2016/11/20(日)「白鯨との闘い」の本筋

 なぜ今ごろ、「白鯨」のような話を映画化するのか疑問で、劇場公開時には見逃した。Netflixで見て後半の展開に驚いた。なるほど、こちらが本筋なのか。

 ナサニエル・フィルブリックのノンフィクション「復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇」をロン・ハワード監督が映画化。2003年に邦訳された原作は映画公開に合わせて昨年、「白鯨との闘い」のタイトルで集英社文庫に入った。映画はハーマン・メルヴィルが新作を書くためにかつての捕鯨船乗組員に話を聞くという設定で始まる。新作とはもちろん「白鯨」のことだが、フィルブリックの原作はマッコウクジラによって船を壊された乗組員の漂流がメインのようで、白いクジラを出したのは映画の脚色らしい。原題はIn the Heart of The Sea。

 前半は邦題通りに、“海の悪魔”と言われる白鯨との闘いが描かれるが、後半は一転、乗組員たちの過酷な漂流の話になる。「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」が比喩的に描いたカニバリズムの話も出てくる。飢えと渇きと疲労で衰弱しきった乗組員たちがくじ引きで誰を食料にするかを決める場面があるのだ。しかし、さすがロン・ハワード、キワモノにはしていない。ハワードは古き良きハリウッド映画の伝統を守り抜いている監督なので、感動的な決着を用意している。夫の悲惨な漂流の実際を初めて知った妻が「それを知っていても私はあなたのそばにいたわ」と話す場面など、ハワードらしい在り方だ。

 僕はハワードの直球ど真ん中という演出が好きなのだが、この映画、アメリカでは評価が高くない。ロッテン・トマトで肯定的評価は43%、IMDbの採点は6.9。後半のダークな部分が受けなかったのかもしれない。主演はハワードの前作「ラッシュ プライドと友情」に続いてクリス・ヘムズワース。

2016/11/13(日)「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 主張備えたエンタテインメント

 ダルトン・トランボの名前を知ったのは監督作の「ジョニーは戦場へ行った」(1971年)が公開された時。当時はドルトン・トランボという表記だった。赤狩りによって投獄された“ハリウッド・テン”の一人であり、「ローマの休日」を匿名で書いた脚本家であることはその頃、既に知られていた。終戦後、脚本家として活躍していたトランボ(ブライアン・クランストン)は非米活動委員会に召還され、証言を拒否したために投獄される。映画はそこから復権までの道のりを仲間や家族の描写を織り込みながら描いていく。監督のジェイ・ローチはこれまでコメディの多かった人。それが功を奏したのか、ガチガチの社会派映画にはせず、きっちりと主張を備えたエンタテインメントに仕上げた。

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」パンフレット

 刑務所から出たものの、トランボに以前のような仕事はない。「ローマの休日」は友人のイアン・マクラレン・ハンター(アラン・テュディック)の名義で映画会社に売り込み、アカデミー原案賞を受賞するが、当然のことながら仕事の依頼が来るわけではなかった。トランボはB級映画を量産しているフランク・キング(ジョン・グッドマン)の会社から安いギャラで仕事を請け負う。偽名で脚本を書いたほか、請け負った仕事は脚本家仲間に回し、それをキングが気に入らなかった場合はトランボが書き直す契約。トランボが優れた脚本を書けた理由は映画からは分からないのだが、仕事に追いまくられてバスタブにタイプライターを持ち込み、3日で1本の脚本を仕上げる姿からは一流の職人のような人だったのだなとうかがえる。そうやって書いたロバート・リッチ名義の「黒い牡牛」(1956年)もアカデミー原案賞を得た。

 映画が唾棄すべき人物として描いているのは元女優でコラムニストのヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)。ホッパーは非米活動委員会の手先のような言動と振る舞いをしてトランボたちを苦しめる。一方でトランボの実力を認めて「スパルタカス」の仕事を依頼するカーク・ダグラス(ディーン・オゴーマン)や「栄光への脱出」監督のオットー・プレミンジャー(クリスチャン・ベルケル)がいるし、ラジオからは非米活動委員会の活動に疑問を呈するグレゴリー・ペックやルシル・ボールの声も聞こえてくる。「アメリカの理想を守るための映画同盟」に所属していたジョン・ウェイン(デヴィッド・ジェームズ・エリオット)もホッパーに比べれば悪い男としては描かれていない。

 トランボたちを支援していた俳優のエドワード・G・ロビンソン(マイケル・スタールバーグ)は仕事を干され、非米活動委員会で証言してしまう。かつて支援してもらった金を返しに来たトランボとロビンソンが対峙する場面が印象的だ。匿名でも仕事ができる脚本家と違って、俳優は顔を隠して仕事はできない。ロビンソンは苦渋に満ちた表情でそう話すのだ。

