2001/01/09(火)「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

 ヒロインが空想するミュージカルの場面のみ色鮮やかで、現実はざらざらした(銀残しのような)感触の色合い。過酷な現実を描く部分にまったく共感できない。救いのないストーリーが許せない。ラース・フォン・トリアーはミュージカルを本当に好きなのだろうか。「気持ちが高ぶって歌になり、歌が極まって踊りになる」というミュージカル映画の基本を表していたのは、わずかにビョークが「I've Seen It All」を歌う場面のみだった。

 映画の中で「ミュージカルって、なぜ突然歌ったり、踊り出したりするんだ」と登場人物の1人が話す場面があるけれど、この映画の終幕、裁判所や刑務所でビョークが歌い出す場面はこれに当たる。なぜここで歌い出すのか、失笑するしかないのである。

 この映画で初めてミュージカルに接する人がいたなら、それはとても不幸なことである。最初に経験すべきミュージカルはMGMでアーサー・フリードが制作したものでしょう。

 小林信彦は「ミュージカル映画はなぜつまらなくなったか」という一文でこう書いている。「ミュージカルというのは、社会性もヘタクレもない、歌や踊りを武器にして、現実と別の次元へ飛翔する人間の魂の自由の喜びの表現なのだから、そのような喜びのないミュージカルは、むしろ気の抜けたオペラというべきで、1930年代よりはるかに後退していると言わざるを得ない」。

 ラース・フォン・トリアーはミュージカルを分かっていない。その前に音楽も分かっていないし、映画的な技術も足りないのではないかと思う。でなければ、こんな物語をミュージカル的に作るわけがない。