2001/04/17(火)「ハンニバル」
クラリス・スターリング(ジュリアン・ムーア)の扱いを除けば、ほぼ原作通り。というか、原作のダイジェストに過ぎない。ちゃんとあの問題のシーンも映像化されている。しかし、やはり原作のような優雅さを備えることは無理だった。
アカデミー主要5部門を制した前作「羊たちの沈黙」を僕は原作ほど面白いとは思わなかった。あの5部門受賞というのは消えゆくオライオンへの同情票が多かった結果ということを覚えておいた方がいい。ジョナサン・デミの演出、ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンスの演技には確かに見るべきものはあったけれど、あの映画もまた原作のダイジェストだった。
今回の失敗はキャラクターの整合性を取れなかったことにあるようだ。クラリスへの執着を見せるレクターは分かるにしても、クラリス自身のキャラの描き込みが足りないし、そのクラリスをいじめるクレンドラー(レイ・リオッタ)も原作ほど嫌な人物として描けていない。レクターの幼いころの回想を省いたのは仕方がないが、筋を追うのに精いっぱいで全体的に描写が足りないと思う。
小説「羊たちの沈黙」はサイコ・スリラーのジャンルを1作で売れるジャンルに押し上げたが、小説「ハンニバル」はそのジャンルの中でやや上位に位置するだけの作品である。その原作をほぼ忠実に映画化するだけで、前作を超える映画が生まれるはずがない。
笑ったのはアンソニー・ホプキンスが「タイタス」と同じような痛い場面を演じていること。ホントに「タイタス」はこの映画の予告編みたいなものだったのだな。それと最後の場面。原作では中盤にあり、最もユーモラスなシーンを最後に持ってきて、別の意味を与えたのは面白かった。
2001/04/03(火)「ミート・ザ・ペアレンツ」
ベン・スティラーが結婚を決めた彼女の両親に会いに行く話。根は善人なのにやることがすべて裏目に出るというタイプなのか、あるいはたまたまその日が最悪の運に見舞われたのか、遺灰の入った壺を割り、家を焼きそうになり、彼女の妹の目にアザを作りと、最悪の展開となる。
ゲラゲラ笑って見られる映画なのだが、どうも脚本が雑である。テレビのコメディを見ているような感じ。
監督は「オースティン・パワーズ」「オースティン・パワーズ デラックス」のジェイ・ローチ。父親を演じるロバート・デ・ニーロは怖くてどこか怪しげな役をうまく演じているし、スティラーもその彼女のテリー・ポロも悪くはないのだけれど、この脚本ではね。とりあえずのつじつま合わせのレベルで、見ていて
納得いかない。ギャグを散りばめるのはけっこうだが、その場限りの笑いよりは全体の統一を図った方が良かった。
2001/03/28(水)「ザ・セル」
ジェニファー・ロペス主演のサイコ・サスペンス。シリアル・キラーに誘拐された女性の居場所を探すため、小児科医(ロペス)が昏睡状態の犯人の精神世界に入っていく。そこで繰り広げられるイメージが見どころ。かなり気色の悪い場面もあるのだが、なかなか面白い出来と思う。
「マトリックス」によく似たアイデア。あちらはサイバー・スペース、こちらは人間の脳の中だから、こちらの方がじめじめして荒廃している。中で死ねば、現実世界でも死んでしまうというのは「マトリックス」と同じだ。
スタイル抜群のロペスがよろしいし、映画の展開も結末もまともである。CM出身のターセム監督のイメージの造形は見事。奇抜な衣装を担当したのは「ドラキュラ」でアカデミー賞受賞の石岡瑛子。これも見事。
2001/03/21(水)「プルーフ・オブ・ライフ」
南米の某国でアメリカの技術者(デヴィッド・モース)が反政府ゲリラから誘拐される。その妻メグ・ライアンとプロの交渉人ラッセル・クロウが誘拐交渉に当たる。クロウは会社から派遣されたのだが、会社は保険料を払っていなかったことが分かり、途中で帰国。しかし、再び戻り、仲間とともにゲリラの本拠地を襲撃。見事、夫を救い出す。
いったん交渉をやめたクロウがなぜ帰ってくるのか、あいまいである。メグ・ライアンに同情したのだろうが、これは人間的には納得してもプロとしてはあるまじき行為だろう。そういう男が優秀な交渉人であるはずはない。プロはビジネスで動くのが本筋。この誘拐交渉に成功してもなんら報酬はないのに命をかけますか。
物語の根幹にかかわる部分だけに気になる。こんなことなら途中で帰国する設定などない方が良かった。人道的な理由からであるなら、もっとそこを重点的に描く必要があった。テイラー・ハックフォード、何をやっておるのか。
導入部のチェチェンでのスピーディーな展開を見て、期待できるかと思ったが、全体的にどうも演出が緩い。クロウと息子との場面など後に少しも生きてこず、不要である。メグ・ライアンとラッセル・クロウはいいんですけどね。
2001/03/19(月)「サトラレ」
「踊る大捜査線 The Movie」の本広克行監督の快作。周囲に思念波を放射するサトラレの青年(安藤政信)とそれを保護する特能保全委員会から派遣された精神科医(鈴木京香)の交流がスラップスティック調を交えながらさわやかに描かれる。
冒頭の飛行機墜落→自衛隊出動→サトラレ発見の場面は導入部として優れた迫力とスピード感(SFXは白組が担当)。周囲の人間も協力し、24時間の厳戒態勢でサトラレが保護されているという突飛な設定を無理なく嫌みなく描いている。鈴木京香は主人公より年上の設定を逆手にとって(初対面の主人公から「けっこう年いってるな」と思念を放射されて、ムッとする)、コミカルな味を見せ、好感が持てる。安藤政信も「バトル・ロワイアル」とは打って変わって素直な好青年を演じている。
物語は医者としての主人公の生き方をクライマックスに持ってくる。一般的にはこれが当然だろうが、SFとしては肝心のサトラレの能力があまり生かされないし、クライマックスのくどさにはちょっと辟易させられる。しかし、全体としてはよく出来ているといっていい。本広克行は昨年の「スペーストラベラーズ」の汚名を返上したようだ。エンタテインメントに徹した姿勢がいい。