 見ていて思うのは寛容と非寛容ということだ。自分とは異なる他人の思想・信条を全面否定し、平気で踏みにじる。赤狩りで行われたのはそういうことだった。一方的な攻撃・弾圧がまかり通る社会は間違っている。トランボは確かに共産党に所属していたが、重視したのは言論の自由を守ることであり、合衆国憲法修正第一条に明記されている言論の自由が封殺される状況に強く反発していた。映画が描いたことはハリウッドの異常な一時期、過去の話に終わるものではなく、今に通じる。

 トランボを支える妻クレオ役をダイアン・レイン、長女のニコラをエル・ファニングが好演している。ニコラが公民権運動に参加する描写などはしっかり父親の血を受け継いでいるのだなと思わずにはいられない。庭に池がある大きな家を売って、小さな家に引っ越す一家のホームドラマとしての側面が映画の幅を広げている。

2016/11/12(土)NetflixとHulu

 映画「続・深夜食堂」を見て、Netflix版の「深夜食堂 Tokyo Stories」も見たくなったのでNetflixに加入した。比較するためにHuluにも加入した。どちらも無料期間中で、いずれどちらかに絞りたいと思う。

 Netflixはネットの評価を見ると、映画の本数が少ないという意見が多い。僕もざっと見てそう感じた。Huluの方が圧倒的に多く感じる。気になったのでdTVとamazon Primeビデオも含めて映画の本数を数えてみた。dTVとamazonは本数が表示されるが、NetflixとHuluは表示されないので実際に数えるしかない。Huluは洋画と邦画の分け方ではなく、日本、米国、中国、韓国などと分けてある上に区別の仕方も怪しく、邦画の中に「ドラキュラZERO」が入っていたりするので年代別に数えた。多少の数え間違いはあるかもしれないが、結果は以下の通り。

▼dTV(見放題のみ)
洋画1316
邦画 659
計 1975本

▼Hulu
2010年代 615
2000年代 446
1990年代 178
1980年代 103
1970年代  55
1960年代  76
1950年代  40
   計1513本

▼amazon Primeビデオ
洋画1328
邦画 702
計 2030本

▼Netflix
洋画1490
邦画 700
 計2190本

 意外なことにNetflixが一番多く、Huluが一番少なかった。2番目はamazonだが、ここは洋画の字幕版と吹き替え版を別に数えているので2、3割少ないと思った方が良い。しかし、コストパフォーマンスを考えると、amazonが一番。年間3900円で、送料無料とPrimeミュージックまで付いてくるので圧倒的だ。

 収録作品に関して言うと、どこも似たり寄ったりの作品が並んでいる。見たい作品がなかったら、TSUTAYAで借りたり、amazonビデオで見たりすればいいのだから、どこに加入しても大差ない。それに映画マニアならば、収録作品の9割以上(ほとんど全部?)は見ているだろう。そう考えると、こういう動画配信サービスを選ぶ場合、映画の本数は選択基準にはなりにくいのではないか。むしろTVドラマの方が選択基準になる。シーズン全話借りると高くなりますからね。定額で一気に見た方が安くつくのだ。その意味で大人気の「ウォーキング・デッド」の最新版が見られるdTVとHuluは強いなと思う。

 Hulu以外の3つのサービスはオリジナルドラマを作っている(間違いでした。Huluもオリジナルドラマ作ってました)。同じことはWOWOWもやっている。差別化のためには有効なのだろう。僕も「深夜食堂」がなかったら、Netflix加入は考えなかったですからね。

 ケータイWatchが有料動画トップは「プライム・ビデオ」、45%が利用という記事を書いていた。ユーザーが最も多いのはやっぱりamazonで次がHuluだそうだ。Netflixはわずか9%。Gyao!や楽天SHOWTIMEにも負けているというのが意外な結果だ。でも、これ見放題だけじゃなくて有料配信の調査だから、こうなるのでしょう。

2016/10/25(火)「ウォーキング・デッド」シーズン7第1話

 「惨き鉄槌」(原題: The Day Will Come When You Won't Be)」のタイトルが付いている。今年3月放送のシーズン6のラスト、主要メンバーの誰かがバットで殴り殺されたが、殺される人間の視点で描かれたので誰が死んだのか分からなかった(殴られて画面の上から血がドロッと流れた後にもう一度バットが振り下ろされ、画面がブラックアウトする)。それがようやく明らかになった。

 僕はリアルタイムでは見られなかった。代わりにTwitterのタイムラインを見ていたら、リアルタイムで見ている人の阿鼻叫喚のつぶやきが並んだ。ネタバレも書いてあった。というわけで録画したのを見たら、それほどでもなかった(当たり前です)。

