2009/12/20(日)「REC/レック」

 リメイク版では謎の伝染病が狂犬病として最初紹介されるが、オリジナルではそんなことはない。たとえ新種であっても狂犬病ではちょっとがっかりで、なぜリメイクがこんな改変をしたのか理解に苦しむ。クライマックスに最上階の部屋に出てくる存在もリメイク版とは異なり、こちらの方が好ましい。撮影のリアルさと相まって、ホラーとして良い出来と思う。ストーリー上に強烈なオリジナリティーはないし、ゾンビもののパターンではあるのだけれど、それでもこの映画には強烈な個性がある。上映時間が80分程度と短いのも良い。

 カメラの主観撮影のことをPOV(ポイント・オブ・ビュー)と言うそうで、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド HAKAISHA」が有名だ。「ブレア・ウィッチ…」には直接的な怪異の存在は登場せず、怖い雰囲気だけの映画だったけれど、怖さの盛り上げ方がうまかったと思う。「REC/レック」もカメラのブレや動きが真に迫っている。これがこの映画のキモだろう。ストーリーや撮影の仕方などはほとんど同じなので、amazonのレビューではリメイク版のことを(オリジナルの)ダビングと言っているが、ダビングよりも劣化コピーと言うべきか。緊迫感やシャープさがリメイク版には欠けているのだ。冒頭の消防署のシーンなどはオリジナルもちょっと冗長だけれど、リメイク版の退屈さよりははるかにましである。

 字幕が好まれないアメリカでは吹き替え版を作る代わりにリメイクしてしまうことがあるが、このリメイク版もそのような意図から作られたのだと思う。だが、同じ脚本で撮っても、出来上がった映画には大きな差がある。

 オリジナル版の脚本・監督はジャウマ・バラゲロとパコ・プラサ。この2人は「REC/レック2」でもコンビを組んでいる。劇場公開が10月だったから、DVDがいずれ発売されるだろう。楽しみに待ちたい。

2009/12/15(火)「このミステリーがすごい2010年版」

 国内編1位の東野圭吾「新参者」はまったくのノーマーク。というか、東野圭吾自体をノーマークにしているので、この本の存在さえ知らなかった。ベストテンのうち読んでいるのは7位の篠田節子「仮想儀礼」のみ。しかし、これはミステリではないと思う。これをミステリに入れるなら、村上春樹「1Q84」の方がよっぽどミステリだと思う。広義のエンタテインメント小説を選ぶベストテンと理解しても、それならなぜ「1Q84」が入らないのさ、と思う。いや、ま、純文学なんだけど。

 海外編1位はドン・ウィンズロウ「犬の力」。これもノーマーク。海外編は「ミレニアム」3部作を含めて6冊読んでいて、1冊(ジェフリー・ディーヴァー「ソウル・コレクター」)を持っていた。いや、「ミレニアム3」は今読んでいるところなんだが、翻訳ミステリに関してはまずまずの打率(?)だった。それにしてもトム・ロブ・スミス「グラーグ57」が6位に入ってるのが不思議。それよりジョン・ハート「川は静かに流れ」が7位に甘んじているのも不思議。個人的にはまったくつまらなかった「ユダヤ警官同盟」が3位なのは大いに不満。

 書店でついでに以前から気になっていた柳広司「ダブル・ジョーカー」(2位)を買った。しかし、これ、まず「ジョーカー・ゲーム」を読まなくちゃいけないのかな。「犬の力」も読んでみよう。

2009/12/08(火) 気管支炎

先週の木曜日ごろからのどがいがらっぽく、風邪の引き始めと感じる症状があった。そのうち治るだろうと思っていたが、新型インフルエンザだといけないので、とりあえず自宅近くの病院に行く。この病院に来るのは4年ぶり。のどを見た医師は「真っ赤ですね」。気管支を広げる薬と抗生剤の点滴をしてもらう。点滴するのも4年ぶりだ。途中で医師が来て、血液検査の結果、「白血球が1万個近く、炎症反応も高い」と説明。点滴は30分ほどで終わった。

処方箋をもらって薬局に行こうとしたら、4年前とは違う場所になり、名前も変わっていた。もらった薬はフスコブシロップ(咳を鎮める)、ムコダイン錠(副鼻腔炎の膿を取る)、ボルタレン錠(痛みや炎症を抑える、解熱)、キプレス錠(咳を鎮める)、シロマックSR成人用ドライシロップ2g(細菌の感染を抑える。効果は1週間持続)、ホクナリンテープ2mg(胸か上腕に貼る外用薬。気管支を広げる)。ボルタレン錠はいらない気がするなあ。これは眠くなるので、朝は飲めない。というか、夕食後に飲んだら、2時間ほど爆睡した。

気管支炎は5年前から4年前にかけて3回ほどかかった。単身赴任時にはかからなかったが、元の生活に戻ったのが再発原因のひとつか。そういえば、単身赴任時は風邪もあまり引かなかったな。

