2006/08/06(日)キネ旬8月下旬号
「紙屋悦子の青春」公開に合わせた黒木和雄監督の追悼特集がある。作品特集と合わせて27ページ。これだけのページを割かれるということは一流監督だった証だろう。
昨年11月のインタビューが掲載されていて、最後の言葉は「この作品が終わったら、何とか、山中貞雄(を映画化する企画)を実現させたいんですがね」で終わっている。無念だっただろうと思う。ぜひ見たかった作品だった。
特集記事の中では佐藤忠男の評論「挫折にこだわり続けた映画作家」が読ませる。最後の3本「美しい夏キリシマ」「父と暮せば」「紙屋悦子の青春」の脚本家・松田正隆は黒木監督の「TOMORROW 明日」を見て劇作家を志したのだという。その松田正隆に黒木監督が「キリシマ」の脚本を依頼したのは「紙屋悦子の青春」の舞台を見て感動したから。必然的な出会いだったのではないか。
原田芳雄のインタビューも面白かった。「浪人街」から「スリ」まで10年間のブランクの間に黒木和雄は大病をするが、そのことで「自分には時間がない」と思い始めたのではないか、という推測はなるほどと思う。自伝的な「キリシマ」を撮った後に脚本が完成している戯曲の「父と暮せば」「紙屋悦子の青春」を選んだのはそのためだろうと、原田芳雄は語っている。
2006/07/07(金)名画座とDVD
名画座が機能しなくなったのはビデオが本格的に普及した1980年代からのように思う。ビデオやDVDがあるから名画座なんていらないやと思うのは早計で、名画座は上映する映画のセレクションに意味があった。3本立ての旧作を選ぶのに監督特集やジャンルの特集を入れて系統立った見方をすることができた。観客としては名画座のセレクションを信頼しておけば、それなりに映画の蓄積はできたと思う。もちろん、これには名画座の経営者なり支配人の確固とした目が必要だ。
今、DVDで旧作を見る場合、そういうセレクション(見るための指針)が乏しいのが難点だろう。ガイドブックはあるけれど、普通の観客(というかレンタル店の利用者)は本を買ってまで映画を勉強しようとは思わないだろう。勢い、レンタル店のお勧め文などに頼ることになるが、旧作の場合はそういうものはないし、あっても信頼できない場合が多い。それにガイドブックのたぐいは洋画も邦画も含めた名作紹介が多いのでジャンル作品を追いかけるにはユーザーの姿勢も関係してくる。
こんなことを思ったのはDVDで「いつか読書する日」を見たから。50代の忍ぶ恋を描いた静かな映画で、端正な演出はなんだか成瀬巳喜男を思わせる。キネ旬の特集を読み返してみたら、監督の緒方明、やはり成瀬巳喜男が好きだと言っている。緒方明は僕と同い年なので、成瀬巳喜男をリアルタイムで見たわけではない。たぶん、名画座で成瀬に出会い、作品を集中的に見たのだろう。
今、名画座の役目を肩代わりしているのは毎週テーマを決めて映画を放映しているNHKのBS2かもしれない。ただ、テレビの場合、特集するといってもなかなか毎日見る時間もないのがつらいところだ。つまらなければ、途中でチャンネル変えてしまう。つまらなくても最後まで見る(羽目になる)映画館とはそこが違う。
2006/07/03(月)「神の左手悪魔の右手」予告編
楳図かずお原作、金子修介監督作品で22日公開。金子監督は売れっ子だなあ。故那須弘之監督の後を引き受けたとか。脚本も変えたのだろうか。そこが気懸かり。主演は「デビルマン」つながりで渋谷飛鳥(「デビルマン」のミーコ役)。
予告編を見た限りでは普通のホラー。監督は自分のブログで「コワイですよ~」と書いている。公開規模から言えば、「Death Note」はメジャーだが、これはマイナーで、全国8館でしか公開されない。順次公開拡大していくのだろうが、DVDで製作資金回収すればいいか、という映画なのでは。
2006/04/12(水)黒木和雄監督死去
6時すぎに共同通信のサイトを見て知った。75歳だったという。突然だったので驚いた。遺作は8月に岩波ホールで公開される「紙屋悦子の青春」になるのか。
何度かお会いしたことがある。物腰は低いが、芯はガチガチに硬派の人だった。徹底的に反戦の思想を貫き、それが結実したのが戦争3部作だったのだろう。僕は「美しい夏キリシマ」(キネ旬1位)は「祭りの準備」よりは劣ると思うけれど、自伝的要素を含んでいることを考えれば、これを代表作に挙げても構わない。
次の「父と暮せば」の充実度も反戦の強い意志が根底にあったからだと思う。近年の作品は傑作ばかりだった。庶民を主人公にした作品が多かったので存在は地味だったけれど、巨匠と言って差し支えないと思う。長年、映画化を希望していた山中貞雄の生涯を題材にした作品が撮れなかったのが心残りか。合掌。