 有刺鉄線を巻いたバットで頭を叩き潰すという描写は正視に耐えない。アメリカの地上波は暴力描写の規制が厳しいが、AMCのようなケーブルテレビに関してそれはないらしい。地上波でもケーブルでも家庭で子どもが見る可能性は同じなのだから、これは少しおかしい気もする。

 それはともかく、このドラマを知らない人が見てもこの描写は正視に耐えないだろうが、数年間、このキャラクターを見続けてきた人のショックは計り知れない。特に日本では人気のあったキャラクターだから(うちの次女もファンだった)、「ウォーキング・デッドはもう見ない」という人がいるのも分かる。

 これはアメリカでも賛否あるだろうと思って。IMDbの評価を見ると、17955人が投票した段階で9.3と恐ろしく高い。10点満点が66.1%、9点が16.6%と9点以上が8割を占める。少なくともシリーズのファンはこの内容を支持しているということになる。僕は6点を投票した。ロッテン・トマトでは69%が肯定的評価。平均点は7.2となっている。

2016/10/22(土)3年ぶりの沖縄

 1泊2日の出張で沖縄に行ってきた。沖縄は3年ぶり。数えてみると、仕事では5回目、プライベートでは家族で4回行っているから通算9回目になる。行きの飛行機は「那覇空港混雑のため」出発が30分ほど遅れた。1時間15分ほどで那覇空港着。いきなり暑い。宮崎に比べると、1カ月ほど季節が戻った感じ。上着もネクタイもいらなかった。

 空港ビルの3階にあるA&Wでモッツァバーガーのセットを注文。何度も沖縄に来てるのに、いつも4階のレストラン街に行き、この店には入ったことがなかった。ドリンクはもちろんルートビア。スティーブン・キング「11/22/63」で過去に行った主人公がとてもおいしそうに飲むルートビアを飲んでみたかったのだ。A&Wが出している缶入りは飲んだことがあるが、店では飲んだことがなく、沖縄出張が決まった時から楽しみにしていた。缶入りよりおいしく感じるのは気のせいか。

「ジョイランド」の表紙

 Twitterでつぶやいたら、キングの「11/22/63」文庫版のイラストを描いているイラストレーターの藤田新策さんからリツイートされた。藤田さんは「ミスター・メルセデス」や「ジョイランド」など最近のキングの本の表紙を描いている方。ついでにこの2作の感想を書いておくと、エドガー賞の「ミスター・メルセデス」はもちろん傑作なのだが、個人的には「ジョイランド」の方が好きだ。青春小説、成長小説にミステリを絡めた話で70歳近い作家の作品とは思えないほど切なく、みずみずしい。最近のキングは何度目かの絶好調の時期を迎えた感じがする。

 ゆいレール(モノレール)で県庁前駅まで行く。ゆいレールは1日(24時間)乗り放題券が700円と安い。終点の首里駅まで往復で660円なので、1日に3回以上乗るなら、乗り放題券がお得だ。モノレールは10分間隔で走っている。チケットはバーコードを読み取るタッチ式で、Suicaは使えない。Suicaを導入しなかったのは主にコストの問題らしい。

 夕方まで会議の後、宿泊先の沖縄かりゆしアーバンリゾート・ナハにチェックイン。懇親会場はここの8階にあるレストランだった。部屋は最上階(15階)でとても良かったのだが、禁煙フロア。会議で一緒になった人はアイコスだったので、「こっそり吸う」と言っていた。まあ、こっそりじゃなくてもアイコスなら煙は出ませんからね(水蒸気は出る)。喫煙場所が6階にあるが、すごく狭い。喫煙者の肩身は狭くなるばかりだ。懇親会で久しぶりに飲んだオリオンビールがおいしかった。泡盛の水割りも数杯。「泡盛でポピュラーな銘柄は何ですか?」と聞いたら、残波とか久米仙だそうだ。久米仙は去年、沖縄に行った家内が買ってきた。

沖縄の泊港(Googleフォトが自動で作ったパノラマ写真)


 写真はホテルの部屋から撮影した泊港。スマホで4枚撮影したらGoogleフォトが自動でパノラマ写真にしてくれた。すごいなあ。勝手にストーリーを作る機能は知っていたが、パノラマ写真まで作るとは。

 沖縄滞在中に感じたのはアジア人観光客の多さ。ゆいレールでは中国語や韓国語が飛び交う。僕は計4回乗ったが、必ず中国人、韓国人がいた。先月行った福岡ではキャナルシティ博多の免税店ラオックスが閑散としていて、インバウンド消費の急減を実感したのだけれど、観光客はそうでもないようだ。沖縄の人に聞いても、中国人観光客が大きく減った印象はないとのこと。減ったのは中国が個人にも関税をかけるようになって採算が取れなくなった転売屋で、一般の観光客にあまり影響はないのだろう。平日でこんなに多いということは夏休みなどはもっと多いのでしょうね。