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2022年01月30日の記事

2022/01/30(日)「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」ほか(1月第5週のレビュー)

「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」は実話を基にしたトッド・ヘインズ監督作品。主演のマーク・ラファロがプロデューサーも務めています。巨大企業デュポンが排出した化学物質PFOA(ペルフルオロオクタン酸)によって多くの環境汚染と健康被害が起きたことを知った弁護士が約7万人の集団訴訟でデュポン社を追い詰めるというストーリー。

ヘインズのフィルモグラフィーからすれば、こういう社会派の題材には向かないと思えますが、過不足のない演出で良質の作品に仕上がっています。

監督を依頼したラファロはパンフレットのインタビューで「(ヘインズは)過酷な状況の中を生きている人について描いてきた監督でもある」と語っています。確かにヘインズの「エデンより彼方に」も「キャロル」も主人公は世間から理解されない立場に置かれていました。

PFOAはテフロン加工のフライパンなどに使われる物質で、体内に取り込むと、一生排出されることはなく、ガンや腎臓病など6つの病気の原因になるそうです。デュポン社はその危険性を1960年代から把握していましたが、利益を優先して放置していました。アメリカ政府の規制物質にも含まれなかったことから、対策は長い間手つかずで、健康被害が広がってしまったというわけです。

映画をことさらドラマティックにせず、感情的にも熱くならないのはヘインズの持ち味なんでしょうが、やや物足りなさを感じる部分でもあります。

ただ、実社会のヒーローというのは、こういう地道なことの積み重ねを行っているのだと思います。

「ノイズ」

イチジクの生産で町の活性化のリーダーとなっている主人公が過って人を殺してしまい、友人たちと協力して警察の捜査から逃れようとするサスペンス。

中盤の余貴美子と柄本明の場面で思わず笑ってしまいました。いくら何でも極端な演技と展開で、リアリティーがまったくありません。ここからコメディーになるのか、と思ったほど。

amazonを見ると、筒井哲也の原作コミックの評価は良いようですが、コミックでは良くても実写では通用しない描写があるのでしょう。と、原作読むまでは思ってました。原作は全3巻。「少年ジャンプ+」で1巻が期間限定で無料配信されていたので読み、2巻と3巻はKindle版を購入して読みました。

映画とは少し異なる設定で、映画は愛知県の島が舞台ですが、原作は山間の町になっています。しかも主人公は妻と離婚寸前。島の新任警官は主人公の幼なじみではありません。それだけではなく、中盤以降の展開に異なる箇所が多くなっています。コミックのストーリーのままでは映画になりにくいと思って脚色の際に映画独自の展開にしたのでしょうが、うまくいっていません。それほど優れているわけでもない原作を映画向けに変えたら、良くなるどころか悪くなったというわけ。

藤原竜也、松山ケンイチ、黒木華、神木隆之介、永瀬正敏という演技に定評のある俳優をそろえながら、話がこれでは面白くなりようがありません。廣木隆一監督には向かない題材と言うほかなく、トッド・ヘインズとは違って明らかに失敗しています。


「ムーンライト・シャドウ」

WOWOWで録画したのを見ました。吉本ばななの同名短編(「キッチン」所収)をマレーシアのエドモンド・ヨウ監督が映画化。

公式サイトのストーリーを引用すると、「ある日突然に愛する人を亡くした主人公が、死者ともう一度会えるかもしれない、という不思議な〈月影現象〉を知り、哀しみをどう乗り越えるのか、どうやって未来へ進んでいくのかを描いていく」。話にも演出にも起伏がなく、単調です。僕は小松菜奈のファンですが、これは映画館で見なくて(どころか、テレビで見なくても)良かったと思いました。

「地球外少年少女」(Netflixアニメシリーズ)

劇場版の前編「地球外からの使者」が28日に全国11館で公開と同時にNetflixで全6話のシリーズが配信開始されました。劇場版はシリーズの前半3話を前編、後半3話を後編としているのでしょう。TVアニメ「電脳コイル」などの磯光雄監督作品。

3話までは、地球に接近した彗星のかけらが衝突して破損した宇宙ステーションでの少年少女たちのサバイバルドラマ。月生まれの主人公が持っている球形のAIドローンはハロを思わせ、ブライトという名前のドローンもいるなど「機動戦士ガンダム」への目配せがあるようです。

4~6話は彗星を地球に衝突させようとするテロリストの計画阻止と、彗星表面に増殖して進化したAIとの戦いになります。最終6話の描写がやや観念的になってしまっていますが、本格SFと言って良い内容でした。