2024/07/07(日)「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」ほか(7月第1週のレビュー)

 ドラマ「アンナチュラル」(2018年、全10話)をようやく見ました。面白いですねえ。「MIU404」(2020年)もそうでしたが、脚本の野木亜紀子はミステリーに詳しい人なんだなとあらためて思いました。不自然死究明研究所(UDIラボ)の面々が遭遇する個別の事件を描きながら、全体の物語として連続殺人事件の謎を描いていく構成は「MIU404」同様に秀逸でした。最終話の最後の字幕で続編を示唆していましたが、6年たっても実現しないのは主演の石原さとみが結婚・出産したからですかね? 来月公開の「ラストマイル」を楽しみに待ちたいと思います。

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

 クリスマス休暇の予定がなくなり、寄宿制の名門校で寂しく過ごすことになった生徒と教師、料理長の交流を描くドラマ。アカデミー作品賞など5部門の候補となり、料理長役のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞しました。アレクサンダー・ペイン監督作品。

 ボストン近郊にある寄宿制の名門バートン校に勤務する古代史の非常勤教師ハナム(ポール・ジアマッティ)は生真面目で融通が利かず、生徒たちからも校長や同僚たちからも疎まれていた。多くの生徒や教師が家族と過ごすクリスマス休暇で、ハナムは学校の寮に残る生徒5人の面倒を見ることを命じられる。生徒のうち4人はスキーに出かけたが、問題行動の多いアンガス(ドミニク・セッサ)は再婚した母親と連絡が取れず、行けなかった。ハナムとアンガス、ベトナム戦争で息子を亡くしたばかりの料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)はクリスマスを一緒に過ごすことになる。

 3人それぞれの身の上が徐々に語られていき、絆を深めていくのがお約束とは言え、とても心温まる展開。「サイドウェイ」(2004年)でもペイン監督と組んだポール・ジアマッティはクライマックスでキャリアのベストと思える繊細な演技を見せています(アカデミー主演男優賞ノミネート)。ドミニク・セッサはカーネギー・メロン大学演劇学部に在籍する学生で、オーディションで選ばれたそうですが、初の映画とは思えない演技です。

 時代設定が1970年なので、映画は開巻から70年代映画のような作りになっています。70年代にはこういう小品の優れた作品がたくさんあったような気がしますね。
IMDb7.9、メタスコア82点、ロッテントマト97%。
▼観客8人(公開初日の午前)2時間13分。

「おいしい給食 Road to イカメシ」

 人気テレビドラマの劇場版第3弾。過去2作より良い出来だと思いました。このシリーズ、話が給食から離れると、面白くなくなりますが、今回はそんなに離れなかったのが良かったのでしょう。

 1作目の舞台は1984年の常節(とこぶし)中学校、2作目は1986年の黍名子(きびなご)中学校、今回は1989年の北海道・忍川(おしかわ)中学校。いずれも1980年代ですが、そんなに時代色が出ているわけではありません。給食をこよなく愛するが、他人には知られないようにしている(と思っている)主人公・甘利田幸男を演じる市原隼人のオーバーな演技がすべてで、この演技がなければ、このドラマは成立しなかったでしょう。「もはや市原隼人の代表作と言っても過言ではない」(甘利田先生風に)

 ドラマのシーズン4を楽しみにしています。ヒロインの比留川先生(大原優乃)が沖縄に異動してしまったので次作は沖縄舞台かなと思いましたが、ヒロインは毎回代わっているので沖縄の可能性はないかな。
▼観客1人(公開5日目の午後)1時間51分。

「言えない秘密」

 ジェイ・チョウ、グイ・ルンメイ主演の同名台湾映画(2007年)のリメイク。これが公開された時、「秘密が言えないのは当たり前、言える秘密なんてないからタイトルおかしいだろ」と思い、見る気になりませんでした。というわけでオリジナルを配信で今回始めて見ました。明らかにオリジナルの方が良い出来でした。

 ピアノ留学から帰国した主人公・湊人(京本大我)が旧講義棟の演奏室で神秘的なピアノを奏でる雪乃(古川琴音)と出会い、惹かれ合っていくラブストーリー。雪乃にはある秘密があり、やがて湊人の前から姿を消してしまう。

 グイ・ルンメイと同じように新作の古川琴音はピアノを弾く姿を見せています(たぶん音は違うのでは)が、京本大我は弾いている時の手が映されません。旧作で監督・原作・音楽・主演を務めたジェイ・チョウはピアノが得意なのでこういうピアノが重要なストーリーを考えたのでしょう。見事な演奏を披露していました。京本大我は撮影前に練習時間もなかったのでしょうが、その前にこの題材を初主演映画に選ばなくても良かったのにと思います。

 詳細は省きますが、ストーリーは終盤が異なります。最初に自分が見た人しか自分の姿が見えないという設定は新作では気になりましたが、旧作ではほとんど気になりませんでした。古い楽譜の扱いも新作ではおざなり、重要な登場人物も2人出てきません。総じて、細部への気配りが足りていないのが残念です。脚本は松田沙耶。監督は「身代わり忠臣蔵」の河合勇人。それにしても、なぜ今頃リメイクしたのか謎です。
▼観客6人(公開4日目の午後)1時間54分。

「九十歳。何がめでたい」

 佐藤愛子のエッセイ「九十歳。何がめでたい」「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」を基にして前田哲監督が映画化。主演は実際に90歳の草笛光子で、俳優が自分の名前を冠して「生誕90年記念映画」と称する作品に出るのは初めて見ました。90歳以上で映画に主演する例は世界的に見てもかなり少ないと思います。

 映画はその草笛光子の元気さがまず驚きですが、作品の支えになっているのは編集者役の唐沢寿明。家庭を顧みなかったことから妻(木村多江)と娘(中島瑠菜)に突然、家を出られて戸惑いながら、90歳の作家との日々を好演しています。前田監督はユーモアあふれるハートウォーミングな作品に手堅くまとめています。脚本は「水は海に向かって流れる」(2023年)でも前田監督と組んだ大島里美。

 オダギリジョーや三谷幸喜、LiLiCo、石田ひかりらゲスト出演的な人が多くて楽しいです。
▼観客15人(公開13日目の午後)1時間39分。