2011/09/12(月)ドラマの質

 「下町ロケット」第4話もとても面白かった。大企業の横暴とそれへの反撃、そして不当な裁判が決着したかと思ったら、またしてもラストで大きな困難が待ち構えていた。視聴者の次回を見たいという欲求を否が応でも高めるこの作りはクリフハンガーみたいにうまい。WOWOWがこんなにレベルの高いドラマを生み出すとは驚きだ。いや、3月に傑作ぞろいの「横山秀夫サスペンス」4話を見ているのだが、「下町ロケット」はそれよりも数段レベルが高いのだ。脇の人物に至るまでキャラが立ちまくりなのが素晴らしい。

 WOWOWは今年で開局20年。今月号のプログラムガイドと一緒に送られてきたパンフによると、WOWOWがドラマWの製作を始めたのは2003年で、第1作は川上弘美原作の「センセイの鞄」(文化庁芸術祭テレビの部ドラマ部門最優秀賞)だった。連続ドラマWは2008年の「パンドラ」が最初だから、ドラマに関して長い歴史があるわけではない。

 ただし、1992年に始まったJ・MOVIE WARSがその萌芽と言えるかもしれない。崔洋一「月はどっちに出ている」(キネ旬ベストテン1位)なども生んだこの企画は主に放送ソフトの充実の意味があったのだと思う。WOWOWの柱である映画はレンタルもできるし、スターチャンネルなど他の放送局で見ることもできる。不完全とはいえ、地上波なら無料で見られる。独自のコンテンツと呼べるものがないと、加入契約を伸ばすことは難しいという判断があったのだろう。最初は単発のドラマだったが、連続ドラマの方が視聴者の関心を長く保つことができるのは当然で、連続ドラマの製作を始めたことは理にかなっている。

 加入者の視聴料で成り立つWOWOWは民放のようにスポンサーの顔色をうかがう必要がない。加入者の満足度のみ考えればいいわけで、ドラマの出来不出来は加入契約の伸びに影響を及ぼすだろう。映画監督を使った質の高いドラマ作りの背景にはそんなところも影響しているのに違いない。地上波のように1クールに決まっているわけでもないのだから、製作する側にとっても有利なのではないか。

 「センセイの鞄」以降、賞を取ったドラマは「祖国」(2005年)「パンドラ」(2008年)「空飛ぶタイヤ」(2009年)「なぜ君は絶望と闘えたのか」(2010年)。「下町ロケット」も何らかの賞を取るのは確実に思える。

2011/09/11(日)連続ドラマW「下町ロケット」

 WOWOWで放送中のドラマ。録画しておいた第3話までを一気に見た。もう第1話を見た時に嗚咽が漏れまくり、2話目を見た後に本屋へ走って池井戸潤の原作を買う羽目になった。直木賞受賞など僕には何の意味もないが、これほどの内容とは思わなかった。第3話も期待通りの出来。これ、今年屈指の傑作ドラマと断言する。いや、テレビドラマはほとんど見ないので僕の断言など信用がならないのだが、こんなに毎回毎回胸を熱く打ちまくってくれるドラマはそうそうないだろう。これ見るためだけにWOWOWに入ってもまったく損はない。

 話はまっすぐな心を持つ人間たちがねじ曲がった人間たちに打ち勝つ話とまとめてしまえるだろう。小さな町工場の意地とプライドと誇りをかけて、大企業の妨害に対していく姿勢がとても気持ちよい。社長になった今も夢を捨てない三上博史が久しぶりの大はまり役であるのをはじめとして、大手事務所のあくどさに耐えきれずに独立した弁護士の寺島しのぶ、国産ロケット打ち上げに熱意を燃やす渡部篤郎などなどがいずれも好演。まったく隙がない緊密なドラマである。第1話と第2話の監督は鈴木浩介、第3話は水谷俊之だった。今日が第4話。来週が最終回だ。もう楽しみ楽しみで仕方がない。

