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2023年05月28日の記事

2023/05/28(日)「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」ほか(5月第4週のレビュー)

 「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」は荒木飛呂彦原作で好評を集めたNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」の劇場版。人の記憶を本にして読む能力(ヘブンズ・ドアー)を持つ漫画家の岸辺露伴を高橋一生、編集者の泉京香を飯豊まりえが演じ、監督の渡辺一貴、脚本の小林靖子などスタッフもドラマと同じです。ドラマ(3期8話)を僕は面白く見ましたが、劇場版は映画としての魅力に欠けました。テレビ並み、というか長すぎる分、テレビ以下の出来にしかなっていません。

 テレビシリーズ第8話の最後で泉京香がバッグから写真を撮りだして「あ、パリ! ルーブル美術館」と言う場面があったので、劇場版の製作は既定路線だったのでしょう。

 原作は122ページ(オールカラー)の短編。露伴は青年時代に淡い思いを抱いた奈々瀬(木村文乃)から「この世で最も黒い絵」のことを聞く。それは最も黒いと同時に、最も邪悪な絵だという。その絵がルーヴル美術館に所蔵されていることが分かり、露伴と京香は取材のためフランスを訪れる。ルーヴルのデータベースで分かった黒い絵の保管場所は、今はもう使われていない地下倉庫だった。

 小林靖子の脚本は原作を膨らませていて悪くありません(唯一気になったのは露伴が本来はできない死者の記憶を読む場面があること)。問題は端的に映像化の部分で、クライマックスはVFXを炸裂させて描いてほしかったところです。間延びした描写も目に付き、90分程度にまとめた方が良かったと思います。1時間58分。

 ドラマ版で個人的に一番面白かったのは渦中の市川猿之助が露伴の背中に取りつく怪異を演じた第5話「背中の正面」でした。それと、飯豊まりえの存在はドラマを楽しくしていて、本人とは違うキャラだと思いますが、奇抜なファッションも含めて明るくてかわいいキャラでした。泉京香は原作では「富豪村」(ドラマ第1話)にしか登場しないそうです。
▼観客40人ぐらい(公開初日の午後)

「ワイルド・スピード ファイヤーブースト」

 CGだらけのアクションシーンをスッカスカの話でつづったシリーズ第10作(原題は「FAST X」)。もう少しストーリーをなんとかできなかったんですかね。

 敵は第5作「MEGA MAX」(2011年、ジャスティン・リン監督)の悪役エルナン・レイエス(ヨアキム・デ・アルメイダ)の息子ダンテ・レイエス(ジェイソン・モモア)。モモアは「MEGA MAX」には出ていなかったので、今作の冒頭にある「MEGA MAX」のシーンへの登場は合成なのでしょう。このシーンには亡くなったポール・ウォーカーも出ています。ダンテは父親の死を恨んでドミニク(ヴィン・ディーゼル)のチームに復讐するため襲ってくるという展開。

 女優陣は豪華で、シリーズにこれまで出てきたシャーリーズ・セロン(格闘シーンに惚れ惚れします)、ヘレン・ミレン、ブリー・ラーソンのほか、最後の最後にガル・ガドットがワンカットだけ出てきました。ただし、クレジットはされていません。ガドットはジゼル・ヤシャールという役で、第6作「EURO MISSION」で死にましたが、このシリーズ、一度死んだキャラが実は死んでいなかったとして再登場するのはレティ(ミシェル・ロドリゲス)、ハン(サン・カン)の先例があり、ちっとも珍しくありません。

 話は完結せず、次作に持ち越しでした。あと2本作る計画もあるのだとか。ルイ・レテリエ監督、2時間21分。
IMDb6.4、メタスコア55点、ロッテントマト54%。
▼観客多数(公開4日目の午後)

「帰れない山」

 北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台に、都会育ちの少年ピエトロと同い年の牛飼いの少年ブルーノの友情とその後の長い交流を描いています。パオロ・コニェッティのベストセラー小説の映画化で昨年の第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。

 モンテ・ローザの雄大な景色の中で描かれる人生のあれやこれや。大きな事件は起きませんが、ゆったりとした展開で情感を込めた描写が良いです。裕福な少年と貧しい少年の友情という設定から想像できるような単純な話でもなかったです。

 原題は「LE OTTO MONTAGNE」(八つの山)。邦題は小説の邦題に合わせたのでしょうが、最後のナレーションに「人生にはときに帰れない山がある」という一節があるので、悪くはありません。八つの山とはインドの世界観を示す言葉とのこと。

 監督はフェリックス・ヴァン・フルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメーシュの共同。2時間27分。
IMDb7.8、メタスコア78点、ロッテントマト89%。
▼観客11人(公開2日目の午後)

「セールス・ガールの考現学」

 けがをした知人の代わりにアダルトグッズ・ショップでアルバイトをすることになった女子大生を描くモンゴル映画。主人公サロールを演じたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルは最初、野暮ったい素朴な格好で出てきますが、徐々にアクティブなファッションに変わっていきます。話としては普通の青春映画で、主演女優のキュートさがこの映画の大きな魅力になっています。

 モンゴルと言えば、真っ先に草原が思い浮かびます。こちらのそうした貧困な知識とは裏腹に、物語は都会で進行し、草原は一場面しか出てきません。モンゴル映画を見る機会はほとんどないので、ロシア語に似た文字と韓国語の発音に似た言葉も新鮮でした。ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督、2時間3分。
IMDb7.4(アメリカでは映画祭での上映のみ)
▼観客4人(公開5日目の午後)

「テリファー」

 画質からして色合いが安っぽく、いかにもC級映画。ピエロメイクの殺人鬼アート・ザ・クラウンが残虐に殺し、拷問するだけのグロい作品です。こうした殺人鬼は刃物を振り回すのが常ですが、アート・ザ・クラウンは拳銃も使います。それとノコギリも。

 2作目は残虐描写で失神した人が出たとニュースになりましたが、この1作目もR-18指定です。エンドクレジットを見ていたら、出てくる猫の名前がSCORSESE(スコセージ)でした。ダミアン・レオーネ監督、1時間25分。
IMDb5.6、メタスコアなし(レビュー不足)、ロッテントマト55%。