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2017年09月03日の記事

2017/09/03(日)「ワンダーウーマン」

 女性の連続殺人犯アイリーン・ウォーノスをリアルに描いた「モンスター」の監督がなぜ「ワンダーウーマン」を監督するのかと思ったが、意外なことにパティ・ジェンキンスは以前から「ワンダーウーマン」の映画化を望んでいたのだという。子どもの頃、あのリンダ・カーター主演のテレビシリーズを熱心に見ていたのだそうだ。この映画の成功はジェンキンスを監督に起用して女性視点を取り入れたことと、大柄でシャープなアクションが可能なガル・ガドットを主演にしたことに尽きると思う。

「ワンダーウーマン」パンフレット

 物語は「バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生」を受けた設定になっている。ワンダーウーマンことダイアナ・プリンスにバットマンことブルース・ウェインから手紙が来る。「ようやく原版を見つけた」と書かれた手紙と一緒にあったのは第一次大戦中に撮影したと思われるモノクロの集合写真。その中央にダイアナがいた。そこから映画は回想でダイアナの過去を振り返る。

 ダイアナの故郷は深い霧で外界から遮断された島セミッシラ。そこには女性だけのアマゾン族が住んでいた。ダイアナは女王ヒッポリタ(コニー・ニールセン)の娘で、粘土の人形に大神ゼウスが命を与えて生まれたとされていた。叔母のアンティオペ将軍(ロビン・ライト)から闘いの特訓を受けて成長したダイアナは自分の不思議な能力に気づいていく。ある日、島の近くで小型飛行機が墜落する。飛行機を操縦していた米軍兵士のスティーブ・トレバー(クリス・パイン)を助けたダイアナは外界で戦争が起きていることを知る。スティーブを追って島にもドイツ兵がやって来る。世界で2500万人もの犠牲者がいると知ったダイアナは戦争を即刻止めるため、そしてドイツ軍を操っているらしい軍神アレスを倒すためにスティーブとともにヨーロッパの最前線へ向かう。

 ドイツ兵を相手にダイアナが見せるアクションが良い。ここまで伏せてきた(本人も知らなかった)本当の力を解き放ち、超人的なアクションを見せつける。いや既に「バットマン VS スーパーマン」でもダイアナはスーパーマン並みの力を披露していたのだけれど、時代はこの映画の方が古いわけだし、アクションの見せ方にもメリハリがあるのだ。アクションは演出次第なのだとあらためて思う。

 ピュアな環境で育ったダイアナはピュアな思想を持っている。ダイアナが戦うのは世界平和を守るため。そんなことを大まじめに言ったら今では冷笑されてしまいそうだが、戦場で負傷した兵士や逃げ惑う人々を見て強い怒りを見せるダイアナの姿はその言葉に説得力を持たせる。この映画が一直線に力強いのはダイアナのそうしたぶれないキャラクターがあるからだ。これは純粋な女性が自分の役割を自覚し、自己実現を果たす物語にもなっている。

 残念ながら、イスラエル軍で兵役経験があるガドットの過去の経歴と発言のため、中東では映画の上映中止や延期が起きたそうだ。レニ・リーフェンシュタールを持ち出すまでもなく、映画はプロパガンダの有効な手段だから、イスラエル軍の残虐行為を肯定する女優が主演する映画はイスラエル軍のPRになるとする意見が出てくるのは仕方ないことなのかもしれない。

 だが、映画の中でダイアナ=ワンダーウーマンの行動原理となっているのは戦争の犠牲となる弱い人々を救うことであり、ピュアな人道主義にほかならない。観客は映画のキャラクターとそれを演じる俳優を同一視してしまいがちだが、それが間違いであることは言うまでもない。現実のガドットがどうあれ、ダイアナの怒りはイスラエル軍にも向かうものだろう。