2002/03/13(水)「エネミー・ライン」

 ボスニアを舞台に繰り広げる戦争アクション。撃墜された偵察機のパイロットが敵のセルビア人勢力の支配地域(Behind Enemy Line)を必死に逃げ回る。それを上官(ジーン・ハックマン)が救出しようとする―という設定はまるで「スパイ・ゲーム」のよう。映画デューでCM、MTV出身の31歳ジョン・ムーア監督は的確な絵づくりができる。特に撃墜場面の圧倒的なカット割りとSFXはMTVで培った手腕なのだろう(樋口真嗣が「206秒に176カット 脅威のモンタージュ」とパンフレットで分析している)。このほか、アクション場面はどれも見応えがある。

 単なるアクション映画としてみれば、(一部にデビュー作としての傷はあるが)よくできた映画である。ただ、ボスニアが舞台というのがどうも気にかかる。和平交渉の裏でセルビア人は民間人の虐殺を繰り返しているという設定が事実に基づくものかどうか知らないが、セルビア人を残虐な敵という風に単純化してとらえる視点は安易である。きっとハリウッドはアフガンを舞台にした映画もそのうち撮るだろう(「ランボー3 怒りのアフガン」は既にありますが)。

 「プレデター」「プレデター2」「エグゼクティブ・デシジョン」のジェームズ・トーマス&ジョン・トーマスの原案をデヴィッド・ペローズ(ナチュラル・ボーンキラーズ」)とザック・ペン(「ラスト・アクション・ヒーロー」)が脚本化。冒険小説的ストーリーだが、決定的に違うのはクライマックスに騎兵隊よろしく援軍が駆けつけてくるところ。好みから言えば、ここは主人公が独力で敵を撃退して脱出する展開にしたかった。で、自分を見殺しにしようとした米海軍上層部に一撃を加えるとか、軍批判の視点まで入れてくれるとさらに良かった。

 しかしその展開にすると、主人公を演じるオーウェン・ウィルソン(「ホーンティング」「シャンハイ・ヌーン」)では役不足。どうも甘さが残る顔立ちなので有能な兵士には見えない。もう一人のパイロットを簡単に処刑し、執拗に主人公を追撃するセルビア人ウラジミール・マシュコフの方が顔に凄みがあるので、ウィルソンがマシュコフに勝てるとはとても思えないのである。