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2025年01月12日の記事

2025/01/12(日)「泳ぐひと」ほか(1月第2週のレビュー)

 Netflixで配信が始まったクレイアニメ「ウォレスとグルミット 仕返しなんて怖くない!」は「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ」(1990年)の続編。と言われても前作見ていないんですが、探したらニコニコ動画にありました。Netflixには2本一緒に配信してほしいものです。

 新作はウォレスとグルミットの活躍により前作で捕まった宝石泥棒のペンギンが、収容されている動物園の中から、ある方法で仕返しを図る、というストーリー。35年ぶりの続編というのが凄いですが、それほど邪悪なペンギンのキャラに魅力があったのでしょう。相変わらず評価も高く、IMDb7.7、メタスコア83点、ロッテントマト100%。アニー賞など多くの賞の候補になっています。

「チネチッタで会いましょう」

 さっぱり面白くなくて、僕の見方が悪いのかと思いました(途中で少し寝ちゃったし)が、海外の評価を見ても、IMDb6.7、メタスコア47点、ロッテントマト54%と散々。日本では日経電子版が★4個、週刊新潮が83点を付けていたのが数少ない高評価でした。キネ旬では評者3人が★1個、2個、1個。まあ当然と思える評価の低さではありますね。

 映画の中で映画を撮影するシーンが進行し、映画に関する言及も多いですが、もはや評価できないウディ・アレンの諸作と比べても大きく見劣りがして、どこも感心するところのない出来に終わってます。

 ナンニ・モレッティ監督が主人公の映画監督を演じていますが、自分で演じる必然性はないように思いました。けっこう自己顕示欲の強い人なんでしょうかね。
▼観客2人(公開13日目の午前)1時間36分。

「泳ぐひと」

 「チネチッタで会いましょう」の中でナンニ・モレッティ演じる映画監督がジョン・チーヴァー原作「泳ぐ人」を撮りたいと言うシーンがあります。これ、1968年にバート・ランカスター主演で既に映画化されていて(邦題は「泳ぐひと」)、僕は高校時代に映画雑誌「ロードショー」の名画紹介連載でタイトルと大まかなストーリーを知りました。これまで見る機会がありませんでしたが、配信を探したらU-NEXTにあったので見ました。

 アメリカン・ニューシネマの傑作の1本とされ、キネ旬ベストテン6位にランクされています。聞きしに勝る傑作だと思いました。隣人たちのプール伝いに泳いで家へ帰ろうと決心した主人公の背景がだんだん分かってくる構成が素晴らしく、ラストは予想が付きますが、呆然とさせられます。主人公が過去の記憶を次第に思い出し、とんでもなく怖いラストを迎える筒井康隆の傑作短編「鍵」を思い出しました。夏の1日の話なのに、日差しが翳り、主人公が寒さに震えるようになるという描写が記憶を取り戻していく主人公の姿と重なって効果を上げています。

 監督はフランク・ペリーですが、IMDbとWikipediaによると、一部のシーン(主人公ネッドと若いジュリーのシーンなど)をランカスターの友人のシドニー・ポラック監督が撮り直したそうです。プロデューサーのサム・シュピーゲルがペリーを解雇したためで、IMDbではポラックとの共同監督となっていますが、映画にポラックのクレジットはありません。

 原作を収録した短編集「巨大なラジオ/泳ぐひと」(新潮社)が村上春樹訳で2018年に出ていたのでamazonで購入しました。上下二段組み16ページの短さ。映画はこれを基に多くのエピソードとセリフを追加しています。素晴らしいのはそれがすべて原作のエッセンスを損なっていないこと。どころか、効果的に補強しています。脚色のエリナー(エレノア)・ペリーはフランク・ペリー監督の奥さんで、「去年の夏」(1969年、フランク・ペリー監督)、「パリは霧にぬれて」(1971年、ルネ・クレマン監督)などの脚本を担当しています。

 U-NEXTで配信しているソフトは画質が大変良いです。修復した上で、2015年に発売されたブルーレイディスクのものなのでしょう(ブルーレイは日本未発売。DVDはあります)。
IMDb7.6、ロッテントマト100%。1時間35分。

