2025/01/19(日)「室町無頼」ほか(1月第3週のレビュー)
「室町無頼」
垣根涼介の原作を入江悠監督が映画化したアクション時代劇。室町時代中期を舞台に徳政一揆(土一揆)を主導した蓮田兵衛(大泉洋)の戦いを描いています。展開に違和感があったので原作の新潮文庫版の上巻を途中まで読みました。原作の主人公は蓮田兵衛ではなく、才蔵(長尾謙杜)です。映画で才蔵の修行シーンが延々と描かれたり、クライマックス、二条城前でのアクションシーン(ここが一番良いです)で活躍するのが才蔵なのはそのためでしょう。監督・脚本は「ビジランテ」(2017年)、「あんのこと」(2024年)などの入江悠。アクション場面や当時の飢饉と疫病に苦しむ庶民の表現など画面づくりは良いのですが、脚本に難があります。一揆側に蓮田、才蔵以外にキャラの立った人物がいず、物語としての膨らみに欠けますし、エモーションも盛り上がっていきません。1人ではなく、複数で脚本化した方が良かったと思います。
かつての仲間でありながら蓮田兵衛と対立していく骨皮道賢役の堤真一と、高級娼婦・芳王子(ほおうじ)役の松本若菜は良いです。才蔵に修行させる唐崎の老人役の柄本明はずーっと叫んだセリフ回しがうるさく感じられ、こういうセリフ回しだと、武術の達人には見えませんね。
音楽がマカロニウエスタン風なのは入江監督の趣味だとか。マカロニウエスタン以外に黒澤明「用心棒」も意識したそうですが、映画史に残る傑作「用心棒」の域にはとても達していません。こういうジャンルは好きなだけに残念です。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)2時間15分。
「満ち足りた家族」
自分の子供たちが一緒に起こした凄惨な事件に苦悩する兄弟を描くホ・ジノ監督作品。ヘルマン・コッホ原作「冷たい晩餐」の4度目の映画化だそうです。オランダ、イタリア、アメリカで映画化されていて、アメリカ版は「冷たい晩餐」(2017年、オーレン・ムーヴァーマン監督)ですが、評価は最低なので見る必要はないでしょう。イタリア版「われらの子供たち」(2014年、イヴァーノ・デ・マッテオ監督)は日本ではソフト化されていないようです。「八月のクリスマス」(1998年)、「四月の雪」(2005年)のホ・ジノ監督だけに緊密な作りですが、物語の先行きはこうなるだろうと予想はつきます。そこを少し裏切り、ショッキングな結末となるのは原作通りなのか映画の工夫なのか分かりません(原作絶版です。amazonでテンバイヤーが売ってます)。
弁護士の兄を演じるのはソル・ギョング、医師の弟はチャン・ドンゴン。それぞれの妻をクローディア・キムとキム・ヒエが演じています。子供たちの犯行の様子は防犯カメラに映っていて、映像が不鮮明だったために親だけに分かったという設定。自首させるか、隠し通すか親たちは悩むことになります。親に分かるなら友人知人近所のおばさんたちにも分かるんじゃないか、と思ってしまいます。
IMDb7.2、ロッテントマト100%(アメリカでは映画祭で上映のみ)。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間49分。
「アット・ザ・ベンチ」
川沿いにあるベンチを舞台に4つの物語(5エピソード)で構成するオムニバス映画。映像監督・写真家の奥山由之による自主制作作品で、脚本を生方美久、蓮見翔、根本宗子、奥山由之が担当しています。もっとも面白いのは2話目の蓮見翔脚本で、岡山天音と岸井ゆきの、荒川良々の好演も相まっておかしくて真実味もある話になっています。相手の嫌な部分を握り寿司にたとえ、一つ一つは小さな事でも寿司桶が寿司でいっぱいになって別れを思い立ったという展開が実に納得できました。1話目と5話目の生方美久は普通の出来(長い方が真価を発揮するタイプ?)。3話目の根本宗子はいかにも舞台の人らしい作品。4話目の奥山由之は自分だけたくさん俳優出してずるいぞ、という感じでした。
他のキャストは広瀬すず、仲野太賀、今田美桜、森七菜、草なぎ剛、吉岡里帆、神木隆之介らで、自主制作としては破格の豪華さですね。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)1時間26分。
「おーい!どんちゃん」
売れない役者の若い男3人が一緒に暮らす家の前にある日、赤ちゃんが置いていかれた。元カノが置いたらしい。3人は赤ん坊を「どんちゃん」(「どーん」としているから)と名づけ、協力しながら慣れない子育てに奮闘する。「横道世之介」(2012年)「さかなのこ」(2022年)の沖田修一監督が自分の娘を使って撮影した自主制作映画。撮影は2014年から2017年にかけて行われたそうです。ドキュメンタリー風の作品と予想していましたが、物語の設定はあり、緩やかにストーリーが進行します。ですから、他人のホームビデオを見せられて「どうだかわいいだろう」と強制されるような部分はなく、沖田監督独特のほんわかムードが漂う作品になっています。
基本的に赤ちゃんはずーっと見ていても飽きないもの。映画もどんちゃんが出てくる部分は面白いんですが、3人の役者の売れないエピソードはどんちゃんパートより落ちる感じがあるのは否めません。要するに「子供と動物には勝てない」わけです。上映時間も2時間程度にまとめた方が良かったと思います。
売れない役者を演じるのは坂口辰平、大塚ヒロタ、遠藤隆太の3人。宇野祥平、黒田大輔、山中崇がゲスト的に出演しています。
映画終了後、どんちゃんから「もうすぐ11歳になる」とのメッセージが流れてびっくり。他人の子の成長は早いのです。公式サイトによると、映画は2022年から各地の映画祭などで上映が行われており、東京では2月21日から新宿武蔵野館で公開されます。
▼観客10人ぐらい(公開6日目の午後)2時間37分。