2014/10/12(日)「その女アレックス」

 30歳の美しい女性アレックスが正体不明の男から拉致され、身動きできない檻の中に閉じ込められるというのが発端。この監禁描写はリアルで緊迫感にあふれるが、物語はここから想像もつかないところに着地していく。

 一種の叙述トリック。どこから語るか、どう語るかで物語の様相は大きく変わる。それを計算し尽くした構成が秀逸だ。トリックだけで成立したミステリーは読み終わっても驚きしか残らないが、この作品には重い読後感がある。

 訳者あとがきにミステリマガジン2013年12月号のオットー・ペンズラーのコラムが引用されている。引用されていない部分を引用しておく。

 警官たちは有能かつ勤勉で、事件は解決したかと思われるが、何もかもが予想通りには進まない。もし、最初の百ページですべてわかったという読者がいたとしても、私は信じない。

 酷すぎるほどの暴力描写があり、フランス語から英語への翻訳も完璧ではないが、Alexは英国推理作家協会賞のCWAインターナショナル・ダガー賞を受賞するにふさわしい作品だ。

 事件を捜査する主人公カミーユ・ヴェルーヴェンをはじめパリ警視庁犯罪捜査部の面々が魅力的だ。このシリーズ、もっと翻訳してほしい。