2022/12/19(月)「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」ほか(12月第3週のレビュー)

 「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」は大ヒット3D映画の13年ぶりの続編。序盤はうーんと思える出来で、この調子で3時間はつらいなと思いましたが、主人公のジェイク(サム・ワーシントン)一家が森から海の民の所へ逃げてからは長さをそれほど感じない作りでした。

 クジラを思わせるタイカンやトビウオのように空を飛ぶスキムウイングなど海中生物の描写がいちいち凄いです。

 ジェームズ・キャメロン監督は基本、アクションの人なので、クライマックスには圧巻のアクションシーンが1時間ほど続きます。

 映像はかなりの高品質で、これは体験として見ておいた方が良い作品と思えました。それでも2時間半程度にまとめた方が良かったでしょう。

 アメリカでの評価はIMDb8.1、メタスコア69点、ロッテントマト77%(ユーザーは93%)となってます。プロの評価はそれほど良くないんですが、ゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞にノミネートされました。3時間12分。
▼観客少なめ(公開日の午前)

「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」

 ナチスの収容所で自分をペルシャ人と偽り、親衛隊の大尉にペルシャ語を教えることで生きのびたユダヤ人の話。原作は実話を基にした短編とのことで、映画にもフィクションがかなり入っているのでしょう。

 主人公のジル(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)が入れられたのはアウシュヴィッツのようなホロコーストを目的とした収容所ではなく、強制労働を課す収容所。ジルはペルシャ人と嘘をつくことで処刑を逃れ、ペルシャでレストランを開く計画を持つコッホ大尉(ラース・アイディンガー)の命令でペルシャ語を教えることになる。デタラメの言葉を必死に考え出して教え、幸運にも助けられてジルは毎日をなんとか生きのびていく。

 収容所のひどい実態も描かれますが、基本は主人公の正体がばれるのではないかとハラハラさせるサスペンスです。主人公の行動は自分一人の利益のためですが、他人に迷惑をかけているわけでもありません。生きのびることは重要ですから非難される謂われもありませんが、褒めすぎるのもどうかと思います。監督は「砂と霧の家」のヴァディム・パールマン。2時間9分。

 IMDb7.4、ロッテントマト79%。アメリカでは映画祭での公開のみ。
 ▼観客9人(公開5日目の午後)

「MEN 同じ顔の男たち」

 離婚をめぐる夫婦げんかの後に夫が転落死した女性が心の傷を癒やすためにイギリスの田舎町を訪れ、そこで襲われる恐怖を描いたホラー。原題は「MEN」だけで、サブタイトルは日本の配給会社が付けたものですが、これがまったく余計なお節介、有害なネタバレでしかありません。確かに田舎町に登場する男たちはどれもロリー・キニアが一人で演じているんですが、主人公のハーパー(ジェシー・バックリー)は全員が同じ顔であることに気付いていません。

 つまり、同じ顔であることは観客に対して示されているわけで、これは多分、どんな男も女性に対して同じような(この映画では主に暴力的であったり、男尊女卑的であったりの)性質を持っていることの比喩なのかと思いますが、それなら実際には別の顔の男たちなのかといえば、そうなるとクライマックスの説明がつかなくなります。

 脚本・監督のアレックス・ガーランドはクライマックスに登場するアレのことを「モンスター」と言っています。当たり前です。こんなグロテスクなことができるものが人間であるはずがありません。すべては主人公の夢だったのかと思えば、そういうオチにもなっていません。

 このモンスターは論理的には存在し得ないものです。すべて明快に説明してしまっては恐怖はなくなってしまいますが、ガーランド監督はそれを狙ったわけではないでしょう。「エクス・マキナ」(2015年)、「アナイアレーション 全滅領域」(2018年、Netflix)を見ると分かるように元々イメージ先行型で、話のつじつま合わせにあまり興味がないのではないかと思います。

 今年見た映画の中では「TITANE チタン」「LAMB ラム」と同じぐらい変なホラー。この2本に習ってタイトルは「MEN メン」で良かったのではないでしょうかね。一般的な評価は低いんですが、僕を含めて変な映画を好きな人は好きな映画だと思います。1時間40分。
 IMDb6.1、メタスコア65点、ロッテントマト68%。
 ▼観客2人(公開7日目の午前)