2011/09/10(土)「探偵はBARにいる」

 東直己のススキノ探偵シリーズの映画化。原作は「バーにかかってきた電話」だが、タイトルは第1作を使うというややこしいことになっている。タイトル前のシーンが長すぎて手際の悪さを感じさせ、不安を持ったが、謎解き部分がしっかりしており、至る所にあるユーモアも外れていず、探偵映画として悪くない作品に仕上がった。

 バーでぼこぼこに殴られた主人公の探偵(大泉洋)が包帯ぐるぐる巻きになったシーンを見て、「あ、カリオストロの城のルパンだ」と思った。包帯の巻き方がいかにもまねした感じなのだ。キネ旬9月下旬号の記事を読んだら、橋本一監督は「無意識的に『ルパン三世 カリオストロの城』の匂いも、いろんなところに出ちゃったかな、と(笑)。ええ、ポンコツ車で遊んだ演出も」と語っている。やっぱりそうか。探偵と相棒の高田(松田龍平)が乗るポンコツ車は光岡自動車のビュート(日産マーチを基にして作った車)。絵的にルパンと次元が乗るフィアット500のような味があるのだ。探偵自身のキャラも大泉洋が演じているだけあって、ユーモアのあるものだし、全体的に感じたルパン三世の匂いが僕には好ましかった。

 もっとも橋本監督はそれ以上に松田優作「最も危険な遊戯」(1978年)を意識したという。公開当時、アクション映画ファンを驚喜させた村川透監督のこの映画は日活アクションの香りを引きずっていた。それを参考にしたのだから、「探偵はBARにいる」もまたプログラムピクチャーと昭和の匂いを引きずることになる。年季の入った映画ファンならニヤリとするシーンが多いのである。「最も危険な遊戯」は同じ東映クラシックフィルム製作でテレビドラマ「探偵物語」(1979年)に発展したが、あの探偵を演じた松田優作とこの映画の大泉洋の立ち位置は同じようなところにある。

 主人公はタイトル前のナレーションで自分のことを「プライベート・アイ」(探偵)と名乗る。探偵がフィリップ・マーロウのようにバーでギムレットを頼んだってかまわないのだが、探偵=ハードボイルドではない。音楽も含めて、この映画にはハードボイルドの雰囲気に努めようとした節がある。そこはもう少し抑えた方が良かったと思う。日本映画でこの気取った雰囲気をやられると、基本的にパロディにしかならないのだ。

 そうした小さな傷はいっぱいあるにしても、好感の持てる作品であることは間違いなく、大作にせず、プログラムピクチャー的な味わいでこの映画は続編を作るべきだろう。脚本に手を抜かない限り、楽しませてくれるシリーズになるのではないかと思う。

2011/09/10(土)「ミッドナイト・ミート・トレイン」

 クライヴ・バーカー原作で血の本シリーズの第1作「ミッドナイト・ミートトレイン」を読んだのはもう20年以上前。電車の中のスプラッターという記憶しか残っていない。映画は北村龍平監督のアメリカ映画デビュー作であり、不遇な公開のされ方をしたらしいが、作品自体はよくできたホラーになっている。屠殺場に勤め、地下鉄で殺戮を続けるマホガニーを演じるヴィニー・ジョーンズが怖い無表情をしていて秀逸。主演は「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」のブラッドリー・クーパー。ブルック・シールズも久しぶりに出ている。

2011/09/09(金)「未来を生きる君たちへ」

 アカデミー外国語映画賞を受賞したデンマーク映画。内容を伝えない邦題だが、原題は「報復」「復讐」を意味しているそうだ。英語のタイトルは「In a Better World」。「憎しみの連鎖を断ちきる」という今はやりとも言えるテーマを描きながら、監督のスサンネ・ビアは緊張感あふれるドラマを展開させ、見応えのある作品に仕上げた。

 アフリカの難民キャンプとデンマーク郊外の学校でドラマが繰り広げられる。特にデンマークの描写が良く、いじめられる少年クリスチャンを演じるヴィリアム・ユンク・ニールセンは「オーメン」のダミアン役にも似合う冷たさを漂わせている。