2023/01/08(日)「非常宣言」ほか(1月第1週のレビュー)

 「非常宣言」は韓国からハワイに向かう飛行機の中でバイオテロが起きるパニック・サスペンス。

 乗客150人というのは国際線の飛行機としては小さいです。犯人はわざわざ空港職員に乗客の多い飛行機を聞いてるわけですから、もう少し大きな飛行機を選べば良かったのに、自分がウイルスを体に仕込むところを目撃した少女が乗った飛行機を選びます。が、この犯人、飛行機の中で死ぬつもりであることが分かり、乗り込んでしまえば、目撃者なんてどうだって良いのでした。お前はサイコな上にバカか。いや、バカなのは映画の脚本・監督を務めたハン・ジェリムで、その後も穴だらけのストーリーが冗長に展開されていきます。

 70年代パニック映画群の洗礼を受けた者としては途中でアホらしくなりました。同じくウイルス絡みのパニック映画「カサンドラ・クロス」(1976年、ジョルジュ・パン・コスマトス監督)の方がよほど面白かったです。

 この規模の飛行機なら、国内線の設定で良かったのに、国際線にしたのはアメリカと日本の対応を入れたかったためでしょう。成田空港に無理矢理着陸しようとする場面にあきれ、自衛隊機が威嚇射撃する場面でさらにあきれました。民間機への威嚇射撃なんてあり得ませんし、着陸しても乗客を飛行機から出さなければ、感染を心配する必要もないでしょう。まだ恐ろしい感染症と信じられていた新型コロナ初期、日本は3700人以上の乗員・乗客がいたコロナ蔓延の豪華客船を横浜に入港させましたしね。

 韓国国内の着陸に対する手のひら返し描写もあまりに国民をバカにしてます。韓国国民は怒るべきでしょう。刑事役でソン・ガンホ、元パイロット役でイ・ビョンホンが出演していますが、名優2人の無駄遣いとしか思えない2時間21分でした。
IMDb6.9、メタスコア70点、ロッテントマト64%。
▼観客5人(公開日の午前)

「恋のいばら」

元カノと今カノの確執を描いて、筋に凝ったよくできた脚本だ、さすが城定秀夫監督と思ったら、香港映画「ビヨンド・アワ・ケン」(2004年、パン・ホーチョン監督。IMDb6.9)のリメイクとのこと。オリジナルは配信にも近所のTSUTAYAにもなかったので、レンタル落ちの中古DVDを注文しました(楽天で送料込み360円)。

 あまり知られていない映画のリメイクをなぜ企画したのか分かりませんが、城定監督はプロデューサーからの依頼で監督を引き受け、脚本を「愛がなんだ」「かそけきサンカヨウ」などの澤井香織が担当。それを城定監督がさらに日本向けにアレンジしたそうです。

 元カノ桃が松本穂香、今カノ莉子が玉城ティナ、2人が付き合った健太郎が渡邊圭祐というキャスティング。図書館で働く桃は別れた健太郎のSNSで莉子の存在を知って接近。「リベンジポルノって知ってる? 健太郎にヤバい写真を撮られているかもしれないから、パソコン内の写真を消すのを手伝って」と持ちかける。健太郎のクズっぷりも明らかになり、撮られたことに覚えがあった莉子は桃と協力し、合鍵を作って健太郎の家に忍び込もうとする、というストーリー。

 後半に意外な展開がありますが、反発し合っていた桃と莉子の関係が徐々にシスターフッド的になっていくところが良く、松本穂香と玉城ティナがそれぞれに魅力を発揮しています。きっちり楽しませる作品に仕上がっていました。1時間38分。
▼観客1人(公開日の午後)

「シスター 夏のわかれ道」

 疎遠だった両親が交通事故死し、幼い弟ズーハン(ダレン・キム)を引き取ることになった姉アン・ラン(チャン・ツイフォン)が徐々に絆を深めていく物語。両親は男の子が欲しくて、アン・ランを障害児と偽って2人目を生む許可を得ます。アン・ランの大学進学も希望していた北京ではなく、両親から地元の大学に変更されるなど、男児をありがたがる両親の態度が疎遠となった理由でした。

 小さな子供を使って泣かせるのは100年前の「キッド」(1921年、チャールズ・チャップリン監督)からある手法。この映画はあざとさが目に付きますし、描写もうまくありません。一人っ子政策や男尊女卑への批判も手ぬるいです。というか、政府批判の映画は中国では公開できないのでしょう。男尊女卑の描写だけ取っても「はちどり」(2018年)や「82年生まれ、キム・ジヨン」(2019年)などの韓国映画に負けています。

 1979年から2015年まで一人っ子政策を取っていた頃の中国で女児は売られたり、捨てられたりしていたそうで、ゴミ捨て場に大量の女児の遺体があった、というのがドキュメンタリー「一人っ子の国」(2019年、ナン・フーアン、ジアリン・チャン監督)で描かれていました。
2時間7分。IMDb6.6、ロッテントマト100%(ただし評価は5人だけ)。
観客8人(公開14日目の午後)

「マチルダ・ザ・ミュージカル」

 Netflixが先月末から配信している作品で、ロアルド・ダールの児童文学「マチルダは小さな大天才」を基にしたミュージカルの映画化。「ベイビーわるきゅーれ」の伊澤彩織が「凄すぎてしばらく頭から離れなさそうです。感動しました」と書いていたので見ました。元TBSアナの宇垣美里も「アトロク」で褒めてました。

 Wikipediaを引用すると、「卓越した天才的頭脳と超能力に目覚めた少女マチルダが家族や学校による障壁を克服し、また担任教師が人生を取り戻すことを手伝う物語」。原作は1996年にダニー・デヴィートが製作・監督・出演を兼ねて映画化しているそうですが、僕は見ていませんでした。2010年にミュージカル化され、2013年のトニー賞5部門で受賞しています。

 基本は子供向けなので油断して見ていたら、終盤、担任教師ミス・ハニーの身の上話の場面でグッと心をつかまれました。大人が見ても面白いです。子供を虐待する残忍な校長先生役をエマ・トンプソンが怪演。ミス・ハニーを演じるのは「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」で女性初の007となったラッシャーナ・リンチ。主人公マチルダ役はアリーシャ・ウィアー。監督は「パレードへようこそ」(2014年)のマシュー・ウォーカス。1時間58分。
 IMDb7.2、メタスコア72点、ロッテントマト92%。