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2024年05月05日の記事

2024/05/05(日)「青春18×2 君へと続く道」ほか(5月第1週のレビュー)

 録画したテレビ番組や映画を入れているネットワークHDD(NAS)の内蔵ディスクが寿命に近づいているようで、買い換えるかダビングするよう警告が出るようになりました。稼働時間を見たら2万1613時間。つまり900日ぐらい連続稼働させていることになります。不具合が出てもおかしくないと納得しました(ただ、ディスクチェックの結果は正常。近く故障の可能性があるということですかね)。たまには電源切った方が良いのでしょう。内蔵ディスクは換装しようと思ってます。

「青春18×2 君へと続く道」

 藤井道人監督が台湾の紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」(ジミー・ライ著)を基にして作った日本・台湾合作映画。

 台湾の高校生ジミー(シュー・グァンハン)はバイト先のカラオケ店で日本から来たバックパッカー、アミ(清原果耶)と出会い、カラオケ店で一緒に働くうちに恋に落ちる。しかし、アミはある事情で日本に帰ることになる。お互いに自分の夢を実現したら会おうという約束を交わして2人は別れを告げた。18年後、ジミーはゲーム会社を友人と起業し、成功を収めていたが、自分勝手な営方針がたたって会社を追い出される。傷心のジミーはアミの故郷を訪ねるため、日本を訪れる。

 18年前の描写は見ていてどうにも気恥ずかしい感じがつきまといます。よくあるというか、手垢のついた恋の始まりの描写やバイト先の人たちの良い人っぷり、コメディーのセンスなどに新しさがなく、既存の材料で組み立てたような作り。

 ジミーが日本に来てからの描写は良い場面が多いものの、展開はオリジナリティーに欠けています。語り方に工夫があるので、持ちこたえていますが、結局、そういう話なのかと思えてくるのが残念。終盤、アミの視点で18年前を振り返る場面は叙情性にあふれていて、藤井道人監督は本来、こういう描写が好きなのでしょう。前半にこうした叙情性が少ないのは合作映画に起因する難しさもあるのではないかと思います。

 18年前の場面でジミーはアミを岩井俊二監督の映画「LOVE LETTER」(1995年)に誘います(中国でも台湾でも人気でした)。その上映劇場にはルイ・グンメイ主演の台湾映画「藍色夏恋」(2002年、イー・ツーイェン監督)のポスターが貼ってありました。それぞれ日本と台湾の青春恋愛映画を代表するような作品で、この映画は特に「LOVE LETTER」の影響が大きいですが、そのレベルには届いていませんでした。藤井監督は祖父が台湾出身だそうです。
IMDb7.0(アメリカでは未公開)
▼観客25人ぐらい(公開2日目の午前)2時間3分。

「悪は存在しない」

 豊かな自然に恵まれた田舎町の環境を巡って進出予定の企業とそれに反対する住民たちをシンプルに描いた作品、と思っていたら、ラストでどう解釈すれば良いのか悩む場面が出てきます。平凡に終わるのを避けるためにこういうラストにしたのかと思いますが、確かに終わらせ方の難しい内容ではあって、このラストをどう評価するかで映画全体の評価も変わってくるでしょう。こういう終わり方もありだ、と僕は思いますが、意味が分からないと怒る人がいるかもしれません。

 水がきれいな長野県水挽町で暮らす巧(大美賀均)と娘の花(西川玲)は自然のサイクルに合わせた生活を送っていたが、家の近くでグランピング場を作る計画が持ち上がる。計画主体は東京の芸能事務所。説明会で浄化槽の設置場所が貴重な水源を汚染する可能性があることが分かる。住民たちは説明会で強く反対を表明する。

 長い説明会の場面が映画の白眉で、ここは撮影前の本読みに時間をかける濱口竜介監督の手腕が発揮された場面と言えるでしょう。説明会で住民と対立する企業側の高橋(小坂竜士)と黛(渋谷采郁)は実は悪い人間ではないことが分かってきます。高橋は巧の薪割りを手伝ったり、田舎の生活に触れることで、この町に魅せられてきて、会社を辞めることを考える始末。だからこういうタイトルなのかと思えます。

 主演の大美賀均はこれまで助監督や制作部の仕事をしてきた人で演技は初めて。小坂竜士も俳優から車両部に移っていたそうで、そうした有名ではない出演者ばかりであることが映画にリアルさを与えています。
IMDb7.1、メタスコア82点、ロッテントマト92%。2023年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)1時間46分。

