2006/06/26(月)「欲望」

 小池真理子はこの小説で直木賞を受賞したと僕は勘違いしていた。これではなく、この前の「恋」だった。「恋」を読んだ後、続けてこの小説を読んだので、混ざってしまっていた。

 「欲望」は1997年に出た本で島清恋愛文学賞受賞。それを篠原哲雄監督が板谷由夏主演で映画化した。高校時代に交通事故に遭い、性的不能になった青年と2人の女の物語。板谷由夏扮する青田類子は中学時代から正巳(村上淳)が好きだったが、正巳は美人の阿佐緒(高岡早紀)を好きだと思っている。3人は事故後、会っていなかったが、31歳年の離れた精神科医(津川雅彦)と阿佐緒が結婚したことで再会を果たす。正巳が不能であることを阿佐緒は知らない。類子には不倫相手がいるが、徐々に正巳への愛を確信していく。そういうシチュエーションで悲劇的な物語が展開する。

 映画の出来としては悪くはないが、誤算は村上淳が美青年と呼べるほどハンサムではないこと。「君は完璧な美しさを持った青年だ」と津川雅彦が言うほど美しいとはとても思えない。この役は木村拓哉あたりが演じないとダメではないか。完璧に美しいのに性的不能という悲劇が村上淳程度では際だたないのだ。だいたい、あのお尻の刺青はなんだ。

 不能であっても欲望はあり、はけ口がない分、苦しむことになる。そういう部分がメインになるのかと思ったら、やはり女性視点の映画なので、限界はある。

 R-18指定だが、「マンダレイ」ほどどぎついシーンはない。原作者の小池真理子はこの映画のラブシーンが「いやらしくない」と褒めていたが、こういうのって、いやらしくないと(という言い方はいやなので、もっと官能的じゃないと)不能の悲劇性も浮き彫りにならない気がする。篠原哲雄の演出は女性客を意識したのか、極めて上品。根岸吉太郎あたりなら、思い切り官能的にしてもっと切実さを出したと思う。

 板谷由夏は「運命じゃない人」の方がきれい。この人、ショートカットの方が似合うのではないか。

2006/06/22(木)「岸和田少年愚連隊」

 中場利一原作を映画化した1996年の井筒和幸監督作品。

 今見ると、「パッチギ!」よりは随分落ちる印象。喧嘩に明け暮れる2人の中学から高校までの話。ホントに喧嘩だけの話でそれ以外の要素が少ないことが弱さにつながっている。それでもキネ旬6位だが、評価が甘いのではないか。岡村と矢部が中学生にはとても見えず、高校生の話かと思っていた。

 1975年の大阪が舞台。「パッチギ!」同様に当時の歌が流れるけれど、それほどの効果は上げていない。「イムジン河」のような核になる歌がないからだろう。

2006/06/20(火)「神々の深き欲望」

 今村昇平監督の1968年の作品(キネ旬ベストテン1位)。前回見たのはビデオで20年近く前だった。その時ほどの驚きはないが、土着的な生と性を突き詰めると、こういう神話的な世界になるのだなと思う。「楢山節考」もこの路線の映画である。映画のラストはホラー映画だったら、ここからクライマックスになるところ。当然そうはならず、幻想的な雰囲気を残して映画は終わる。

 出演者の名前に長谷川和彦があったので目を凝らしてみたが、分からず。夜ばいをする青年役らしい。長髪にサングラスじゃないと、分かりませんね。

2006/06/11(日)「鴛鴦歌合戦」

 1939年のマキノ正博監督作品。戦前のキネ旬はこうした娯楽映画をまったく評価していないのでベストテンには入っていない。「日本映画作品全集」も見たが、触れられていない。1980年代に再発見されて評価が高まったという。いわゆるカルト的な作品なのだろう。

 「僕は若い殿様~」とディック・ミネのバカ殿様が登場するところからおかしく、登場人物が次々に突然歌い始める唖然とする映画。志村喬と片岡千恵蔵も歌う。これまた女優陣が総じて良く、好感の持てる作品だった。しかし、睡魔が襲ってきた。ところどころでうつらうつらとしながら見たのが残念。何度かBSで放送されたらしいし、DVDも出ている。見直してみたい。

2006/06/11(日)「間宮兄弟」

 兄弟の小さな失恋を除けば、事件らしい事件も起きない映画だが、微妙なおかしさがいい。過去の森田芳光映画の中では「の・ようなもの」に一番近い。沢尻エリカと北川景子の姉妹をとてもキュートに撮っているのはさすが森田監督。特に北川景子は、美穂純に似た感じがとてもよろしい(美穂純はああ見えて、とても読書家なところに僕は好感を持っている)。

 戸田菜穂と常盤貴子も良く、女優に関しては文句がない。出来としては「の・ようなもの」の方が上と感じるのは間宮兄弟の描写にやや人工的な部分があるからか。「の・ようなもの」は主演の伊藤克信の素のおかしさが映画にマッチしていたが、この映画の場合、佐々木蔵之介と塚地武雅はやや作った部分が見受けられるのだ。でも、僕は好感を持った。