィリップ・アルフォード)、娘スカウト(メアリー・バダム)の家族が遭遇する事件を主人公スカウトの視点で描く。最初の1時間はメイコムの日常が描かれる。謎の隣人や貧しい白人家庭の子供のエピソードなどを描いた後、メインとなる事件、黒人青年による白人女性のレイプ事件の裁判が描かれる。公民権運動が盛んになった時代を反映した内容だ。

 長い法廷場面があるのでペンズラーがミステリに分類するのも分かるのだが、映画を見た限りでは南部の町とアメリカの正義を描いた作品で、ミステリの部分はそんなに大きくはない。法廷場面の印象は今のミステリに比べると、プリミティブだし、映画の作り自体もそれほどうまいとは思えなかった。IMDbの採点は8.4、ロッテン・トマトでは94%のレビュワーが肯定的評価をしているが、辛口の映画評論家として知られたロジャー・イーバートは星2つ半をつけ、それほど評価していない。

 ただし、裁判で陪審員が出す評決はショッキングだ。中学・高校生に人種差別と正義や理想を考えさせる上で、原作は最適のテキストなのだろう。

 原題は「To Kill a Mockingbird」。これが「アラバマ物語」というまったく内容を伝えない邦題になったのは公開当時、○○物語というタイトルの映画が流行ったためだろう。Wikipediaによると、メアリー・バダムはジョン・バダム監督の実妹とのこと。これがデビュー作となるロバート・デュバルは10年後に「ゴッドファーザー」で貫禄ある演技を見せるとは思えないナイーブな役柄を演じている。