「僕にとって重要なのは、夢を追う者たちの映画を作ることだった。大きな夢を持つふたり。その夢が彼らを突き動かし、彼らを一緒にし、そして別れさせもするんだ」
デイミアン・チャゼル監督はインタビューでそう語っている。タイトルの「ラ・ラ・ランド」はロサンゼルス、あるいは夢の国を意味する。映画はそのタイトル通りの内容で、歌と踊りを交えながら夢を追う若い2人のドラマを描いていく。そしてこちらの感情をグラグラ揺さぶるのは歌や踊りのシーンではなく、この核となっているドラマの方だ。夢だけではなく、現実の厳しさを併せ持った大人視線のドラマが素晴らしいからこそ、この映画は多くの観客の支持を集めて成功したのだと思う。
冬から冬までの物語(その後にエピローグと言うべきエピソードがある)。冒頭、ロサンゼルスのフリーウェイで渋滞した車のドライバーたちが次々に外に出て歌い踊り始める。曲はリズミカルな「アナザー・デイ・オブ・サン」。カットを割らずに踊り手にクローズアップしたり、クレーンを使ったりして、ワンカットで描かれる楽しくて躍動的なオープニングだ。この渋滞の中にミア(エマ・ストーン)とセブ(ライアン・ゴズリング)がいて、2人は最良とは言えない出会いをする。ミアは女優を夢見て、カフェで働きながらオーディションを受け続けている。セブは自分の店を持つのが夢のジャズピアニスト。2人の境遇を描く冬のパートに続いて、春のパートがa-haの「テイク・オン・ミー」のメロディーで始まる。
3度目の出会いをした2人の間には恋が芽生え、夏のパートでそれが燃え上がる。ロスの夜景が美しい高台で2人がタップダンスを踊る「ア・ラブリー・ナイト」はロマンティックでキュート、とても愛らしく微笑ましい。歌と踊りのベストシーンだ。セブは知人のミュージシャン、キース(ジョン・レジェンド)に誘われ、バンドのキーボードを担当することになる。ジャズではないので望まない仕事だったが、ミアとの将来を考えた上での決断だった。
そして秋(Autumnではなく、Fall)。バンドが売れて忙しくなったセブと、ミアはすれ違いが多くなる。夢を捨てたかのように見えるセブに対して、ミアは怒りをぶつけてしまう。オーディションを落ち続けていたミアは2次のオーディションに進むが、演技をする間もなく簡単に落とされる。ちょっと抵抗しそうになって考え直し、「ありがとう、楽しかったわ」と礼を言うミアの姿が切ない。ここからの展開に胸を打たれた。この後、ミアには残酷で大変な失意のシーンがあるが、ミアはセブの励ましでそれを乗り越えていくのだ。
主演のエマ・ストーンは15歳からオーディションを受け続けてきたので、この役に共感する部分が多かったという。だから「オーディション(ザ・フールズ・フー・ドリーム)」を熱唱する場面が胸に迫る。それはゴズリングにも監督にも共通することなのではないか。周知の通り、デイミアン・チャゼルは最初にこの映画を撮りたかったが、新人にこれだけの予算を任せる映画会社はなく、自分の実力を証明するために低予算の「セッション」を撮った。その「セッション」、一般的な評価は高かったが、あまりにも主演2人のキャラがバカすぎて僕は褒める気にならなかった。なぜああいう映画になったのか、今にして分かる。チャゼルは2作目と同じ作品になることを避けるために、自分が本当に撮りたかったものを省いて物語を作ったのだろう。「セッション」もまた自分の夢を実現したい男2人の映画ではあったのだ。
「ラ・ラ・ランド」は何よりもまず今現在、夢に向かって苦闘している人たちへの応援歌になるだろう。そしてかつて夢を追ったことのある人たちもまた熱い共感を持ってこの映画を受け止めるに違いない。すべてがうまく行くわけではないビターな結末だが、これもまたハッピーエンドなのだ。アカデミー賞では監督、主演女優、作曲、歌曲、美術、撮影の6部門を受賞した。