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2023年07月23日の記事

2023/07/23(日)「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」ほか(7月第4週のレビュー)

 「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」はシリーズ第7作。デッドレコニング(Dead Reckoning)とは「推測航法」の意味で、冒頭、ロシアの原子力潜水艦の中でのセリフに出てきます。映画はこの原潜の事故に関わり、世界に破滅をもたらす力を持つとされる2つの鍵の争奪戦で、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のイーサン・ハント(トム・クルーズ)とCIA、ハントに恨みを持つガブリエル(イーサイ・モラレス)の組織の三つどもえの争いが繰り広げられます。

 もちろん、アクションメインの映画なんですが、脚本・監督のクリストファー・マッカリーはこうしたスパイアクションのポイントをよく分かっていて、中盤に大きなドラマを用意しています。

 トム・クルーズは予告編でさんざん見せられたあの断崖ジャンプ(実際にはジャンプ台があります)を7回跳んだそうです。その前にスカイダイビングとオートバイジャンプを何百回も繰り返していて、だからああした危険なジャンプができるのでしょう(常人より恐怖感が少ないサイコパス的な資質もたぶんあると思います)。

 このシーンを見てすぐに思い出すのが「007 私を愛したスパイ」(1977年、ルイス・ギルバート監督)のスキーアクション。オーストリア・アルプスを舞台に敵に追われたジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)がスキーで斜面を滑り降りてそのまま崖からジャンプし、下方で英国国旗デザインのパラシュートが開くというシーンです(もちろん、ムーアがやったわけではなく、スタントマン)。久しぶりに見直してみたら、「私を愛したスパイ」の冒頭はソ連の原潜ポチョムキンが行方不明になるというシーンで、潜水艦追跡システムを巡る話でした。マッカリー監督、「私を愛したスパイ」をヒントにしたのかもしれません。

 この大ジャンプに続く列車アクションも見応えがあります。列車の上で格闘しながら狭いトンネルが来ると伏せて避けるというシーンは「大列車強盗」(1979年、マイケル・クライトン監督)を思い出します。「ミッション:インポッシブル」シリーズがすごいのは過去に類似したアクションの先例がありながら、そのすべて上回っていて、単なる模倣に終わっていないことです。参考にはするけど、絶対に凌駕してやるとういう気概みたいなものを感じます。昨年の「トップガン マーヴェリック」と同じく、これは大画面で見なくては真価が分からない作品になっています。

 シリーズ第5作「ローグ・ネイション」(2015年)からレギュラーのレベッカ・ファーガソンのほか、ヴァネッサ・カービー、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフという女優陣のアクションがいずれも良いです。かなりの訓練をしたのでしょう。パート2は2024年6月公開予定(日本は時期未定)。2時間44分。
IMDb8.1、メタスコア81点、ロッテントマト96%。
▼観客多数(公開初日の午前)

「リバー、流れないでよ」

 「ドロステのはてで僕ら」(2020年)に続く劇団ヨーロッパ企画のオリジナル長編映画第2弾。昨年の「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」や全国的に公開中の「神回」(中村貴一朗監督)など最近の流行と言って良いほど多いループもので、京都の貴船(きぶね)の旅館を舞台に2分間のループに翻弄される人たちを描くコメディです。

 上田誠脚本、山口淳太監督という「ドロステ…」コンビの作品。2分たつと、ループするというのは忙しいですが、登場人物はみな記憶が連続しているので話は早いです。ループの始まりの場所に戻ると、さっさと前のターンの続きを行い、物語が展開していきます。相変わらず笑って笑ってのタッチですが、アイデア的には特に感心する場面は見当たりませんでした。このアイデアなら60分程度にまとめた方が良かったかなと思います。

 映画を見た後にメイキングのDVDを見ました。撮影は今年1月から3月にかけて、貴船の旅館「ふじや」を貸し切って行ったそうです。ループが始まった時になかった雪が後の方では降っていたり、積もっていたりするのはループとしてはおかしいんですが、ユーモアあふれる好感度の高い映画に仕上がっているので文句を言う気にはなりません。ループの場面は2分間ワンカット撮影。旅館の中だけでなく、通りを挟んで向かいにある本館の3階まで行く場面もあり、撮影はけっこう大変だったでしょう。

 主人公の旅館の仲居は「ふじや」が実家の藤谷理子(ヨーロッパ企画)、女将に本上まなみ、番頭は永野宗典、旅館に滞在している作家役で近藤芳正、友情出演のクレジットで乃木坂46の久保史緒里。1時間26分。
▼観客9人(公開2日目の午後)

「ヴァチカンのエクソシスト」

 実在の悪魔祓い師ガブリエーレ・アモルト神父(2016年死去)の2冊の回顧録を基にしたホラー。ウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」(1973年)以来、多数のエクソシスト映画が作られましたが、どれもフリードキン作品の影響下にあります。この映画も目新しい部分はありません。ただ、映画のまとまりは悪くなく、過去作を見ていなければ、それなりに楽しめると思います。

 実在のエクソシストが主人公でもクライマックスには「こんなことあるわけないだろ」と言いたくなるような派手なシーンが展開されます。アモルト神父を演じるのはラッセル・クロウ。

 高橋ヨシキさんが批判していましたが、中世にカトリック教会が行った異端審問と拷問・処刑は悪魔に取り憑かれた神父の仕業という見方が出てきます。悪いことはすべて悪魔のせいにする、というのはどんなもんでしょうね。ジュリアス・エイヴァリー監督、1時間43分。
IMDb6.1、メタスコア45点、ロッテントマト49%。
▼観客12人(公開6日目の午後)

「マルセル 靴をはいた小さな貝」

 アカデミー長編アニメ映画賞候補となったストップモーションアニメ。12年前にYouTubeに発表した短編が人気を呼び(再生回数3300万回以上)、長編化されたそうです。



 マルセルは体長2.5センチの貝で言葉をしゃべり、靴をはいている。祖母のコニーと一軒家で暮らしていたが、引っ越してきた映像作家ディーン(監督のディーン・フライシャー・キャンプが演じてます)と出会い、初めて人間の世界を知る。離れ離れになった家族を見つけるためディーンの協力を得てYouTubeに動画をアップしたところ、評判となり、テレビ番組「60ミニッツ」で紹介されたことからマルセルは全米の人気者になる。

 マルセルの姿と声がかわいいので、女性と子供に受けるのはよく分かります。元の短編にはストーリーらしいストーリーはありませんが、長編化するにあたって心温まる話になってます。マルセルの声を演じるのはコメディエンヌのジェニー・スレイト、祖母はイザベラ・ロッセリーニ。1時間30分。
IMDb7.7、メタスコア80点、ロッテントマト98%。
▼観客5人(公開5日目の午後)