2022/12/25(日)「かがみの孤城」ほか(12月第4週のレビュー)

「かがみの孤城」は辻村深月のファンタジーを原恵一監督がアニメ化。完璧なアニメ化だと思います。5年前、原作を読んだ時に、いじめと不登校の重たいテーマに対して終盤のミステリー的趣向の多さは少しそぐわないと思えました。映画はそのあたりのバランスが非常に良かったです。原監督にとっても会心の出来ではないかと思います。

 学校に行けなくなった中学生・安西こころ(當真あみ)が主人公。ある日、部屋の鏡が光り出し、こころが中に入ると、おとぎ話に出てくるような城につながる。そこには中学生の男女6人がいた。狼のマスクをかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶える」と告げる。期限は約1年。鍵を探しながら共に過ごすうち、7人はいずれも同じような境遇にあることが分かる。

 学校で孤立した経験を持つ辻村深月は原作を書く際に「いじめ」「不登校」という言葉を意識的に使わなかったそうです。インタビューを読むと、主人公や他の登場人物に起きたことを丁寧に説明しないと、言葉のイメージだけで理解されてしまい、本質が伝わらないと感じたからのようです。2018年の本屋大賞を受賞した原作の前半は主人公の学校でのつらい経験が胸を打つ秀逸な出来でした。

 映画にもこの2つの言葉は出てきません。「カラフル」(2010年)から4作続けて原監督とコンビを組む丸尾みほの脚本は原作の持つ力を損なうことなく、重要なエピソードをピックアップして構成しています。主人公の声を演じる當真あみをはじめ、芦田愛菜、麻生久美子、宮崎あおいらの声優陣も見事。高山みなみが声を担当したマサムネは江戸川コナンのあのセリフを言う場面があってニヤリとさせられました。

 今年はアニメのさまざまな傑作・話題作が公開されましたが、掉尾を飾るのにふさわしい優れた作品だと思います。1時間56分。
▼観客21人(公開2日目の午前)

「ケイコ 目を澄ませて」

 小笠原恵子「負けないで!」を原案に岸井ゆきのが耳の聞こえないボクサーを演じる三宅唱監督作品。岸井ゆきのはボクシングの練習を相当に積んだようで、トレーニングシーンだけでも感動を覚えるほど。手話も完璧です。

 今年の日本映画ベストとの評価もありますが、ドラマが希薄で僕は物足りませんでした。三宅唱監督作品としては前作「きみの鳥はうたえる」(2018年、キネ旬ベストテン3位)の方が好きです。

 ボクシングジムの会長を演じる三浦友和は「グッバイ・クルエル・ワールド」「線は、僕を描く」に続いて今年3本目の出演作品。どれも同じタイプのキャラに見えますが、渋くて良いです。助演男優賞有力じゃないでしょうか。1時間39分。IMDb7.3。
▼観客5人(公開5日目の午後)

「Dr.コトー診療所」

 フジテレビのテレビドラマの劇場版は今年だけで「コンフィデンスマンJP 英雄編」「劇場版ラジエーションハウス」「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」「沈黙のパレード」に続いて5本目になります。来年1月には「映画イチケイのカラス」が公開予定。「silent」もそのうち映画化されるのでしょう。

 元がテレビドラマであっても、面白ければ文句はありません。離島の医療を盛り込んだこの映画は貶すほど悪くはありませんが、さまざまな困難が重なり過ぎるクライマックスはスラップスティック一歩手前。話の作りには一考を要します。映画の中で行政が進める診療所の統廃合は島に診療所を残すのであれば、統合でも廃止でもありませんね。2時間14分。
▼観客多数(公開6日目の午後)

「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」

 「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」(2019年)の続編で、脚本・監督は前作と同じライアン・ジョンソン。8人の男女が富豪の住むギリシャの孤島に招かれる。という出だしは本格ミステリーではよくある設定で、当然のように殺人事件が起こり、8人の中にいた名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が事件を調べ始める、という展開です。

 笑いを適度に織り交ぜて楽しめる出来ですが、解決が本格ミステリーらしくありません。スパッと終わるスマートさが欲しいところ。富豪役にエドワード・ノートン。招かれる客はケイト・ハドソン、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のデイヴ・バウティスタ、「アンテベラム」のジャネール・モネイら。各地の映画祭で上映後、23日からNetflixが独占配信しています。2時間19分。
IMDb7.7、メタスコア81点、ロッテントマト94%。