2004/11/15(月)「コラテラル」
12年間タクシーの運転手をしているマックス(ジェイミー・フォックス)には夢がある。リムジンの会社を持つこと。タクシー運転手は本人にしてみれば、仮の仕事である。そんなマックスを見透かしたように殺し屋のヴィンセント(トム・クルーズ)が言う。「みんないつかは自分の夢が実現すると思ってる。しかし、何もしない。夢をどこかに置いて、テレビをボーっと見ている。そしてある日、鏡を見て自分が年を取ったことに気づくのさ」。
これと対をなすのが序盤にある女性検事アニー(ジェイダ・ピンケット=スミス)との会話で、翌日の公判を控えてナーバスになっているアニーにマックスは休養を取るよう勧める。自分は仕事中でもボラボラ島の写真を5分間見ることで休息していると言い、「これが必要なのはあんただ」と写真を渡す。そしてアニーは自分の名刺を渡すのだ(2人に交流が芽生えるこのシーンを見れば、クライマックスの予想は付く)。事件の巻き添え(コラテラル)になったタクシー運転手という本筋の話よりも印象に残るのはそんなセリフで、脚本のスチュアート・ビーティー、サスペンスとは別の意味でなかなかうまいと思う。マイケル・マン監督の映画としては特に出来がいいわけではないが、演出は的確であり、ひと味違ったサスペンス映画になっている。
マックスはアニーを降ろした後、同じビルの前でヴィンセントを乗せる。予測した通りの時間でヴィンセントを目的地まで送り届けると、マックスの腕を見込んだのか、ヴィンセントは600ドルで今夜行く数カ所への運転を依頼する。マックスが一休みしていたところ、ビルの窓から車の屋根に死体が落ちてくる。死体はヴィンセントが殺した男。ヴィンセントは殺し屋で今夜5人を始末するという。脅されたマックスは男の死体をトランクに入れ、次の目的地に向かう。死んだ男は麻薬組織の一員で、裁判の証人だった。男が消えたことで麻薬捜査官のファニング(マーク・ラファロ)など警察も捜査を開始する。ヴィンセントが3人目を殺したところで、マックスはヴィンセントの鞄を奪い、道路に投げ捨てる。中には標的の資料が入っていた。ヴィンセントは組織のボス、フェリックスに会い、標的の資料をもらうよう強要する。
タクシー運転手が主人公の映画と言えば、マーティン・スコセッシ「タクシー・ドライバー」がある。あの映画がニューヨークの風俗をつぶさに映し出したほど、ロサンゼルスの街がよく描かれているとはいえないのがちょっと不満な点。これは狙いが違うのだから仕方ないが、平凡な運転手だったマックスの変化も明確には描かれないのが弱いところか。クライマックスは5人目の殺しを阻止しようとするマックスとヴィンセントの対決になる。いくらヴィンセントがけがをしていたとはいっても、マックスに勝てる理由は見あたらないのも弱い。しかし、ジェームス・ニュートン・ハワードの音楽とディオン・ビーブの撮影はともにレベルが高く、映画に貢献している。
凄腕のタフな殺し屋を演じるトム・クルーズは、白髪交じりの髪に無精ひげのメイクでうまく役にはまっている。美男俳優が殺し屋を演じるのはアラン・ドロンを持ち出すまでもなく、かつては普通のことだった。冒頭、ヴィンセントが降り立つ空港の場面に「スナッチ」「ザ・ワン」のジェイソン・ステイサムが出てくる。ヴィンセントにぶつかって鞄を渡す男の役でパンフレットには名前が記載されていない(この映画のパンフはまったく詳しくない)。ゲスト出演か。