2009/12/05(土) 2009年年間本ランキング

 『オリコン2009年 年間“本”ランキングを大発表!』-ORICON STYLE エンタメより。ベストセラーの1位は予想通り村上春樹「1Q84」。BOOK1が1位で108万0340冊、BOOK2が3位で89万6061冊ということはBOOK1しか読まなかった人もいたのか。ベストテンを見て驚くのは10位までに入っている小説はこれと湊かなえ「告白」の2冊だけであること。ベスト50までを見ると、ようやく27位に天童荒太「悼む人」が出てくる。直木賞を取っても25万2860冊しか売れないのだ。小説は売れていないのだな。

 天童荒太と言えば、きょう本屋に行ったら「静人日記」があったので買った。しかし、本は買うばかりでまたもや積ん読が大幅増加傾向にある。ほかに読みかけてるのが「風が強く吹いている」「ミレニアム3」「フロム・ヘル」と3冊ある。積ん読で気になってるのがコーマック・マッカーシー「ザ・ロード」、スティーブン・ハンター「黄昏の狙撃手」、ジョルジュ・シムノン「倫敦から来た男」、フランセス・ファイフィールド「石が流す血」などなど。困ったものだ。

 新書の1位は姜尚中「悩む力」。ランキングに入った新書の中で読んでるのは2位の香山リカ「しがみつかない生き方」ぐらい。今年は新書をけっこう読んだが、僕の趣味に合う本はベストセラーにはなりにくいのか。香山リカの本はまだ読んでる途中なのだが、そんなに面白くはない。新書は薄い内容の場合が多いので、タイトルが重要なのだろう。

 文庫本の方は小説ばかりがずらりと並ぶ。小説は文庫で読む人が多いのか。1位は道尾秀介「向日葵の咲かない夏」で83万5029冊。東野圭吾とか海堂尊とか伊坂幸太郎とかベストセラー作家の本が並んでる。これまた僕が読んだ本は少なく、43位万城目学「鴨川ホルモー」ぐらい。ベストセラーを追いかけてるわけじゃないから、いいんだけど。

 それにしても翻訳ミステリは壊滅状態だ。書籍総合でも文庫本でもダン・ブラウンしか入ってない。ミステリマガジンに「翻訳ミステリ応援団!」という座談会連載があるのも分かるなあ。

2009/11/30(月)「イングロリアス・バスターズ」

 ほぼ失敗作だと思う。なぜこの程度の話に2時間32分もかかるのか理解しがたい。脚本にコンパクトさが欠け、演出がそれに輪をかけている。だからダラダラした映画にしかならない。クエンティン・タランティーノの前作「デス・プルーフ in グラインドハウス」のアクションが僕は好きだけれど、ダラダラ感はいなめなかった。感想を読み返してみると、こう書いていた。「ボロボロにしてしまったダッジはどうなるとか、余計なことを描いていないのがいい。惜しいのはこのラストのあり方を全体には適用してないことで、こうした映画なら1時間半程度で収めて欲しかったところだ。短く切り詰めれば、もっと締まった映画になっただろうし、もっとグラインドハウス映画っぽくなっていただろう」。

 その前の「キル・ビル」2作にしても撮っていたら長くなったために2作に分けることになったわけで、演出のコンパクトさをもっと考えないと、数々の映画へのオマージュだけでは惜しいと思う。タランティーノが愛するかつての映画はどれもコンパクトだったはずだ。その技術を引き継がず、表面上の描写をマネしてみても空しいだけである。タランティーノに必要なのは演出のシャープさとスマートさだ。

 冒頭、ナチに占領されたフランスの田舎でユダヤ人の少女がドイツ兵から辛くも逃げ出す場面は15分前後はあり、早くもダラダラ感を覚える。ここは導入部なのだから、シャープな監督なら5分程度にまとめるはずだ。この第1章「その昔…ナチ占領下のフランスで」に始まり、第2章「名誉なき野郎ども(イングロリアス・バスターズ)」第3章「パリにおけるドイツの宵」第4章「映画館作戦」第5章「ジャイアント・フェイスの逆襲」と続く。ユダヤ人の少女ショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)が家族を皆殺しにしたハンス・ランダ(クリストフ・ヴァルツ)への復讐とブラッド・ピット率いるイングロリアス・バスターズと呼ばれるナチ殺しに命をかけるアメリカの秘密部隊の作戦が交差していくという作り。誰が生き残り、誰が死ぬのか予断を許さない展開はタランティーノらしい。さまざまな映画からの引用もまたタランティーノ映画にはおなじみだ。

 その引用、とても僕には全部は分からなかったが、パンフレットによれば、「ナチスやアメリカの戦意高揚映画、お洒落な40年代ハリウッドのラブコメ、60年代の男臭いアメリカ製戦争映画、血みどろのマカロニ・ウエスタン」などなどが入っているそうである。「暁の7人」や「追想」に影響を受けたシーンもあるとか。しかし、それがどうした、と思う。そういう過去の映画を引用しても、面白い映画にならなければ仕方がない。キャラクターや展開の奇抜さだけでは映画はもたないのだ。ダラダラが唯一、効果を上げたのはレストランでの銃撃シーンぐらいか。ここはダラダラと銃撃のすさまじさの対比が面白かった。

 一人の女のナチスへの復讐という部分に関してはポール・バーホーベン「ブラックブック」に完璧に負けている。タランティーノ、次は完全オリジナルの映画を目指してはどうだろうか。ヒロインのメラニー・ロランは若い頃のカトリーヌ・ドヌーブを思わせて良かった。