「美と殺戮のすべて」

 2022年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したドキュメンタリー。全米で50万人以上が死亡したオピオイド系鎮痛剤オキシコンチンの製薬会社パーデュー・ファーマを営む富豪一族を追及する写真家ナン・ゴールディンの姿を描いています。

 パンフレットによると、オキシコンチンはケシから抽出した成分やその化合物から生成した医療用鎮痛剤(医療用麻薬)。常習性が低く、安全ということで1996年ごろから処方販売されましたが、2000年ごろから依存症や急性中毒で死亡する人が急増したそうです。50万人以上死亡というのが驚きで、なぜそんなものを政府が放置していたのか疑問に思います。ナン・ゴールディンも2014年以降、依存症となったことで、完治後に反対運動を始めたそうです。

 映画はゴールディンの生い立ちと業績を絡めて、反対運動を描いています。普通の社会派映画になっていないので、薬害批判への鋭さが個人的には少し物足りなかったのですが、LGBTQを早くから写真の題材に取り上げ、自身も自由奔放な生活を送ったゴールディンの半生には興味深いものがありました。監督は「シチズンフォー スノーデンの暴露」(2016年)のローラ・ポイトラス。
IMDb7.5、メタスコア91点、ロッテントマト95%。
▼観客1人(公開5日目の午後)2時間1分。

「ゴジラ×コング 新たなる帝国」

 ゴジラを走らせるな。これに尽きます。日本のゴジラが走ったことは多分ないはずです。これは最新2作を除いて着ぐるみ撮影だったので物理的に無理だったからです。走らない、じゃなくて走れない(せいぜい、「シェーッ!」をするぐらい)。ただ、走れない(素早く動けない)ことで、重量感を出すことに成功していて(実際、着ぐるみは重かったのでしょう)、ゴジラの巨大さを表現する効果がありました。

 キングコングのスーツはまあ、人間と変わらない形状ですし、そんなに重くもないでしょうから過去の映画でも走ることは可能だったでしょう(ジョン・ギラーミン版でも走ってました)。でも、やっぱり素早い動きというのは、ゾウなど実際の巨体の動物を見ても無理なのが分かります。だからキングコングも走らないことが望ましいです。

 アダム・ウィンガード監督には怪獣映画のそういうお約束が分かっていないのでしょう。CGチームに丸投げした感がありありです。コングと同類の巨大猿がたくさんいるシーンは大きさの比較になるものが周囲にないので、普通の猿がたくさんいる光景にしか見えませんでした。怪獣映画ではないと思えば、それなりに面白いシーンではありました。

 だいたい、このモンスター・ヴァースシリーズでコングとゴジラはガメラと同じように地球生態系の守護神の役割だったはず。今回の敵は単なるコングの同類で、サル山のボス争いにしか見えません。

 次の作品では怪獣映画を本当に好きな監督に代わってもらった方が良いと思います。
IMDb6.5、メタスコア47点、ロッテントマト54%。
▼観客14人(公開7日目の午後)1時間57分。

「水深ゼロメートルから」

 2019年の四国地区高校演劇研究大会で最優秀賞を受賞した徳島市立高の舞台を山下敦弘監督が映画化。水を抜き、砂が積もったプールで女子高生4人の悩みが交錯する作品です。元の演劇の脚本を書いた中田夢花が映画用に脚本を書いていますが、ほとんどプール内に終始して、いかにも元が演劇の内容となっています。

 夏休みを迎えた高校2年生のココロ(濱尾咲綺)とミク(仲吉玲亜)は体育教師の山本(さとうほなみ)から特別補習としてプール掃除を指示される。水が抜かれたプールには隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっていた。砂を掃き始めると、同級生で水泳部のチヅル(清田みくり)、水泳部を引退した3年生のユイ(花岡すみれ)がやってくる。学校生活や恋愛、メイクなどを話すうちに彼女たちの悩みがあふれていく。

 高校演劇舞台化プロジェクト第一弾の「アルプススタンドのはしの方」(2020年、城定秀夫監督)に続く映画化。「アルプススタンド…」は男女問わず響く内容でしたが、この作品は男には実感しにくい部分がありますね。
 オンライン試写で見ました。1時間27分。