2023/01/15(日)「映画 イチケイのカラス」ほか(1月第2週のレビュー)

「映画 イチケイのカラス」は2022年4月期に放送されたドラマ(全11話)の劇場版。ドラマのラストで主人公の型破りな裁判官・入間みちお(竹野内豊)は東京地裁第3支部第1刑事部(通称イチケイ)から熊本に異動になりました。映画はその2年後の設定で、みちおは岡山県秋名市に異動してきます。

 隣の日尾美町には2年前までイチケイでみちおと働いた裁判官の坂間千鶴(黒木華)が他職経験制度で弁護士として勤務しているほか、検事の井出伊織(山崎育三郎)も岡山に異動してきました。井出は裁判所事務官の一ノ瀬糸子(水谷果穂)と結婚しています。異動と交際ゼロ日婚の経緯はスピンオフの短編ドラマ「イチケイのカラス 井出伊織、愛の記録」(全5話)で描かれました。

 ドラマの方は楽しく見ていたんですが、映画は脚本に難があります。今回はイージス艦と貨物船の衝突・沈没事故とそれに絡む傷害事件を併合審理することになり、入間みちおがいつものように職権を発動して裁判所主導での捜査を開始。政府の妨害が入って、みちおは裁判長を解任されますが、事件の背後に日尾美町の住民7割が恩恵を受けている工場の存在があることが分かってきます。その頃、千鶴は人権派弁護士の月本(斎藤工)とともに、この工場の環境汚染を調べていました。

 劇場版というと、無駄にスケールを大きくしがちですが、その陥穽にすっぽり嵌まってしまっています。イージス艦と貨物船の衝突シーンは描かれず、沈没する貨物船のシーンは出来の悪いミニチュア撮影。しかし、それよりも工場の環境汚染と一部住民の関係がメインになっていることが時代錯誤的に思えます。昨年、米デュポン社の環境汚染を描いた映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」が公開されましたが、あれはテフロン加工の原料物質の環境・人体への深刻な影響を告発する経緯を描いた作品で、この映画のように規制物質を排出・隠蔽する無責任な工場を描いたわけではありません。

 千鶴と月本の淡いロマンスも通り一遍の描き方なのが残念。これは今回のメインにした方が良いエピソードで、黒木華の演技のうまさをもっと生かす構成にすべきだったでしょう。ひいきの西野七瀬の見せ場がないのも残念。ドラマのファンとしても残念すぎる出来の1時間59分でした。監督はテレビシリーズの演出も務めた「コンフィデンスマンJP」シリーズの田中亮。
▼観客50人ぐらい?(公開日の午前)

 14日に放送された「イチケイのカラス スペシャル」も見ましたが、やっぱり脚本がイマイチの出来。リアリティーを欠く部分が多すぎます。ゲストの中村アンと堀田真由は良かったのですが、やはりこのドラマはイチケイのレギュラーメンバーがそろわないと面白くなりませんね。

「夜、鳥たちが啼く」

 函館出身の作家・佐藤泰志原作の6本目の映画化。同棲中だった恋人に去られ、鬱屈とした日々を送る作家兼アルバイトの慎一(山田裕貴)が主人公。彼のもとに友人の元妻、裕子(松本まりか)が幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。裕子の夫が慎一の恋人と親しくなり、離婚に至ったということが徐々に描かれていきます。

 監督は城定秀夫。公開中の「恋のいばら」がエンタメなのに対して、こちらは純文学。私小説のような展開で僕は面白く見ました。城定秀夫は内容に即した演出をしており、引き出しの多さを感じさせます。ラブシーンの途中で「変な期待しないから」と言う松本まりかもベストの演技じゃないでしょうか。脚本は「そこのみにて光輝く」「オーバーフェンス」の高田亮。1時間55分。
▼観客3人(公開5日目の午後)

「ファミリア」

 在日ブラジル人が多い愛知県の団地を舞台に、陶器職人の神谷誠治(役所広司)とその息子(吉沢亮)、息子の妻のアルジェリア人(アリまらい果)、団地に住む在日ブラジル人の若者たちとのドラマを描いています。ネットのレビューでクリント・イーストウッド「グラン・トリノ」との類似を指摘した人がいましたが、確かにあの映画を思わせる内容。ただ、あの映画のイーストウッドと違って、若い頃にタフな生活を送っていた神谷の経験を生かした展開にはなっていません。

 アルジェリアの部分も不要で、息子の結婚相手は在日ブラジル人の設定にした方が良かったと思いました。アルジェリアでの息子夫婦の運命は、妻子をブラジル人の飲酒運転で亡くした半グレのMIYABIと、役所広司の対比をするために設定したのでしょうが、話を広げすぎた感が拭えません。監督は成島出。2時間1分。
▼観客4人(公開6日目の午後)

「怪怪怪怪物!」

 宮崎映画祭で上映している2017年の台湾映画。タイトルからホラーかと思いましたが、確かに怪物は出てくるものの、ホラー演出は少なく、高校でのいじめと絡めた内容がユニークです。出てくる怪物は元は人間で、ギザギザの歯で人肉を食べ、血で感染し、日光に当たると燃え上がってしまうヴァンパイアのような存在。高校生のグループが怪物姉妹の妹を捕らえ、いたぶった結果、姉の怪物が怒り、他の多くの高校生たちを惨殺する、という展開です。

 ユニークだからといって、必要以上に評価するのもどうかと思いますが、オリジナリティーのあるところは評価して良いと思いました。監督は日本でリメイクもされた「あの頃、君を追いかけた」(2011年)の監督・作家ギデンズ・コー。2017年の東京国際映画祭などで上映された後、一般劇場では公開されていないようですが、DVD・ブルーレイは発売され、配信でも見られます。僕はU-NEXTで見ました。1時間50分。
 IMDb6.3、ロッテントマト79%。

「やくたたず」

 宮崎映画祭で上映中の三宅唱監督2010年の作品。日本映画専門チャンネルで以前、録画したのを見ました。札幌の3人の男子高校生の姿を白黒で描いています。画面の構図や撮り方は良いんですが、話がさっぱり面白くありません。1時間16分。

「THE COCKPIT」

 これも宮崎映画祭上映の三宅唱監督作品(2014年)。同じく日本映画専門チャンネルで録画観賞。ヒップホップアーティストOMSBとBIMたちの楽曲制作過程を捉えたドキュメンタリーです。ほぼ固定カメラの前半が退屈ですが、完成した曲「Curve Death Match」を聞くと、あの過程も必要だったんだなと思えます。一般受けはしないでしょうが、ヒップホップが好きな人には興味深いかも。

 OMSBはアニメ「オッドタクシー」の音楽を担当した1人で、MVにチラリと出てきます。

「ビヨンド・アワ・ケン」

 「恋のいばら」の元ネタの2004年の香港映画。DVDで見ました。ほぼ同じストーリーで進みますが、終盤が少し違います。「恋のいばら」の方がうまいと感じました。ただ、あくまでもオリジナルの改善なので、オリジナルのアイデアを褒めるべきなのでしょう。ジリアン・チョンとタオ・ホンがケン(ダニエル・ウー)の元カノと今カノを演じています。パン・ホーチョン監督。1時間38分。
IMDb6.9、ロッテントマト76%(ユーザー)。

 楽天市場の店舗でレンタル落ちの中古DVDを買ったら、TSUTAYA(たぶん)のケースに入れたままのが届きました。ディスク自体に傷はなく、画質も良かったです。
「ビヨンド・アワ・ケン」ケース