「太陽と桃の歌」

 ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。監督のカルラ・シモンは自身の体験を基にした監督デビュー作「悲しみに、こんにちは」(2017年)で評価を集めた人です。今回はスペインのカタルーニャ地方が舞台で、ソーラーパネルを設置するため土地を明け渡すよう地主から求められた桃生産農家を描いています。

 原題の「アルカラス」はカタルーニャの奥地にある村の名前。シモン監督の父親の兄弟はカタルーニャ地方で桃を生産しており、それがモデルになったそうです。農業か太陽パネルかという対立軸で見ていくと、テーマが散漫になったきらいがありますが、監督は揺れる農家を描きたかったのでしょう。

 出演者はカタルーニャ地方でオーディションで選出した演技素人の人たち、言葉はすべてカタルーニャ語だそうです(僕は聴いても分かりません)。気になったのは幼女の裸の胸にボカシがかかることで、配給会社が気を回して行ったんですかね? かえって不自然に感じました。
IMDb7.0、メタスコア85点、ロッテントマト93%。
▼観客3人(公開2日目の午後)2時間1分。

「ゴンドラ」

 ジョージアの小さな村にあるロープウェーを舞台に描く心優しいドラマ。父親が亡くなって村に帰ってきたイヴァ(マチルド・イルマン)はロープウェーのゴンドラの乗務員として働き始める。もう一つのゴンドラの乗務員はニノ(ニニ・ソセリア)。すれ違うゴンドラで2人が交わす奇想天外なやりとりは、まるでゴンドラ合戦。その楽しさは、やがて地上の住民も巻き込んでいく。

 ほとんどセリフのない映画ですが、ファイト・ヘルマー監督がこういう映画を撮るのは4作目だそうです。パンフレットによると、実際にはゴンドラは1台しかなく、それを映画のマジックで2台に見せているとのこと。確かにあんな田舎で2台のゴンドラは必要ないのでしょうけど、驚きました。女優2人が良いです。
IMDb6.7(アメリカでは未公開)
▼観客6人(公開7日目の午後)1時間25分。

「グランメゾン・パリ」

 ドラマ「グランメゾン・東京」(2019年、全11話)と昨年12月29日に放送したスペシャルドラマを見た上で見ました。

 フランス料理の一流シェフ尾花夏樹(木村拓哉)はパリで新店舗「グランメゾン・パリ」を立ち上げ、右腕の早見倫子(鈴木京香)とともにミシュラン三つ星の獲得を目指す。巨匠たちがしのぎを削る本場フランスでの三つ星は尾花の悲願。だが、満足いく食材を手に入れることにすら高い壁があった。

 黒岩勉脚本、塚原あゆ子監督はテレビシリーズと同じコンビ。これまでのドラマを見ていた方が楽しめますが、見ていなくても話は分かります。手堅くまとめた作品と思います。
▼観客多数(公開初日の午前)1時間58分。

「ビーキーパー」

 サンデー毎日の映画評に「冒頭のフィッシング詐欺シーンがリアル。身につまされるほど恐ろしい」とありましたが、パソコンのエラー表示に驚いて電話してきた人から金を巻き上げるという極めてよくある手口ですね。その詐欺に引っかかって200万ドルを失った隣人の老婦人が自殺。唯一、優しくしてくれた人だったため、ビーキーパー(養蜂家)の主人公アダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム)が怒り、詐欺組織に復讐を図る、というアクション。

 とにかくステイサムが圧倒的に強く、次々に組織の男たちを秒殺していきます。たった1人の老婦人の敵討ちとしては殺しすぎではと思えますが、詐欺の被害者はかなりいるはずで、組織を叩き潰す名目はありますね(やり方は違法ですが)。ビーキーパーとは米国の極秘プログラムで、主人公は既に引退していたんですが、現役のビーキーパーより素早く動き、とても強いです。アクションは申し分ないので、もう少しリアル方向に話を振ってくれると良かったかなと思います。

 監督は「エンド・オブ・ウォッチ」(2012年)「フューリー」(2014年)などのデヴィッド・エアー。
IMDb6.3、メタスコア53点、ロッテントマト71%。
▼観客20人ぐらい(公開7日目の午前)1時間45分。