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ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハのデビュー作で短編集。聞きしに勝る凄さ、面白さだ。ミステリマガジンの書評には倒叙ミステリとあったが、弁護士の「私」が担当した事件ファイルといった趣である。作者自身、刑事弁護士だそうで、実際の事件から取り入れた題材もあるのだろう。
11の短編が収められており、最初の「フェーナー氏」でノックアウトされる。72歳の医師が犯した殺人。その殺害シーンはこんな風に描写される。
最初の一撃で頭蓋骨がぱっくりひらいた。致命傷だった。斧は頭蓋骨の破片とともに脳みそに食い込み、刃が顔をまっぷたつに割っていた。イングリットは地面に倒れる前に死んでいた。斧が頭蓋骨からうまく抜けず、フェーナーは彼女の首に足をかけた。それから斧を二回大きく振り下ろして首を落とした。監察医は事件後、フェーナーが腕と足を切断するため、斧を十七回振り下ろしたことを確認した。
この小説の魅力はこうした簡潔で怜悧な刃物のような文体だ。シーラッハは短い文で描写を重ね、独特のリズムで物語を構築している。わずか14ページの短編だが、密度が濃いのはこの文体の効果でもあるだろう。フェーナーという男の性格と、その性格が要因となる同情すべき悲惨な人生を浮き彫りにする手腕は見事。
この短編集で描かれるのは犯罪に手を染めた人たちの人生であり、その複雑な理由であり、不可解さだ。そこに魅了される。読者は描かれる犯罪に驚愕し、共感し、同情し、恐怖し、怒りを覚えることになるだろう。さまざまな情動を引き起こすからこそ、この短編集は傑作なのだ。
三つの文学賞を得たそうだが、そんなことには関係なく、小説好きには必読。ドーリス・デリエ監督によって映画化が予定されているという。